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【絵本】 繊細な絵で150年の日本の発展をたどる 『やとのいえ』

本書をひとことでいうと、「日本の150年の発展を、俯瞰してみれる絵本」。

人と家が織りなす100年の歳月を描いた、『百年の家』を彷彿とさせます。

東京の多摩地域を定点観測し、150年のあいだにどんな変化がおこったのかを描いています。

家の中の様子や、遠くでこどもたちが遊んでいる様子などもわかり、1ページずつじっくりと楽しむことができます。

ページをめくるごとに時が過ぎ、変化を楽しめます。

変化とは、使われなくなっていくものたちの歴史。

たとえば、外に設置された炭焼きの釜が使われなくなり、ぽつりと放置されているさまに、何か虚しさを感じました。

そして変化は、新しく生まれたものの歴史でもあります。

家にはガラス戸がつき、農作業に機械が使われ、遠くに高圧線の鉄塔が建てられ、舗装されていく道路。

すさまじいスピードで町が一変していくさまに、驚かされました。

巻末では、それぞれの時代の変化を、絵の中にどのように落としこんでいるのかが解説されています。

それにより、絵を見ただけでは気づかなかった視点にも気づかせてくれます。

たとえば、ある絵では遠くの空が赤く描かれており、単純に夕焼けかと思っていました。

しかし解説を読むと、当時は太平洋戦争で空襲がはじまり、空が赤いのはその空襲の火事があったからとのこと。

本書は決して、「自然を破壊するなんて、人間の横暴だ!」と近代社会を批判することや、「自然の暮らしは大変なので、インフラの発展した現代は素晴らしい!」と、現代技術を誉めたたえる、といった立場で描かれてはいません。

過去と現代を比べるのは、外面的には変わっていっても、本質的には変わらないものに目を向けさせるためで、以下のことばがすべてを物語っています。

大きな なみは あらゆるものを かえたけど、 くりかえされる いのちの いとなみに かわりはありません。

どんな時代・状況になっても、そこで繰り広げられる「生命の営みの尊さ」を描いた作品です。

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