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2022年の働き方~すべての従業員を幸せにする人事変革~ ④「スキル」の重要性

1.まえがき

 タイトルのとおり、「人事変革」は人事部門に閉じたものでもなく、すべての従業員の働き方、その人生すべてに大きな影響を及ぼす非常に重要な取り組みである、という思いを込めて最新トレンドやホットな情報をお届けしたい。逆に、「働き方改革」は決して従業員側の自助努力のみではなしえず、人事部門あるいはもっと上のレベルの経営層がリードして具体的かつ効果的な施策を打ち出していかないことには達成できない。
 その施策のひとつとして、HRテクノロジーの導入は欠かせないであろう。ようやく我が国においてもそのような認識が広がってきた。しかし他方で、その認識の広がりとともに誤解も蔓延していると言わざるを得ない。具体的には、「流行りのHRソリューションを導入したり、ピープルアナリティクスを始めるだけでも何かが変わるはずである」という幻想のようなものである。とりあえず始めてみれば確実に効果が表れる、というほど簡単なことではなく、事前に周到な準備が必要であることを認識して頂きたい。

(参考記事)

2.HRテクノロジーの適用範囲

 「③HRテクノロジーのトレンド(後編)」でもご紹介した通り、近年、人事領域において最も重要なことは「Employee Experience(従業員体験)」(を向上させること)であると言われている。それに対して良い作用を及ぼす要素はいくつかあるが、特に①データドリブン②リアルタイム(性)③パーソナライズ(個別化)という要素は必要不可欠である。そしてこれら①から③のいずれもが、テクノロジーの活用無くしては実現が困難である。
中でも特に注目すべきは③の「パーソナライズ」であり、テクノロジーの進化により、「個別化人事」にかなり近しいことができるようになってきている。これまでも本気で「人事とはどうあるべきか」ということを突き詰めて考えてきた人たちからすれば、「もし実現できるのであればそれが理想的な姿だ」とされていたことではあるが、一方で、「やはりそれは理想に過ぎず、現実はそうはいかない(いくはずがない)」とあきらめられてきたことでもある。それがここ数年のうちのテクノロジーの進化により、いよいよ現実のものとなってきた。
 一方で、そこまで「魔法の杖」でもないことがわかってきた。現状のHRテクノロジー の使いどころとしては、大きく分けてせいぜい次の3つくらいだと言われている。

① バイアスを排除したマッチング
② 個々人に合わせた「適所」もしくは「キャリア開発メニュー」の提示
③ 人事に関するQ&Aの自動化

 HRテクノロジーはこれらの領域に限定される、とまでは言わないが、少なくともそれ以外の領域についての優先度はかなり下げても、「波に乗り遅れるか」という意味においては特に支障はない。
 さらに、使いどころが限られるという点以外に、「HRテクノロジーを活用するためにはまず何が必要か」という点においても誤解が蔓延している。誤解というよりはむしろ「無知」と言っても過言ではない。
 まず必要なものは何か。今回のタイトルからも察して頂けるはずであるからあえて答えを先に示すが、「スキル定義」、そしてその延長の「ジョブ定義」である。

3.「バイアスを排除したマッチング」と「スキル」の関係

 HRテクノロジーを活用して、人間の勘と経験だけではできなかった「客観的なデータに基づく、バイアスを極力排除したマッチング」が可能になる。
 さらに、多様化を加速させることにも貢献できる。組織における多様化が進まないのは「人によるバイアスが原因である」とよく言われている。性別だけでなんとなく適性を判断してしまったり、自分と同じ出身校の候補者に対して面接時の採点が甘くなったり、ということは未だに多少なりともみられるのではないか。それが、データを中心に判断できるようになれば「良いものは良い、悪いものは悪い」と、性別や経歴その他のバックグラウンドに関係なく「人」と「ジョブ」とのマッチングができるため、近年注目をされてきている。
 ここで「データを中心に判断」といったときに最も重要なデータが「スキル」の情報である。スキルに着目して採用の可否判断を行えば、余計なバイアスがかかる可能性は非常に低くなる。

4.「個々人に合わせた『適所』『キャリア開発メニュー』の提示」と「スキル」の関係

 従業員にどのようなキャリア開発プランを提示するのか、そのために受けるべきラーニングメニューをいかにして提示するか。ここにもバイアスが入りやすいといわれている。また、多岐にわたる情報をいかにして有機的に結び付けていくか、という点についても人間によるアナログな手法のみでは非常に困難である。つまり、何百とある教育研修のメニュー、一人ひとりの特性やこれまでの経歴、全社にまたがるポジション情報を人間がすべて正確に捕捉して最適なマッチングを導き出すことはほとんど不可能である。
 そこで、次のようなことをテクノロジーによって実現していくべきである。
 「あなたは今このスキルが足りなくて、ギャップがあるために希望するポジションにすぐには異動できません。でもそのギャップを解消できる研修があります。」といったことを、パーソナライズして提示してくれるような「キャリアコーチ」と呼ばれるソリューションである。

