プーチン院政を封じ込められるか
ロシアのプーチン大統領が、自身の大統領任期切れの後も国会議長になって権力を握り続けるのではないか、と推測がされています。実際どうなるかはまだ分かりませんが、大統領を退いた後に全ての権力を手放して田舎でひっそりと余生を過ごす、ということはないでしょう。権力への執着心もさることながら、権力を手放した後に待っている、独裁の被害者からの報復を防ぐ必要があるはずです。
日本におけるかつての田中角栄や竹下登のように、与党内の最大派閥の長としてキングメーカーになるのと似ているのでしょうけれど、大きな違いは法的に裏付けのある立場なのかそうでないのか、ということです。この辺は日本と欧州の違いなのかも知れませんが、プーチン大統領が院政を敷くにしても法的根拠が必要だと思っているのでしょうし、そうしないと周囲の部下やロシア国内を納得させられないと判断したのでしょう。
80年代の改革開放路線を成功に導き、現在の世界第二位の経済をもたらした中国の鄧小平は、国家主席でなくなった後も中国の究極の権力者であり続けました。始めは党中央軍事委員会主席の地位を持っていたのでクーデターの心配もありませんでしたが、それも89年には手放していました。それでも数年後に亡くなるまで影響力を持ち続けました。日本とロシアの比較よりも、東アジアと欧州の権力構造の違いなのかも知れません。
院政の構造はともかく、プーチン「大統領」からプーチン「議長」になると、国際舞台に出てくることはほぼ無くなります。まさか外交や安保・軍事問題を少なくとも公的に、対外的な対処を議長が行う国など存在しません。大統領なり首相なりがプーチン議長の方針に反しないように行うことになるでしょうけれど、いちいち国内にいるプーチンの顔色をうかがう大統領と、諸外国はまともな関係を結ぶでしょうか?
プーチンは議長として国内の権力は維持し続けるでしょうけれど、国外への影響力は確実に減るでしょうし、ロシア自体が諸外国からの信頼も失い、また国際問題への迅速な対応も出来なくなるのではないかと思います。
権力構造が欧州基準から見て整理されていないようになるのは、本質としてロシアは半分ヨーロッパで半分アジアであるとも言えるからでしょう。ユーラシア大陸の東端から西端に近いところまで続いている超巨大国家であり、かつてロシア帝国が成立する以前はモンゴルに支配されていたことも、アジア的要素がある理由でしょう。
そのロシアでは、アメリカの敵対的姿勢に呼応するかのように軍事力を増大しようとしています。
ロシアに先を越された極超音速兵器の開発急ぐアメリカ
https://newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/post-92330_1.php
核兵器とはまた違う種類の、防ぎようがない兵器の開発でロシアが先行しアメリカが追うという展開になっています。アメリカと軍事同盟を結び、ロシアとは領土問題を抱えている日本としては不穏な展開ではありますが、この「ロシアが先行しアメリカが追いかける」という構図は、1950年代〜80年代までの米ソ宇宙開発競争と同じです。
スプートニク1号の成功でアメリカよりも優勢に立っていたソ連は、ジョン・F・ケネディ大統領のアポロ計画、そしてスペースシャトル、最後はレーガン大統領のスターウォーズ構想と立て続き猛スピードで進むアメリカの宇宙開発についていけず、結果的にソ連崩壊となりました。
過去の結果を必ずなぞるとは限りませんが、今も昔も米露の経済力格差は大きいです。国家としての経済力に大差があるので、ロシアがアメリカに対して圧力をかけられるほどの軍事力を維持伸長させるには、いわゆる「無理」をしなければいけません。具体的には、国民の福祉や社会インフラの整備に回すべきお金を軍事に回すしかありません。
かつてのソ連もそうでした。最初はその無理が効果を発揮して、ソ連はアメリカ始め西側陣営に対して匹敵もしくは上回っていると相手に思わせることが出来ました。しかし、無理は長く続きません。ソ連は国民に対して経済発展させるインセンティブを与えられず、様々な制度上の問題もあって経済力の差は米ソ間で開く一方となって最終的にはアメリカの勝利に終わりました。
国民生活が豊かにならない軍事偏重国家は、短期的には国際社会でその軍事力を背景に影響力を持つことが出来ますが、長期的には自由主義・資本主義・民主主義国家の成長に敗れることになります。それはソ連に限らず、戦前の日本やナチスドイツも同じです。国家のリソース配分が間違っているのです。
もちろん、このロシアの新兵器が日本やアメリカに全く関係ない、というつもりはありません。慢心と油断が悲劇を招くのは、同じく戦前のドイツに対する宥和政策の失敗を見れば分かります。最終的にドイツを打倒したとはいえ、早い段階で備えていればフランス占領やロンドン空爆は防げたかも知れないのです。
プーチンの野望を暴発しない程度に封じ込め続けるのが、当面の日米の対露対策となるでしょう。問題は、ロシアにがっぷり四つで挑みそうなトランプ大統領でしょうか・・・。
トランプ政権、社会保障費を大幅削減し国防費増加-21年度予算教書
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-02-10/Q5GJYDT0G1KW01
悪い意味でプーチンと良い勝負になりそうな感じです。
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