【医師論文解説】蕁麻疹後1年、がんリスク5倍に急上昇!?デンマーク大規模調査【Abst】
背景: 蕁麻疹とがんの関連性については、これまでいくつかの研究で示唆されてきましたが、疫学的な証拠は乏しく、また結果も一貫していませんでした。そこでデンマークの研究チームは、国の医療データベースを用いて大規模な人口ベースのコホート研究を実施し、この関連性をより詳細に調査することにしました。
方法:
データソース: デンマークの医療登録データを使用
研究期間: 1980年1月から2022年12月
対象者: 病院の外来、救急外来、入院で初めて蕁麻疹と診断された87,507人
追跡期間: 中央値10.1年
主要評価項目:
がん発生の絶対リスク
標準化罹患比(SIR):デンマークの全国がん罹患率で標準化
副次的評価: 蕁麻疹既往歴のある人とない人でのがんの進行度の比較
結果:
全体的ながんリスク:
観察された症例数: 7,788例
期待される症例数: 7,161例
全がん種のSIR: 1.09 (95%CI: 1.06-1.11)
追跡開始後1年間のがんリスク: 0.7% (95%CI: 0.6-0.7)
蕁麻疹診断後1年以内のがんリスク:
がん診断例数: 588例
全がん種のSIR: 1.49 (95%CI: 1.38-1.62)
蕁麻疹診断後1年以降のがんリスク:
がん診断例数: 7,200例
全がん種のSIR: 1.06 (95%CI: 1.04-1.09)
特定のがん種のリスク (診断後1年以内):
非ホジキンリンパ腫 SIR: 2.91 (95%CI: 1.92-4.23)
ホジキンリンパ腫 SIR: 5.35 (95%CI: 2.56-9.85)
がんの進行度: 蕁麻疹の既往歴の有無によるがんの進行度の差は見られなかった。
論点:
短期的リスク上昇: 蕁麻疹診断時または診断後1年以内に、がん罹患リスクが大幅に上昇(49%増)。
長期的リスク上昇: 1年を超えた後も6%のリスク上昇が持続。
血液がんとの強い関連: 特に非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫のリスクが顕著に上昇。
がんの進行度: 蕁麻疹既往の有無による差がないことから、診断の遅れによる影響は少ないと推測される。
結論: 蕁麻疹診断時またはその後1年以内に、がん罹患リスクが大きく上昇することが明らかになりました。また、1年を超えた後も6%のリスク上昇が持続しました。この結果は、潜在的ながんが蕁麻疹を引き起こしている可能性や、がんと蕁麻疹に共通のリスク因子が存在する可能性を示唆しています。
文献:
Sørensen, Sissel B T et al. “Urticaria and the risk of cancer: a Danish population-based cohort study.” The British journal of dermatology, ljae264. 27 Jun. 2024, doi:10.1093/bjd/ljae264
ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫:
定義:
ホジキンリンパ腫:特定の異常細胞(リード・シュテルンベルグ細胞)が見られる比較的まれなタイプのリンパ腫
非ホジキンリンパ腫:ホジキンリンパ腫以外のすべてのリンパ腫を指す
発生頻度:
ホジキンリンパ腫:リンパ腫全体の約10%
非ホジキンリンパ腫:リンパ腫全体の約90%
好発年齢:
ホジキンリンパ腫:20代前半と50代以降に多い
非ホジキンリンパ腫:高齢者に多い傾向があるが、年齢を問わず発症
進行速度:
ホジキンリンパ腫:比較的進行が遅い
非ホジキンリンパ腫:タイプによって異なるが、一般的に進行が速いものが多い
治療反応性:
ホジキンリンパ腫:治療への反応が良好で、治癒率が高い
非ホジキンリンパ腫:タイプによって異なるが、一般的にホジキンリンパ腫よりも治療が難しい
診断方法:
両者とも生検による組織検査が必要だが、顕微鏡下での細胞の特徴や特殊検査により区別される
所感:
本研究は、87,507人という大規模なコホートを用い、10年以上の長期追跡を行った点で非常に価値があります。特に、蕁麻疹診断後の時期によってがんリスクが異なることを明確に示した点は重要です。短期的なリスク上昇については、潜在的ながんの存在や診断努力の増加が影響している可能性がありますが、長期的なリスク上昇の持続は、両疾患間の生物学的な関連性を示唆しています。
特に血液がんとの強い関連は注目に値し、蕁麻疹患者の診療において、これらのがんの可能性を考慮する必要性を示唆しています。一方で、がんの進行度に差がなかったことは、蕁麻疹がある程度早期のがん発見のマーカーとなる可能性を示唆しており、臨床的に有用な知見といえます。
今後は、この関連性のメカニズムを解明するための基礎研究や、蕁麻疹患者におけるがんスクリーニングの有効性を検証する臨床研究が期待されます。また、他の地域や人種でも同様の結果が得られるか、検証が必要でしょう。
この研究結果は、蕁麻疹患者の管理において、特に診断後1年間のがんリスクに注意を払う必要性を示唆しており、臨床実践に重要な示唆を与えています。
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