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〈読書感想〉三日間の幸福

いつ読むのか、どの視点で読むか、それによってひとつの作品は何度でも楽しめる。
それを感じた瞬間だった。

この作品を最初に読んだのはいつだっただろう。
多分中学生の頃だったと思う。


あらすじの一部にはこうある。

どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。寿命の"査定価格"が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。


主人公であるクスノキは大学生。二十歳だ。
生活を切り詰めなければならず、仕方なく本とCDを売りに行き、そこの店員に寿命を買い取ってもらえる店があると教えてもらったのだ。
そしてその店でクスノキは実際に寿命を売り、「監視員」のミヤギと過ごすことになる……という
物語。


大学生。二十歳。
初めて読んだ中学生の私にとっては大人だったと思う。だから、「生活を切り詰めなければならない」とか「今後の人生」とか、いまいちピンと来てなかった。

けど今ならなんとなくわかる。
大学生になった私は自分の力でお金を稼ぐこと、お金がないと生きていけないことを知った。将来について考え決めていく時期にあり、深く考えたり不安になったりしている。


それだけじゃなく、この中にはタイムカプセルの話も出てくる。

タイムカプセルは、私も作った。
小学校を卒業した年に、友達と一緒に五人でそれぞれ未来の自分宛に手紙を書いて埋めた。
あの手紙には、なんて書いただろう。
きっと開けて読んだら、今の私は覚えてないような夢とかそういうことが書いてあるのだろう。
おそらく、当時の自分と今の自分の差に笑うのがタイムカプセルの手紙のオチだ。

実際に、小学生の頃埋めたタイムカプセルを開けて手紙を読んだクスノキはその時の自分との差を感じている。
つまり、そういうことなのだ。


前置きが長くなってしまったが、この作品の感想を述べていこうと思う。


まずはこの作品の大きなテーマである、「命の価値は決められるものなのか」について。

寿命を売る=余命(命そのもの?)に価値があるということだ。しかも、それは値段という形で決められている。この話の世界はそういうものだ。

「命の価値」
それは、きっと道徳の時間などでかけがえのない大切なものであるということを学んできているのではないだろうか。
命は価値のあるものだと、そう教えられてきているのではないだろうか。

たしかに価値があるものだと思う。
そうだけど、その価値って誰が決めたものなのだろう。クスノキとミヤギの会話でも、「どこかの偉い人が勝手につけた値段でしかない」とある。つまり、第三者の他人によって決められたものであるということだ。それでいいのだろうか、と私は立ち止まってしまう。
物語にどうこういうつもりはない。ただ、この寿命を売るというのが現実にもあるものだったら私は納得しないだろう。
私の価値は私が決めると、そう言うだろう。
現実には存在しない、けどリアリティのある、考えさせられるものだった。


書きたいことはまだまだあるが、あまりダラダラ書いても仕方がない。
私が特に印象に残ったものについて書いて終わりにしたいと思う。

とある登場人物の言葉にこういうものがある。

「(前略)僕たちが見えている世界は、この世界の真実におけるほんの一部、自分たちにとってそれさえ見えていればいいという部分に過ぎないのかもしれません」

これは、クスノキが、周りには見えない存在であるミヤギと恋人のように歩き、声をかけ、周りにその存在を見せている姿に対して思ったことを言ったものである。

積極的にその存在を見せようとしていることで、見えないけどミヤギが実際にいるのではないかと認識し始めたこの人物の発言は、私たちにも共通する部分があるかもしれない。
というのも、私たちが得る情報は、必ずどこかで選ばれているものだからだ。選ばれた情報があれば、必ず選ばれなかった情報がある。

情報を選ぶということは、必ず選ぶ人の意思が反映されている。選ぶ人にとって都合のいい情報だけが出回っている可能性が大いにある。
その上、それらの情報を得る私たちも、自分が得たい情報だけを選び収集している。

そのため、私たちが普段得ている情報は自分にとって都合のいいものばかりであると言える。

それさえ見えていればいいと、他の情報を得ようとしない、切り捨てようとする私たちの姿を、この登場人物の言葉は気づかせようとしているように感じた。

私たちが今見ているものは、どこかの誰かにとって、社会にとって、都合のいいものばかりではないだろうか。
自分の力で探して得ることで、変わってくることがあると思う。


幸福とはなんだろう。
人生の価値とはなんだろう。
何が自分の価値を決めるのだろう。
自分について、幸せについて、今一度考えてみようと思った。

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