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「安定した仕事」を渇望していた、不安定な私たち。

 私は ASD(アスペルガー症候群、自閉症スペクトラム、呼び名はさておき)の当事者で、むかし「安定した仕事」に強い憧れを抱いていました。私に限らず、ASD や ADHD、発達障害、吃音症……「生きづらい」系の障害を抱えたひとは「安定した仕事」に、人並み以上に憧れたことがあるのではないでしょうか。

 そこでこの記事では、超不安定な人間(?)である私がむかし、安定した仕事を渇望していた頃の話をします。この記事を通じて、以下2点をみなさまにお届けすることが目的です:

 - 職業選択において 安定 を強迫観念的に求めるひとに、新しい視点を提供して、総合的に考えてもらうこと
 - 安定した仕事を辞めてしまったひとに安心してもらうこと

【補足】
 かりに仕事の安定度が -100 ~ +100 まであるとして、「マイナスの安定度の仕事いいぞ!」と主張する気はありません。そうではなくて「+100 目指してるように見えるけど、本当に 100 も必要?」と確認するくらいの温度感です。また、この記事は上記目的の限度内で主張するものですのでご留意ください。

絶対に絶対に超超超安定した仕事に就きたい!

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 もう10年も前のことですが、私は新卒で裁判所事務官になりました(半年で辞めました)。安定した仕事だからです。法律の勉強は楽しかったですが、それを知ったのは公務員試験の勉強のあとですから、やっぱり安定を欲していました。

 じゃあ、なぜ安定した仕事に就きたかったんでしょう。いまとなっては難しいですが、がんばって思い出してみます。おそらく、こんなことを考えたのではないでしょうか:

  自分は周囲の人間には馴染めない
 →自分は陰キャラなんだ
 →陰キャラはコツコツしているべき
 →安定した仕事が向いている
 →公務員になろう

 どの考えも飛躍しているというか、「それ本当なの?」とツッコミたい気持ちが満々になりますが、20歳前後のころの思考ですから仕方ないですね。あとは「立派な仕事に就きたい」という思いもありました。いやはや……。

自分が安定していないことを忘れていた

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 ボトルネック という言葉をご存知でしょうか。 一番ダメなところが全体のダメなところになる という意味です。瓶(ボトル)に入った水をジャッと出す情景をイメージしてください。水をドバドバ出したいとします。このとき瓶自体が太くても、クチの部分(ネック)が細ければ、水はちょっとずつしか出ません。瓶のクチの部分が、水の速さのボトルネックになってるというわけです。

 なんでこんな話をしたかというと、私たち生きづらい系の人々は、安定した仕事に就いたとしても 自分の不安定さ がボトルネックになるからです。安定なんてしません。いくら仕事が安定していても、自分が働けなかったら意味がない んです。

 公務員時代のことは何も思い出したくないですね。サインバルタとリフレックスとレキソタンとセロクエルを飲んで、エスタロンモカ(カフェイン錠剤)を飲んで、仕事中ずっと眠く、夜は睡眠薬でムリヤリ眠り……。

 仕事帰りにある日、夕陽が綺麗だと突然気づきました。夏だったんですが、何日も、あるいは何週間も、ずっと夕陽を認識していませんでした。だからなのかなんなのか、私はいまでも空が綺麗だということをいつも確認するようにしています(?)。

【補足】
 たまに「公務員になれる時点でドノコノドノコノ」と言われます。言いたいことはなんとなく分かるんですが、私には知的障害がないので、人よりたくさん勉強すれば、試験に受かることもありますよ。ただ続かないんですよ……。

自尊感情があれば案外ブラック労働できるよ

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 こんな話をしても嬉しいやら悲しいやらですが、 自尊感情が保たれる職場であれば、案外ブラック労働できてしまいます 。「自分なんて虚弱だから、長時間労働なんて絶対無理」というのは、正しいときもあるし、誤っているときもあります。

 私は今年、コロナもあって、お客さんとの打ち合わせや仕事の準備などで、月の残業時間は100時間を超えていたと思います。「(名字)さん、ハゲてきてませんか?」「疲れてますね」と心配されるほど疲れていたし、倒れる一歩手前でした。でも、倒れませんでした。去年は楽勝な一年でしたが、三年前は仕事場近くのカプセルホテルにずっと泊まり込んで働いていました。

 ではなぜ長時間労働できるかというと、働く上で自尊感情が保たれているからです。お客さんからもプロジェクトメンバーからも、薄々変なヤツだとは気づかれつつも、そこそこ信頼されてやっていけてます。だからでしょう。「こちとら信頼されないから困ってるんだよ!」と思うかたもいるでしょうが、その気持はよく分かります。私は90%くらい運でここまできてしまったのですが、10%くらいは対策したので、いつか機会があればライフハックを共有します。

「でも、倒れていない」。でも、体に気をつけよう!

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 先程の「でも、倒れていない」 という感覚は、倒れたことのあるひとには共感いただけるかもしれません。「布団から起きられなくなって、起きても一日中心臓とお腹の間あたりが重くて痛くて、寝てはいけないところで眠く、夜眠れない」という、あの日々と比べると、ずっとマシです。仕事が忙しいとか、疲れているとかは些細なことです。「今日も起き上がれる。嬉しいなあ」と思います。

 そうはいっても、お互い、生きづらいひとも生きやすいひとも、体には気をつけましょう~。

 

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