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【医師論文解説】39万人の衝撃データ:毎日のマルチビタミンが寿命を縮める!?

背景: 米国では成人の約3分の1がマルチビタミン(MV)を使用しており、その主な動機は健康維持や疾病予防です。2022年、米国予防医療専門委員会(USPSTF)は、ランダム化臨床試験のデータを検討し、MV補給と全死因死亡率の関連について、追跡期間の制限や外的妥当性の欠如から、利益や害を判断するには証拠が不十分であると結論付けました。観察研究からの知見は一貫性を欠いており、健康的なライフスタイルによる交絡や、健康状態の悪い人がMV使用を開始するという逆の因果関係の可能性など、重要な問題が系統的に対処される必要がありました。

方法: この研究は、3つの大規模な米国前向きコホート研究(NIH-AARP Diet and Health Study、Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial、Agricultural Health Study)のデータを用いたコホート研究です。がんやその他の慢性疾患の既往がない390,124人の成人を対象とし、ベースライン時(1993年~2001年)とフォローアップ時(1998年~2004年)のMV使用を評価し、最長27年間の追跡を行いました。

主要な評価項目は死亡率で、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定しました。年齢、性別、人種・民族、教育レベル、喫煙状況、BMI、婚姻状態、身体活動レベル、アルコール摂取量、コーヒー摂取量、健康的な食事指数(HEI-2015)、他の個別サプリメント使用、がんの家族歴などの潜在的な交絡因子を調整しました。

結果:

  1. 参加者の特性:

    • 年齢中央値: 61.5歳(IQR: 56.7-66.0歳)

    • 男性: 55.4%

    • 大学教育を受けた者: 40.3%

    • 非喫煙者: 40.9%

  2. MV使用者と非使用者の比較:

    • 毎日のMV使用者: 女性49.3%、大学教育42.0%

    • 非使用者: 女性39.3%、大学教育37.9%

    • 現在の喫煙者: MV使用者11.0%、非使用者13.0%

  3. 死亡リスク:

    • 追跡期間の前半: 毎日のMV使用 vs 非使用: HR 1.04 (95% CI: 1.02-1.07)

    • 追跡期間の後半: 毎日のMV使用 vs 非使用: HR 1.04 (95% CI: 0.99-1.08)

  4. 原因別死亡リスク: 心疾患、がん、脳血管疾患による死亡リスクについても、MVの使用と非使用でHRはほぼ1.0に近く、有意な差は見られませんでした。

  5. サブグループ分析:

    • 年齢、喫煙状況、BMIによる効果修飾の可能性が観察されました。

    • 55歳未満の最も若い年齢層で、毎日のMV使用と全死因死亡率のHRが高くなりました(HR 1.15; 95% CI: 1.05-1.26)。

  6. 時変解析:

    • 234,593人を対象とした時変解析でも、ベースライン解析と一貫した結果が得られました。

    • 追跡期間前半: HR 1.04 (95% CI: 1.02-1.07)

    • 追跡期間後半: HR 0.98 (95% CI: 0.93-1.04)

論点:

  1. 本研究は、3つの大規模コホートのデータを統合し、20年以上の長期追跡を行った点で強みがあります。

  2. 詳細な共変量調整と時変解析により、交絡因子の影響を最小限に抑える努力がなされています。

  3. サブグループ解析により、人種・民族、教育レベル、食事の質による効果の違いを探索しました。

  4. 観察研究であるため、残余交絡の可能性は排除できません。

  5. 主に白人を対象としているため、結果の一般化可能性に限界があります。

結論: この大規模コホート研究では、慢性疾患の既往のない健康な成人において、定期的なマルチビタミンの使用が寿命を延ばすという証拠は見出されませんでした。むしろ、毎日のMV使用は、非使用と比較して4%高い死亡リスクと関連していました。

文献:Loftfield, Erikka et al. “Multivitamin Use and Mortality Risk in 3 Prospective US Cohorts.” JAMA network open vol. 7,6 e2418729. 3 Jun. 2024, doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.18729

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所感:

本研究は、マルチビタミン使用の長期的影響を評価した重要な貢献です。大規模なサンプルサイズ、長期の追跡期間、詳細な共変量調整により、これまでの研究の限界を克服しようとしています。結果は、健康な成人における日常的なMV使用の利益に疑問を投げかけており、公衆衛生ガイダンスに重要な示唆を与えています。

しかし、観察研究の限界も考慮する必要があります。残余交絡の可能性や、MV製品の組成の違いなどが結果に影響を与えている可能性があります。また、特定の健康状態や栄養不足のリスクがある個人にとっては、MVが有益である可能性も排除できません。

今後は、より多様な人種・民族を含む研究や、MVの組成や用量に注目した研究が必要でしょう。また、死亡率以外の健康アウトカムに対するMVの影響も検討する価値があります。この研究結果は、健康な成人におけるMV使用の必要性を再考する契機となり、個別化された栄養アプローチの重要性を強調しています。

Cox比例ハザードモデルについての解説:

Cox比例ハザードモデルは、この研究において死亡リスクを評価するために使用された重要な統計手法です。以下にその特徴と本研究での適用について説明します:

  1. モデルの特徴:

    • 生存時間分析に用いられる半パラメトリックな統計モデルです。

    • ベースラインハザード関数の形状を仮定せずに、相対的なリスク(ハザード比)を推定できます。

    • 複数の共変量の影響を同時に評価することが可能です。

  2. 本研究での適用:

    • 主要アウトカム:全死因死亡率および原因特異的死亡率

    • 主要説明変数:マルチビタミン(MV)使用状況(非使用、非毎日使用、毎日使用)

    • 調整変数:年齢、性別、人種・民族、教育レベル、喫煙状況、BMI、婚姻状態、身体活動レベル、アルコール摂取量、コーヒー摂取量、健康的な食事指数(HEI-2015)、他の個別サプリメント使用、がんの家族歴など

  3. 比例ハザード性の検討:

    • 研究者らは比例ハザード性の仮定を検証し、この仮定が満たされていないことを確認しました(P < .001)。

    • この問題に対処するため、追跡期間を前半と後半に分けて解析を行いました。

  4. 時間依存性の考慮:

    • 時変解析を実施し、フォローアップ時のMV使用状況の変化を考慮しました。

    • これにより、MV使用の長期的な影響をより正確に評価することが可能になりました。

  5. 結果の解釈:

    • ハザード比(HR)が報告されており、これはMV使用者の非使用者に対する相対的な死亡リスクを示しています。

    • 例えば、追跡期間前半での毎日のMV使用のHR 1.04 (95% CI: 1.02-1.07)は、MV非使用者と比較して毎日使用者の死亡リスクが4%高いことを示唆しています。

  6. モデルの利点:

    • 複数の共変量を同時に調整することで、交絡因子の影響を最小限に抑えることができます。

    • 打ち切りデータ(追跡終了時点で生存している参加者)を適切に扱うことができます。

  7. 注意点:

    • Cox比例ハザードモデルは相関関係を示すものであり、因果関係を直接的に証明するものではありません。

    • 観察研究であるため、未測定の交絡因子の影響を完全に排除することはできません。

このCox比例ハザードモデルの使用により、研究者らは長期的なMV使用と死亡リスクの関連を詳細に分析し、重要な共変量を調整した上で、信頼性の高い結果を得ることができました。この手法は、本研究の結果の信頼性と解釈の妥当性を支える重要な統計的基盤となっています。


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