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『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介

芥川賞には時々、価値観をリニューアルさせる小説があるけど、『スクラップ・アンド・ビルド』はそんな作品だった。

「早う死にたか」
毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。
日々の筋トレ、転職活動。
肉体も生活も再構築中の青年の心の内は、衰えゆく生の隣で次第に変化して……。

閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!

文藝春秋


死の捉え方が私にとって新鮮だった。
孫は祖父を殺したい訳ではない。願いを叶えてあげたいだけ。簡単に殺人とはならないこの、地道な殺し方をどう捉えたら正解なのだろう。

自分がいつも好んで読むようなジャンルでは無いけど、良い小説だと思った。ユーモアがあって笑えるのだ。例えば、

柔らかくて甘いおやつという目先の欲望に執着する人だからこそ、目先の苦痛から逃れるために死にたいと願うのだ。

p.30 l.11〜12

「おじいちゃんのこと、好き?嫌い?どっち?」と主人公に聞きたくなった。どっちつかずな態度を取り続けるから。家族の形が輪郭だけにならないで、と祈り続けた。

この作品の肝は、行動を飛び越えた主人公の感情。

主人公は祖父が「生」にしがみついていると分かったとき、「死にたい」が一体なんだったのかと立ち止まる。

祖父が「生きたい」と思ったとき、今まで自分のやってきた事は人殺しに変わってしまう。それだと困るから、「死にたい」と思うように印象操作を始める。自分の若い肌を見せる、とか。そこにモヤモヤを感じた。

主人公の感情を、場面ごとに都度考えることがこの小説の一番面白いところ。合理的且つ理論的な行動の根本は、彼の感情で全て動いていることを実感させる。

羽田圭介さん、今回が初読みだったけど結構読みやすかった。もっともっと難しいイメージだった。真面目に考えて移した行動がしょうもないから面白かった。そういうところを芥川賞では評価されたんじゃないかな。

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