廃業の悲劇は廃業の先にある
昔、実家では小さいながらも会社を経営していまして、私も働いていました。時に利あらず、会社の業績も悪いままで、業界自体も右肩下がりだったので結局は廃業することになりました。
資金繰りが出来なくなっての倒産という形ではなく、まだどこにも迷惑をかけずに負債を整理できる状況での自主廃業でしたので、それほど悲しく辛い思い出でもないのですが、まあそれでも数十年続いた会社をたたむのは良いお話には決してなりません。
そうしたかつての経験を持つ者としては、この1年強のあいだ続いているコロナ禍で苦しむ経営者には同情すると共に、潮時を感じて廃業した人もいるのだろうなと思ってしまいます。
大きな負債を残さずに自主廃業出来るうちに辞めてしまおう、と考えた経営者も、今回のコロナ禍では結構いたのではないでしょうか。
倒産よりは運営上の余裕はあるけれど、先の見通しが全く立たないので店をたたむ、いわゆる自主廃業に関しては、突然の倒産ほどの悲劇性はありませんが、それでもやはり悲しい話です。
コロナ禍に遭う前からずっと経営が苦しい状況で、いつかはたたむことになるのかなあと思っていたら、今回のコロナ禍が悪い意味での良いキッカケになってしまったとも言えます。
自主廃業であれば、突然シャッターに貼り紙をして後は弁護士任せ、あるいは夜逃げというわけではないので、そこで働いている人や取引先や金融機関とも話をしたり準備をしたりする日数もあるはずです。
少し先の日付を決めての廃業そのものは、メディアや政治家が騒ぐほどの困窮さはありません。もちろん悲劇ではあるのですけれど。
むしろ本当の大変さはその先にあります。廃業しても経営者や従業員はまた別のところで働いて収入を得なければなりません。新しい勤め先があるかどうかが問題です。
私の場合は、廃業したのは社会的に大きな事件や災害が起きたタイミングではなく、普通に次の勤め先も数ヶ月もしないうちに決まりましたが、このコロナで大半の業界・業種・企業が先の見通しが立たない時代では再就職も容易ではないはずです。
それでもまだ、負債が無いだけでも経営者にとってはマシでしょう。
いわゆる倒産、資金繰りが立ち行かなくなり、経営者の自己破産が含まれる零細企業の倒産については大変です。金融機関はある意味、リスクを背負って貸し出していますし、保証協会が入っていれば銀行自体には損失はありません。保証協会の運営には自治体からの資金も入っていますので、回り回って市民に負担が行くことにはなるのですが、社会維持のための運営コストでもあります。
しかし、経営者本人はやはりデメリットというか自己破産に伴うペナルティが存在します。返済条件を変更して、少しずつ長い時間をかけて返済するように保証協会と交渉することもありますが、それはそれで結局、今後の生活の資金が減ることになります。
経営者は上手く行った時に儲けられるのだから、ダメなときのマイナスのリスクも背負う、というのは理屈としては分かります。全く責任を取らなくていいとまで言うつもりはありませんが、それでも経営資金の融資を受ける際の連帯保証人制度は経営者やその家族・親族への負担が大きいです。
今は一昔、二昔前に比べると、連帯保証人制度は大きく変わりました。まだ廃止になったわけではないですし、廃止したらそれはそれで保証してもらう側の企業の経営に大きな影響が出てしまいますので、すぐには替えられないのは理解出来ます。
ただ、経営に関わっていない人間が、経営による負債の全額を背負いかねない連帯保証人になることの不自然さは、やっぱりおかしいですよね。
法改正でなんとか変わっていきつつありますが、起業のしやすさを高めていきたいなら、廃業のしやすさも同様に高めていかないと、結局は起業する人はあまり増えないんじゃないでしょうかね。
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