2020年 4月8日「本棚と上のアレの話」
部屋にはわたしの背丈より20センチ程高い本棚が3つある。
左から文庫本用、大判コミック用、文芸書・小判コミック用の3つだ。
そこに入りきらない本はオレンジのカゴでベンチを温めている。
その本棚の天板の上には広辞苑や特装版のゴツい本、映画のパンフなどが並んでいる。
しかし、その天板の上に1つ場違いなものがいつまでものさばっている。
オナホールだ。エッグ型のやつ。
この逸品はわたしの誕生日だかなんだかの祝いの日に、学生時代の友人がフザけ半分でプレゼントしてくれた物だと記憶している。
1年以上前の話だ。
ついぞ使う気になれず、そろそろ捨てようかと日々考えている。
なら何故早く捨てないのか。
それは此奴が実は少し不思議な品だからだ。
わたしはほぼ毎日、本棚の前にボーッと突っ立て並べられた本を眺める。
読むわけでもなく手にとってみて、パラッとめくって棚に戻す。
五十音順が乱れていないかチェックするが、毎日見ているものだから寸分のズレもない。
興が乗れば、最上段の棚にテーマを決めた特集コーナーを作ってみたりしてほくそ笑むこともある。
件のエッグ型のオナホールは左端の文庫本用の棚の天板の上に乗っかっており、文庫本を物色しているとしばしば視界に這い込んでくる。
毎度のことだが、なんだか気になってチラチラとエッグ型のオナホールを見てしまう。
ある日、そんな具合にエッグ型のオナホールにまんまと気を取られたが〈いやいやいや〉と文庫本に目を戻した。
しばらく上段から下段へと順繰りに背表紙を撫で付けていると〈ん?〉と目を凝らした。
順番が変わっている?
昨日迄はヘルマン・ヘッセが左、ヘミングウェイが右だった筈だ。
なのにどうだろう。
ヘミングウェイが左に居て、ヘッセが右にいる。
わたしは異変のあった5冊を引き抜いてしばらく眺めたが、考えても詮無いかとヘッセを左に、ヘミングウェイを右に挿し直した。
またある日、その日は棚の2段目と3段目がホラー小説特集になっていた。
少し誇らしい気持ちで、その日もホラー特集棚を眺めていた。
だというのに、また目の端にエッグ型のオナホールが写った。
その夜はもうひとりで事を致したというのに。
結局わたしは敢え無くエッグ型のオナホールを凝視した。
しばらくして〈馬鹿な〉と誇らしいホラー特集棚に目を下ろした。
〈あっ!〉
それはもう決定的だった。
確かに、それは確かに先ほど迄は〈ま行〉の位置に在るべくして在った水木しげる御大「図録 日本妖怪大鑑」が、あろう事か乙一先生の「暗黒童話」と「夏と花火と私の死体」の間に挿して在ったのだ。
わたしは〈わあ!〉と心で叫んで、驚きと興奮がなかなか収まらなかった。
まあ、実際は只それだけのことだったので、20秒ほど怪異に想いを巡らせて「図録 日本妖怪大鑑」を〈ま行〉の位置に挿し直した。
それどころか、わたしという人間は浅ましいもので〈どうせ移動するなら京極夏彦先生か荒俣宏先生の隣だったらなぁ〉なんて思ったりもした。
その少し後。
矢も盾もたまらず、わたしはエッグ型オナホールを手に取った。
裏面の説明には〈異なったリングの段が織りなす究極の締め付け体験! ローション付き〉と書かれていた。
まあ、あと1・2年はそこに居てもらおうかと思う所存だ。
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