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「アイアンハート」解説~2000年代派遣業界を席捲したグッドウィル・折口雅博物語について~

2020年11月、グッドウィルグループ創業者・折口雅博氏の最新の著書『アイアンハート』が発売されました。

一大企業を築き上げた挫折と栄光と挫折と栄光と挫折と栄光の物語。波乱万丈のなかなか見ない人生、賛否両論は当然あるかと思いますがグッドウィルの歴史を知る事はヒューマンリソース業界的にも見逃せません!
というわけで、今回はこちら『アイアンハート』の解説をしていきます。

出典:
折口雅博 著、昭文社 出版 編集部 編集『アイアンハート』(昭文社,2020)


今35歳以下のHR業界関係者なら知らない人もいると思うんですが、2000年代この業界を完全にリードしていた「グッドウィル」という超巨大企業がありました。

一言でいうと日雇い派遣・アウトソーシングという業界を完全に切り拓いた、時代の先頭を行っていた方がこの折口さんです。グッドウィルは2000年代に消滅し、300億の借金を抱えることになったのですが、そこから復活、そして出した本がこの『アイアンハート』。

これ、かなり凄い話です。私も、12年前にリーマンショック直撃で3億円負債で会社を倒産させてマイナスから再出発しているんですが、折口さんの話はそんな金額の話ではないですからね。300億ですよ、300億。また復活もすごい話なんですよね、このあたりはしびれました。

ということで、前置きが長くなりましたが、さっそく解説に入っていきたいと思います!今回は「グッドウィル~栄光と挫折~」編。

▼就職活動時代・ジュリアナ東京時代の話など、noteで語りきれなかった話はぜひ動画でご覧ください!


グッドウィル設立~軽作業アウトソーシングの「センターピン」とは~

さて、グッドウィル設立当時のお話から。

事業をやるうえで「ここを外さなければヒットする」という最大の成功ポイントを「センターピン」というらしいのですが、折口さんのすごいところは、このセンターピンの見極め力でした。

1995年当時、モデルの派遣事務所をやっていた折口さん。しかし、これがまた大変で100人面接して1人しか採用できない状況でした。なかなか苦しい状況です。

そんなところに、後のグッドウィル共同創業者となる方から「軽作業アウトソーシング」の企画書が持ち込まれます。

折口「これだ!!」

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というのも「軽作業アウトソーシング」のセンターピンは、2つありました。

まず1つは「マッチング力」
この事業なら、100人面接しても99人入れるのでは?というところに、これはすごい!と感じたそうです。

そして、もう1つのセンターピンが重要になってきます。

実は1995年当時、同様の事業を展開する会社はざっと100社もいました。そう、実はグッドウィルは後発なのです。

しかし先発の100社は、どこも小さい会社ばかり。
なぜだろう?と考えた折口さんは気付きました。「この仕事の本質は〈金融〉である」。

そう、センターピン2つ目は「金融」
特に軽作業請負の場合、働いた人に給料を出すのが先になり、企業からの案件の収入=入金が遅れる…という構図が現場にはありました。つまり、案件を受ければ受けるほど、資金繰りが厳しくなると。

ということで、折口さんはベンチャーキャピタルと銀行融資により多額の資金を調達。徹底した焦げ付き管理により、さらに金融機関からの信用を絶大にあげることに成功します。

そしてグッドウィルは一気に拡大へ。

圧倒的成長スピードの裏にあった考え方

グッドウィルは初年度5か月9700万円、2年目10億、3年目40億…と、圧倒的な成長を遂げます。では、なぜそのスピードが実現できたかというと…

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圧倒的な成長の裏には「支店展開スピード」の速さがありました。

「人と現場のマッチングは全てコンピュータでできる」という考えのもと、折口さんは支店長の経験値はそんなに必要ではないと考えたそうです。

しかし幹部の意見は「支店長育成には最低半年かかる」。
「1か月で支店長はできる」という折口さんの意見と見事にぶつかり、危うく折口さんは役員会でトップを解任されそうに。

しかし結果的には、コンピューターでマッチングさせる流れが当時からグッドウィルにはあり、支店長の負担は低いと判断。「完璧症候群を排せ」の考え方で一気に支店展開を行い、驚くべき急成長を実現しました。

さらに栄光のコムスンへ

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そして、2000年4月の公的介護保険制度のスタートを見越し、1997年に介護サービスのコムスンに資本参加します。
父親の介護の経験から公的介護保険制度のブレイクを確信した折口さんは、グッドウィルグループの上場とコムスンへの資金調達で250億円をかけて大体的な「ハローコムスンキャンペーン」を展開。

10箇所だったコムスンの拠点を、介護保険スタート時には1200拠点まで広げる!ということで、なんと4ヶ月で一気に広げていきました。

その後、支店を増やしたり減らしたりを経て、結果的にコムスンの売上は、2000年に7億、2001年に120億、2005年には500億を到達します。…とんでもない規模感ですね。

