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【医師論文解説】スタチンだけでは物足りない?〇〇で心臓病リスクが激減!?

背景:

スタチン治療は心血管イベントを減少させますが、残余リスクは依然として課題となっています。エイコサペンタエン酸(EPA)が心血管イベントを減少させる可能性が示唆されていますが、安定冠動脈疾患(CAD)患者におけるEPA/アラキドン酸(AA)比が低い患者での効果は不明でした。EPA/AA比は血中のEPAとAAの濃度比を表し、炎症や血栓形成のバランスを反映する指標として注目されています。低いEPA/AA比は心血管リスクの上昇と関連することが報告されています。RESPECT-EPA試験は、この患者群でのイコサペント エチルの効果を評価することを目的としました。

方法:

  • 日本の95施設で実施された前向き、多施設、無作為化、オープンラベル、盲検エンドポイント試験

  • 対象: 安定CAD患者でEPA/AA比<0.4、スタチン治療中

  • 介入: イコサペント エチル1800mg/日 vs コントロール群(EPA製剤禁止)

  • 主要評価項目: 心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性虚血性脳卒中、不安定狭心症、冠動脈血行再建術の複合

  • 副次評価項目: 冠動脈イベントの複合(突然死、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血行再建術)

  • フォローアップ期間中央値: 5年

結果:

  1. 患者背景:

    • 2506人がランダム化(イコサペント エチル群1249人、コントロール群1257人)

    • 年齢中央値68歳、82.7%が男性、45.2%が糖尿病

    • ベースラインのEPA/AA比中央値: イコサペント エチル群0.243、コントロール群0.235

  2. 主要評価項目:

    • イコサペント エチル群112/1225人(9.1%) vs コントロール群155/1235人(12.6%)

    • ハザード比(HR) 0.79 (95%信頼区間[CI] 0.62-1.00, p=0.055)

    • 統計学的有意差には達しなかったが、数値的にイベント減少傾向

  3. 副次評価項目(冠動脈イベント):

    • イコサペント エチル群で有意に低下 (HR 0.73, 95% CI 0.55-0.97)

  4. 個別のイベント:

    • 冠動脈血行再建術: イコサペント エチル群で有意に低下 (HR 0.68, 95% CI 0.48-0.96, p=0.027)

    • 心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、不安定狭心症: 両群で差なし

  5. 生化学的変化(1年後):

    • EPA濃度: イコサペント エチル群で181.7%増加 vs コントロール群8.3%増加

    • EPA/AA比: イコサペント エチル群で221.7%増加 vs コントロール群6.7%増加

    • トリグリセリド: イコサペント エチル群で6.6%低下 vs コントロール群0.4%低下

  6. 安全性:

    • 新規心房細動: イコサペント エチル群3.1% vs コントロール群1.6% (p=0.017)

    • 消化器系障害: イコサペント エチル群3.4% vs コントロール群1.2% (p<0.001)

    • 出血イベント: 両群で差なし

論点:

  1. イコサペント エチル治療の効果が現れるまでに3-4年かかった点

  2. 日本人患者での脳卒中発症率がREDUCE-IT試験と異なる点

  3. 心房細動発症率上昇のメカニズム

  4. オープンラベル試験デザインの限界

  5. イコサペント エチル群での高い中止率が結果に影響した可能性

結論:

RESPECT-EPA試験では、スタチン治療中の安定CAD患者でEPA/AA比が低い(<0.4)患者におけるイコサペント エチル1800mg/日投与は、主要評価項目の発生率を数値的に低下させましたが、統計学的有意差には達しませんでした。一方で、冠動脈イベントの複合エンドポイントでは有意な減少が見られました。また、治療によりEPA/AA比が大幅に改善し、これが心血管イベント減少に寄与した可能性があります。これらの結果は、イコサペント エチルがこの患者群での将来のイベント軽減に臨床的意義を持つ可能性を示唆しています。ただし、心房細動発症率上昇など安全性の面での注意も必要です。

論文:Miyauchi, Katsumi et al. “Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA).” Circulation, 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520. 14 Jun. 2024, doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520

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所感
RESPECT-EPA試験の結果は、スタチン治療を受けている安定冠動脈疾患患者において、イコサペント エチル投与の潜在的な有益性を示唆しています。主要評価項目では統計学的有意差に達しなかったものの、21%のリスク低下傾向が観察され、特に冠動脈イベントの複合エンドポイントでは有意な減少が見られました。これは、EPA/AA比が低い患者群に対するイコサペント エチルの治療効果を支持する重要なエビデンスとなります。

特筆すべきは、イコサペント エチル投与によりEPA/AA比が大幅に改善したことです。これは、心血管イベント減少のメカニズムを理解する上で重要な知見です。また、効果発現までに3-4年を要したことは、長期的な治療戦略の重要性を示唆しています。

一方で、心房細動発症率の上昇など、安全性に関する懸念も明らかになりました。これらのリスクと利益のバランスを個々の患者で慎重に評価する必要があります。

本研究はオープンラベル試験であることや、想定よりも低い検出力など、いくつかの限界がありますが、日本人患者を対象とした大規模な長期追跡研究として貴重なデータを提供しています。今後は、これらの知見を基に、より厳密な二重盲検試験や、他の人種での検証が期待されます。

総じて、RESPECT-EPA試験は、スタチン治療に加えてイコサペント エチルを併用することが、特定の患者群において心血管イベントのリスクをさらに低減させる可能性を示唆しています。これは、残余リスクの管理に新たな選択肢を提供する可能性があり、個別化医療の観点からも重要な意義を持つと考えられます。


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