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ベーシックインカム導入のジレンマ

 ベーシックインカムの導入の是非について、ちょくちょく目にするようになってきました。外国でも一部導入をテストしてみたりしているみたいです。個人的には賛成ですが、この辺は賛否両論というか、実際に政府が検討するようになったら大騒ぎになるでしょうね。

 生活保護制度もしくは年金制度の代替案というか、社会福祉の観点からいって一つの解決策ではありますが、実際に導入するとなると相当ハードルが高いでしょう。

 財源をどうするのかとか働かなくても収入があるという道徳面での問題はないのかとか散々議論することになるでしょうし、議論することは良いことだと思いますが、本当に導入しようとすると、財源的な理由や二重の収入を防ぐ観点から、現時点で生活保護や年金の給付を受けている人達にしてみれば、おそらく現行制度より収入は減るはずです。まさしくその理由によって、ベーシックインカムの導入は出来ないのではないかと思います。

 将来的な年金破綻や生活保護制度の不公平是正のために年金や生活保護に変わりベーシックインカムを導入しようとしても、まさに今、受給している人達は必ずその変革に反対します。特に高齢者は選挙で間違いなく野党にと評するでしょう。導入を実現するには反対を減らさないといけません。そのような状況は、年金受給者である高齢者及び生活保護受給者である貧困層が減少して反対者自体が減れば実現しますが、そもそもそのような状況が実現したら年金や生活保護制度の問題が目立たなくなりますから、ベーシックインカムを導入しなくてもいいじゃないか、ということになります。

 これは民主主義国家におけるジレンマということなんでしょうが、現在は大丈夫だが将来に備えて現状を変更する政策は、民主制の下では成立しえない、ということになってしまいます。既得権益者が反対する一方で、将来的に利益を得る人達は支持に確信を持てないためぼんやりとした支持になります。その導入でメリットはあるけどデメリットもあるなあ、と導入で利益を得るはずの層が迷う状況を作ってしまえば、反対者達の勝ちです。ベーシックインカムで例えれば、「働かざる者食うべからず」という道徳に反するとか、就業者が減って企業が潰れるとか問題点を指摘して、年金や生活保護の現状より問題は大きいぞ、と思わせてしまえば、新規政策は導入できないでしょう。

 逆に、ベーシックインカムのような抜本的な改革を導入するためには、現状の問題点を非常に大きく見せてアピールする必要があります。このままだと年金破綻するとか、生活保護の適用が不公正だとか、失業が怖くてブラック企業から抜け出せないとかいった感じです。

 しかし、現状をことさら批判すると結局はその現状を作り維持している現行政府の方針を批判することになり、自分で自分の首を絞めるようなことになってしまいますので、ここにもジレンマが存在します。

 かつての自民党は派閥争いが激しく、党内党とも言われて弊害も大きかったですが、政権を握る派閥が代わることによって、政権交代をすることなく政策転換出来たというメリットもありました。今の自民とは事実上、かつてのような派閥が存在せず、緩やかな団体が複数ある状態です。幅広い政策・思想をもって政権運営している点はあまり変わっていませんが、今の政府方針を批判して取って代わる派閥のような存在はありません。かといって野党が取って代わるほどの勢力は持っていませんし、たとえ自公政権が衆院で過半数割れしたとしても、野党連立内閣がベーシックインカムのような大議論を巻き起こすような政策をスムーズに実行できないでしょう。今の自公政権よりも寄り合い所帯になるのは間違いないですから。

 冒頭にも書きましたが、ベーシックインカムを導入した外国が大々的に成功して、世論もマスコミも「これからはベーシックインカムの時代だ!」というような雰囲気にならない限りは、日本でベーシックインカム導入議論が本格化することはないんじゃないでしょうか。なんか外圧頼みのように思えますが、そもそも幕末以降、日本という国が大きな方向転換をするのは必ず外圧があってのことでしたから、逆にその外圧を上手く利用するくらいでちょうど良いのかも知れません。

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