2020年 3月30日「小躍りする小さいおっさんの話」

缶ビールを飲んでいた。
確かそれはもう空になっていたはずだ。
夜のことだった。

空の缶ビールを目の前にして少しの間スマホをいじっていたのだが、どうもおかしい。
目の前の缶が小刻みに揺れていた。
ああこれは、虫が入ったかと思った。

放っておいたのだが、缶の底とテーブルがぶつかる僅かな音がやけに気になる。
仕方なくゴミ箱を受け皿にして中の虫を出そうと試みた。

しかしどうだ。
いくら振っても虫など出てこない。
すこし躊躇ったがわたしは缶の小さな口から中を覗いてみた。

それは多分おっさんだった。

小指の第一関節ほどの大きさの。
酒にでも酔ったのか小躍りしていた。

それが随分楽しそうだったので、これ以上は関わるまいとわたしはそっと缶をゴミ箱に投げ捨てた。

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