治香

気侭でテキトーな慶應生です。創作が好きです。 SSS(過去のものや最近のものまで)・独…

治香

気侭でテキトーな慶應生です。創作が好きです。 SSS(過去のものや最近のものまで)・独白・"重い作品"限定、ネタバレありの書評もどき(<泥沼と秋鯖>)などなど、書きます。

最近の記事

双子のサリエリ [創作短編]

 知ってます? サリエリはモーツァルトを殺したんですって。  その説は彼の実力を妬んだ音楽家たちによるでっちあげらしいんですけど、真相は不明だとか。まぁ、母さんはよく、「火の無いところに煙は立たない」なんて格好つけて言ってましたけどね。ふふ、私そのことわざが嫌いで。ああ、ごめんなさい、ちょっと思い出してしまって。  母さんは昔からピアノが好きな人で、特にモーツァルトの曲が好きらしかったんです。だから、おじいちゃんが私たちにつけた名前が嫌いだったんでしょうね。  そうなん

    • 金魚鉢 [創作短編]

       夏も終わりかけのくせに、太陽が一丁前に夏を主張してくる八月末日。暑いのに狭いし助産師たちはいっぱいいるし陣痛もキツい。そんな息の詰まった苦しい分娩室で**は生まれた。 「おめでとうございます、元気な男の子ですよ!」 「お母さん頑張ったね、おめでとう!」  助産師たちはやんやと労いの言葉や祝福の言葉を口にしながら、私から生まれ落ちた**を別室へと連れて行った。母になった実感はなく、ただ、胎はらの中にいた、前に付き合っていた手に大きなまめのある男の残していった異物が、やっ

      • 自立のできない慶應生が失恋して病気になった話

        「毒親」とまでは言わないが、過干渉な親のもとで21年間育った。 最近になってやっと一人暮らしをさせてもらえるようになったのだが、それまでは「就職しても家にいなよ」「地元で母校への就職にしてもいいんじゃないか」「結婚するまでは家にいなよ」…と詰められまくりで、おまけに「生活力もないから一人暮らしはさせられない」と言われていた。(実際それはそうなのだ。) ただ、あまりの制約のせいで早く家から出たくてたまらなかった私は、それゆえに華のJDにして結婚願望が異常に強いモンスターになって

        • 朝比奈あすか 『自画像』 <泥沼と秋鯖 #2>

          唐突に自分語りから始まってしまい申し訳ないが、大学で国文学を専攻させてもらっている身でありながら、今いちばん「おもしろい!」と感じる授業は教職課程で履修している心理学であったりする。 というのも、第二次性徴という身体的変化を伴って変化する思春期特有の心理だったり、幼児期の愛着形成によって左右される発達心理だったり……自分が「コンプレックス」や「心の不均衡」をテーマにした文章を書くことが多いため、こういった心理学の学びが非常に役立つし私自身の興味をさらに増長させるのだ。 さて

        双子のサリエリ [創作短編]

          桐野夏生 『路上のX』 <泥沼と秋鯖 #1>

          女子高生だった頃、どうやって生きていた? そう聞かれたなら、私は「特筆することもなく、適度に社会の縮図に揉まれ、受験勉強に焦ってみたりしながら、呑気に過ごしたつまらなく凡庸な女子高生生活だったよ。」と答える。 きっと多くの人が、私のように、思い出やJKブランドの優越感、あの時期特有の青春や劣等感なんかを思い出して、<最高>から<最低>までの多様な評価を下すだろう。それが酷く幸せなこととは知らずに。 じゃあ一体それ以外にどんな答えがあり得るのだ、と聞かれたら、今回の本を是非

          桐野夏生 『路上のX』 <泥沼と秋鯖 #1>