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内政干渉と環境保護と国家主権について

最近はブラジルと言えばボルソナロ大統領がコロナウイルス対策をろくに行わないというニュースばかり目にしますが、ブラジル連邦共和国の国土の多くを占めるアマゾン川流域の密林地帯の環境破壊は今も進行中です。

アマゾン森林破壊が加速、1~4月は前年同期比55%増
https://www.afpbb.com/articles/-/3282338

地球規模にも悪影響が及ぶ森林破壊に対しては、諸外国や国際機関がこれまでに何度も注意や批判を行ってきましたが、大統領は一向に意に介さず、経済発展のためとしてアマゾン川流域の開発を続けています。

日本人として、あるいは地球に住まうものとしては勘弁してくれよと言いたくなるところではありますが、ブラジル人・ブラジルに住んでいる人からすればどうなんでしょうか?

国民から選挙を通して選ばれた大統領が、ブラジルのために行う政策として開発を行っているのですから、ブラジルの中でも歓迎している人もいるでしょう。それは大統領シンパとして特別に権益を分け与えられる人達だけではなく、単にブラジルにとって開発は良いことだと思っている人も多いのではないでしょうか。

外国・地球にとっては悪影響だから開発を止めたとして、その代わりに必要なブラジル経済の発展は代替可能でしょうか? 代替できなければ、アマゾン破壊を止めるインセンティブはブラジルの大統領のみならず国家としても存在しないのではないでしょうか?

個人的には密林破壊を認めたくはありませんが、じゃあその代わりにブラジル経済を発展させろ、と言われると返す言葉がありません。それ以外の方法を提示しないとそれこそブラジル国民も納得出来ないでしょうし、外国の意見を取り入れて経済発展を止めてしまえば、それこそ大統領が国民から逐われてしまうということもあり得ます。

はっきり言うと、ブラジル国内の森林破壊を外国政府や国際機関がストップする権利はあるのか、ということです。

もちろん、ストップしないと将来的にエラいことになってしまうのですが、じゃあどうやって止めるか、という問題があります。本当にこの森林破壊がブラジル国民の多数の支持を得ているかどうか、という観点での問題はあるかも知れませんが、もし同意を得ていたらブラジル国外から止める術は無くなります。せいぜいが強く非難する程度で、経済制裁をするにしてもそれでブラジル経済が停滞したら尚更、アマゾン開発を行って経済維持を企みかねません。だからといってこれを理由に武力行使などするわけにもいかないでしょう。

内政干渉をしないことと、国際間の環境保護は両立出来るのでしょうか?

ブラジル国内にある森林の開発を、外国がストップすることは法的や倫理的に正しいのでしょうか?

国家主権に対する国際的な干渉は、大国と言われるアメリカ、中国、ロシアなどはよく行っていますが、安保上の問題が原因です。被干渉国における環境破壊を理由に何らかの制裁を加えるということは、実質的にも国際法的にも非常に難しいでしょう。

国家主権の在り方がいろいろ問われる時代になってきました。EUはイギリスの離脱以前にも、ギリシャの経済危機や大量の移民・難民問題においても結束が緩みかねない危機を抱えています。イギリスが離脱する理由として、漁業における制限や移民(シェンゲン協定には加わっていませんが)による治安・失業問題、ユーロ参加国は独自の金融政策が取れないことなど、同意の上とはいえ国家主権が国際組織にいろいろな権利を譲ることが問題でした。

EUとは別の形で主権の在り方を問うているのが香港問題です。1984年に出された英中共同声明によって、それまでイギリスが租借していた香港を中国が正式に取り戻すことを決めましたが、その中における一国二制度を、先日決定した香港国家安全維持法が破壊するのではないかと騒がれています。

おそらく、中国にしてみれば、そもそもイギリスの植民地支配が問題だったと考えているでしょう。先の一国二制度についても方便として認めただけで、香港ははるか昔から中国のものであって一国二制度など無効だと言い張るかも知れません。BLM運動が過去の歴史の再清算を行っているように、過去の帝国主義的植民地支配に関しての歴史を否定する動きが始まらないとも限りません。

香港に対する中国共産党政府が支配を強めることについても、最終的には欧米諸国は中国に対して何も強制できないでしょう。せいぜいが、香港政府に与えていた貿易上の特権的扱いを無くすことくらいです。それによって中国政府にダメージを与えられるかも知れませんが、同じくらいのダメージが取引相手の国にも与えられます。貿易というのは双方が得をするから成立しています。一方的に香港だけが得をする貿易など基本的にはあり得ません。双方に利があってやってきた貿易が無くなれば双方ともに損をするだけです。

国家主権とは何か。近代国家が樹立した国家主権に対して、外国政府が干渉できるのか。状況によっては干渉しても良い、ということになってしまえば、20世紀に何度も起きた悲劇を繰り返しかねません。

結局のところは、お互いに妥協出来るところで決着するしかありません。なあなあな状態を認めない、ということだと断交だの武力行使だの穏やかではない手段しか方法は無いからです。

ただ、そうなると先に強硬な実力行使をしてしまった国への、原状復帰を強制することができないため、結局はますます世界情勢が厳しいものになりそうです。かつてはアメリカ合衆国がその役目(ただしアメリカにとって利益が出る場合だけ)を担っていたのですが、トランプ大統領による世界的な撤兵方針が他国への干渉を減らす結果となっています。

もしトランプ大統領が選挙で負けてバイデン大統領が誕生した場合、どうなるでしょうか? 世界に対して以前のアメリカのように軍事的・経済的圧力をかけていくのでしょうか?

今年のアメリカ合衆国大統領選挙はいつも以上に、アメリカだけではなく世界的な影響が大きくなるかも知れませんね。

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