さらなる栄光~2004年東証一部上場からの技術者派遣事業のM&A成功へ~

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さらに栄光は続きます。2004年10月に東証一部上場、翌年グループ全社員は3万人に。横浜アリーナでの創業10周年パーティーには郷ひろみがきて「GOGO!グッドウィル!!」。この年のグッドウィルグループは売上1400億円になります。

そして技術者派遣会社フジオーネ・テクノ・ソリューションズを買収
派遣事業の本丸は、利益率が高いことから技術者派遣だと前から狙いは定めていたそうです。買収の際、他社が20億提示したのに対し、なんと折口さんは40億で提示し、即決成立したのだとか。

そしてついに未上場企業ながら当時最大手の「クリスタル」を買収

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そして、ついに当時最大手のクリスタルグループを買収します。
クリスタルグループは、未上場企業ながら、5000億円の売上があった超オーナー企業で、当時グループ会社は70社もあったようです。今も、元クリスタルという方は業界に多数いらっしゃいますね。

買収の始まりは、折口さんのもとに届いたある依頼でした。10月23日、ある公認会計士から「今月末(あと一週間)までに880億円、現金で用意できたらクリスタルを売ってもいいと言っている」と依頼が届きます。
ほぼ、即決で「やりましょう!」と動いたらしいです。最終的に、10月末にきちんと880億円を用意し、見事クリスタルの買収に成功。

期日まで期間のない中でしたが、折口さんは「クリスタルグループは、絶対的オーナー企業で、一人のオーナーが5000憶の会社をコントロールできている…ということは不正のおきない会社経営にしているはずだ」と分析、GOを出します。契約成立後、1年かけて監査するも予想通り非常に問題のないいい企業だったとのことでした。

しかし、ここで問題が起きます。

クリスタルのオーナーは同業者(アウトソーシング、派遣業界)には売らないということが条件だったのですが、間に入っていた公認会計士はファンドを2つかませることで、同業者であるグッドウィルに売却するという形をとっていたのです。大問題になりました。
さらに、そのファンドが実は380億を抜いていてクリスタルのオーナーには500億円しか渡っていなかったのです。最終的に、公認会計士は罪に問われ逮捕されました。

この本によると、折口さんは「間に入っている公認会計士はもちろん間の利益を取るんでしょうけど、全くそんなことは聞きもしなかったし興味もなかった」「グッドウィルグループが大飛躍すればそれでよかった」ということで、ここは私は関係がないということでしたが、
これがのちにグッドウィル大バッシングの一因になっていった…ということも本には書かれていました。

そして廃業へ

クリスタル買収に成功して、7,700億円企業にまでなりましたが、そのあとすぐに問題が起こります。

【1】監査法人の監査拒否、そしてコムスン過誤請求事件

クリスタルのMAからしばらくするとグループの監査を担当している監査法人が今後は監査ができない、といってきたそうです。他の大手監査法人もどこも駄目。あやうく上場廃止になりかけます。
後になってわかったのは、クリスタルMAを担当した公認会計士が悪い噂になっていたようでした。

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ここから「コムスン問題」が始まります。世の中では不正請求問題と言われていましたが、本の中で語られていたのは、「不正」ではなく医療ではよくある「過誤請求」であったとのことでした。しかしメディアの強烈なバッシングはここから始まっていきます。

もちろん請求ミスがコムスンにあったのは認めるものの、実はミスがあったのは1200拠点のうち8拠点だったらしく、それが前年に決まった法律では、そういったことがあると全ての事業所に適用されての事業停止となるようでした。

つまり1200拠点のうち8か所での過誤請求だったところ、(介護の中でも形態が違うところも含め)合計2000拠点が5年間の営業停止となることに。やむなくグループ内の他介護企業にコムスンの売却を決断します。

厚生労働省もそれならOKという返事でしたが、処分逃れだとメディアのバッシングはさらに過熱します。そして厚生労働省もやっぱり認めないということになり、結局コムスンの事業は他企業へ売却することに。グッドウィルの介護事業はここで終了します。

【2】 こんどは人材派遣グッドウィルへの攻撃が始まる

そして、日雇い派遣がワーキングプアを生んでいるとして、こちらもバッシングを受けます。

2000年代後半、ワーキングプア問題というものが結構ありまして―いわゆる日雇い派遣から抜け出せない方の問題ですね、それは派遣会社が生んでいる、それがグッドウィルだという論調で、マスコミを中心に非常に激しいバッシングだったとのことでした。

具体的にあったのは、法令遵守問題でした。

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二重派遣問題・データ装備費問題・派遣元責任者不在問題・港湾業務従事などで事業停止などにつながっていき、そして時価総額が300億円まで落ちたところでアメリカのファンドに経営権をとられてしまいます。

グッドウィルグループの人材領域は分割され売却をされ、そして折口さんは300億円の負債で強制破産を宣告されてしまった――というところで、第一部「グッドウィル~栄光と挫折~」編は終了です。

いかがでしたでしょうか。かなりボリュームたっぷりの内容ですよね。ここでは語りきれなかった話も沢山ありました。
そして次の章では「NYからの復活物語」編に移ります。ここからいかに復活するのか?どうぞお楽しみに!

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