 これをうまく活用すれば、一人ひとりに対して、適材適所を促進するための様々なレコメンデーションを提示していくことができるのである。
 ここでも、これらの仕組みを支えるために必要なデータのうち最も重要なのが「スキル」の情報である。

5.「人事に関するQ&Aの自動化」と「スキル」の関係

 従業員から毎回同じような質問が人事担当者のところにくるケースは、どのような組織においてもよくみられるのではないか。同じような質問に対しては、回答内容も当然同じになる。これを生身の人間が毎回対応する必要はなく、FAQ(よくある質問と回答)のデータベースさえ整えてしまえばほぼ自動化することができる。
 「この質問にはこの回答を出す」といったQ&Aの仕組みをつくり、チャットボットなどで対応する。これはもともとコールセンターの現場で活用が始まった仕組みであるが、人事領域においても応用することができる。しかも、単なる事務処理に関わる質問対応の工数削減のみならず、キャリア相談に対する回答も自動返信されるという仕組みも海外では広がりつつある。
 「私が今受けるべき研修はなんですか?」と聞くと、AIエンジンが組み込まれたチャットボットが根拠をもって回答してくれる。これは、上記「4.」で紹介したものと同様である。
 キャリアに関する質問・相談に対して高品質な対応や回答を実現していくためには、やはり上記「4.」と同様に「スキル」の情報が不可欠となる。

6.HRテクノロジー活用のメリット

 こういった上記「3.」「4.」「5.」のようなテクノロジーを活用することのメリットは、①データドリブン②リアルタイム(性)③パーソナライズ(個別化)の実現である。

① データドリブン
 採用可否判断、異動先の提示、教育研修メニューの提示、その他キャリアに関する様々なアドバイスが、個々人の経験や「勘」といった根拠の不明な情報に過度に依存することなく、客観的かつ科学的なデータに基づいてなされることになる。ミレニアル世代については特に「データによる説明」を求める傾向にあるため、若い世代に対しては従業員体験の向上にもつながる。

② リアルタイム(性)
 「人事担当者や自分の上司には聞きにくいことでも気軽に聞ける」ということにもつながる。つまり、どのような内容であっても怒られることはなく、また、24時間365日リアルタイムに対応してくれるという気軽さから、タイムリーに必要な情報を得られる可能性が高まるのである。本来的には生身の人間に相談すべきであるとしても、人間に相談すること自体がおっくうになって結局悩みを抱え込んでしまったら本末転倒である。悩みを溜め込んだ結果としていきなり辞められてしまう、という「びっくり退職」の防止にもつながるであろう。チャットに慣れ親しんだ若い世代については、従業員体験の向上に関してこのリアルタイム性も欠かせない要素である。

③ パーソナライズ(個別化)
 テクノロジーによって、自分がフィットするポジションをデータをもとに提案してくれることにより、真の意味の適材適所が実現される。納得感も得られやすく、従業員体験の向上にもつながる。さらに、埋もれていた人材が急に活躍できるようになるなど、今話題の「中高年人材の活用」にもつながる。「転職する以外、新たな道を切り拓く術はない」と思い込んで優秀な人材が転職してしまうケースはよくあるとされており、優秀人材の流出防止にもつながる。

7.ジョブ定義・スキル定義の重要性

 ジョブ定義・スキル定義がないと、大半のHRテクノロジーは活用できない。上記「3.」「4.」「5.」の実現に向けて、全てに共通して必要となるのがジョブ定義・スキル定義である。これらは「共通のモノサシ」として機能する。
 たとえば、日本でも人事、営業、マーケティング、開発、広報などという単位で、それぞれ部門・組織が存在していて、なんとなくの業務内容の定義がある。しかしながらその多くは、担当している「人」に応じた仕事内容のリストになっていて、本来あるべき業務内容や範囲があいまいである。まず「人」がいて、そこに「仕事」が場当たり的についてきているイメージである。「デキる人」に自然と仕事が集中する現象を生じさせやすい。そして集中する割には、意外にも貢献の大きさに比して評価が過少だったりもする。それが多くの日本企業の実態であろう。
 このように、ある程度のジョブ定義はあるものの、その粒度のレベルがHRテクノロジーの活用に必要な度合いには達していないケースがほとんどである。
 では、どの程度のジョブ定義がなされれば十分なのだろうか。また、ジョブ定義とスキル定義との関係はどのようなものだろうか。詳細な説明は次回「⑤『スキル中心の社会』とは」に譲ることとする。

8.終わりに

「『スキル』の重要性」というテーマでご紹介した。また今回もエッセンスのみをお伝えした。専門用語の解説も不十分であろう。
 HRテクノロジー・コンソーシアムでは、HRリーダーのためのHRテクノロジー基礎と題して講座を実施している。また新たなシリーズとして、HRリーダーのための個人情報保護・労働法基礎講座も開講された。
 これらの講座の中では、各テーマに即して参加者同士がディスカッションを行い、テーマによっては具体的なアウトプット(PPT等でまとめたもの)を作成して頂くということも行っている。ぜひ記事の読者の中から多く方々が参加されることを願っている。


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