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箸が転がってもおかしい銀座線のおばさん

始発駅浅草で席を確保し、いつしか私は眠りについていた。
だが、そんな私の眠りは銀座駅で破られた。

「この前ねぇ、私またしでかしちゃったのよー」
「どうしたのぉ?」

おばさん2人衆が私の前に立ち、世間話を始めた。
声は、前の席で眠る人の睡眠を破るに十分な音量である。
私の目の前にはおばさん達のへそがある。
(だが、おばさん達のへそを見ていたわけではない)

「それがね、テニスに行ったのよー。そしたらねぇ、何かいつもより動きにくいなあって思ったの」
「どうしたの?」

「私ったら、ズボンの前と後ろを逆にはいていたのよぉ。家出る時から動きにくいわぁって思ってたの」
「けっけっけっけっけっ」 ← 笑い声

「球を追うのに脚が上がらないのよー。あら、運動不足かしらって思ったわ」
「けっけっけっけっけっ」

「ゴムを何度縛っても変なのよー。でもお尻の方はぶかぶかしてるのよー」
「けっけっけっけっけっ」

「太ったにしては変な太り方だなぁって思ったの」
「けっけっけっけっけっ」

「いつもはポケットに球が3つ入るのに今日は2つしか入らないのよー。おかしいわねーって思ったのー」
「けっけっけっけっけっ」

私を含め周囲の者は2人の会話に聞き入っている。
厳密には1人の説明と1人の笑い声である。
聞きたくないという者の耳にもおばさん達の声は届く。
銀座線は新橋を過ぎ虎ノ門も発車した。

「テニスが終わってトイレに行ったの。そしたらやだわー、前後ろ逆に穿いてたのよー」
「けっけっけっけっけっ」

「もうやんなっちゃうわよー。かっこ悪いわー」
「けっけっけっけっけっ」

「これじゃあ、この前鍋焼きうどんを急いで食べて口を火傷した***さんのこと笑えないわー」
「けっけっけっけっけっ」

このおばさんの友人には鍋焼きうどんを急いで食べる人がいるらしい。
かなりの交友関係である。

その時銀座線は赤坂見附の駅に着き、向かい側の席が空いた。
おばさん達はそこに座った。
多くの客が乗ってきて、私とおばさん達の間に立った。

前後ろズボンおばさんの話が聞こえない。
悲しい。

「けっけっけっけっけっ」

「けっけっけっけっけっ」

相棒のおばさんの笑い声が耳に入る。
どんな話題だろう?
更にテニスの話が続いているのだろうか?

私は精神を集中しておばさん達の会話傍受を試みた。
しかし駄目だった。
(インターネットや携帯電話を介していないので、某国諜報組織でも傍受は不可能である)

銀座線は終点渋谷駅に着いた。
おばさん達もそこまで乗っていた。

わたしはおばさん達の会話が聞こえる程度の距離で背後から歩いた(ストーカー?)。

だがおもろい話は終わっていた。

おばさん達の足元に箸を転がしたらもしや・・・という淡い期待はあったが、それ以上実力行使するとただの変態ゆえここで退散した。

日本一古い1927年12月末操業開始の銀座線。
今日も歴史がつくられて行く。

ほいじゃー

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