政権交代があっても継続する政策をもたらす現代貴族

政権が変われば政策が変わります。それは当たり前のことなのですが、前政権のあらゆる全ての政策を逆転させてひっくり返すことはまずもって不可能です。かつての野党・反政権側にいたとしても反対は出来ないような政策は当然ながらそのまま継続します。

民主党政権から自民党政権、あるいはその前の自民党政権から民主党政権への移行に際しても、引き継いだ政策があれば引き継がなかった政策もあります。

例えば、官僚批判をしていた野党民主党が政治主導を唱え、その民主党から政権を奪還した安倍自民党も官邸による官僚支配を強めました。野田政権が敗れた一因の消費税増税も安倍政権では2度実施されました。民主党政権だってそれ以前から進んでいたマイナンバー制度を止めることなく、次の安倍政権で正式スタートにつなげました。

もっと昔の話で言えば、徳川家の江戸幕府が長期政権たり得た二つの要因である、参勤交代と転封制度も豊臣秀吉の頃から始まっています。

参勤交代は、大名の家族を江戸に集中させたことで実現させましたが、元は秀吉の頃に豊臣政権の中心地であった大阪城、聚楽第や伏見城の周りに大名屋敷を作って家族を住まわせたが始まりですし、転封制度も秀吉の命で大大名をあちこちに移動させました。それこそ、豊臣政権にとって最も危険な存在だった徳川家を東海地方から関東地方に移動させたことが、江戸幕府の始まりの始まりです。

転封・参勤交代という稀な制度によって、連邦制国家のような各地域の領主の権力は限定的なものになりました。なんせ転封になれば住民や産業、文化はその地に残ったままで、支配層の武士だけが移住するのですから、領主が地域に根ざした権力を持つことはままなりません。江戸時代においては移封されなかった薩長土肥が倒幕の中心になったのは逆の意味でそれを証明しているかも知れません。

その倒幕を実行した明治維新は、「維新」であって「革命」ではありませんでした。天皇を中心とした政権でもあるのですが、そもそも「革命」的な断絶までは起こらず、明治初期を通じて徐々に国の形を変えていきました。大名・武士階級の中で没落する者もいれば、華族として官僚として実業家として成功する者もいました。江戸時代の支配階級が転覆されて庶民層が一気に社会層の上層部に成り上がったわけでもありません。そういう意味では「明治革命」という言葉が存在しないのは当然です。

国家運営上、どうしても必要な政策は多少の変動はあれど政権交代があろうが進めざるを得ません。画期的な出来事で体制が変わっても全てが変わるわけではありません。画期的な出来事で、画期的な出来事をまたいで、継続的に利用される体制や政策は存在します。野口悠紀雄氏の1940年体制理論も同じようなものでしょうか。

今のアメリカ合衆国のバイデン大統領も、基本的にはトランプ時代をひっくり返していく体で進めていますが、対中国や対ロシアの政策をガラッとは変えないでしょう。対中強硬派は党派的ではなく超党派でつながっています。

結果的に、政権が変わっても継続的に進む政策が結構あるのであれば、政権が変わることを長期的視野に立った政策の断絶として恐れなくてもいいでしょう。

ではなんで政権が変わっても全てが変わらないかというと、もちろん継続すべき、党派の垣根を越えて普遍的な実行して当然の政策もあるでしょうけれど、それ以外にもそもそもその政策を実行して欲しい、実行させたい層もいるからです。

政権がどっちに転ぼうが、継続される政策によって利得を享受し続ける層というのは、王朝が変わっても領主たり続ける貴族のような者かも知れません。

貴族というと何もせず、搾取した富で楽して生きるようなイメージもありますが、実際には一番重要な、「貴族であり続ける」という任務が存在します。

貴族として存在し続けるための行動はいわば仕事であって、その中には武力行使も経済発展も含まれます。子どもを作って後を継がせるだけではすぐに没落します。

貴族の仕事が家の存続と特権の維持を意味するなら、現代の世襲政治家、企業経営者の一族、資産家などは貴族に当たるでしょう。

しかし現代は民主主義社会であり、貴族制ではありません。かつての貴族は法や慣習に守られていたがそれもありません。そのため、ガチの既得権益層・貴族層は政権担当がどっちの側に転んでも生き残れるよう、利益を得られるように配慮しているはずです。関ヶ原の戦いの時に、親子や兄弟で東西陣営に分かれたように、片方にオールインしていなければ何とかなります。

日本だけではなく、民主主義化した欧米でもその意味では貴族は存在します。日本ほど世襲政治家がいないとしても、アメリカのケネディ一族は有名ですし、今のカナダ首相は父親も首相でした。共和国だからと言って現代貴族がいないわけではありません。

政治貴族・企業貴族が存在する国では、政権交代が起きても抜本的には変わりづらいのです。既得権益層として政策の断絶を拒みます。逆に言えば、抜本的にガラッと変わる国は貴族層がいないことになりますが、それが良いかはまた別の問題です。政権交代の度に、方向性が180度変わって一からやり直しの繰り返しを数年毎にしていたら、経済も福祉もグチャグチャになるでしょうし。

微妙に影響力を持っているくらいの現代貴族層がそこそこいる程度であれば、一番塩梅が良いのでしょうけれど、そう上手く行かないというのは、多分どこの国のニュースを見ていても実感出来ますよね。

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