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レビュー 『十二世紀ルネサンス』

講義を元に作られているので、読みやすくて面白い!

中世の時代、一文化圏であったヨーロッパが突如として「離陸」を開始する十二世紀を、著名な科学哲学家が描き出したのが、『十二世紀ルネサンス』。

特にイスラム世界からの影響に焦点を当てており、「ルネサンス=ヨーロッパ」といういままでのイメージが崩れ去り、ルネサンスの新たな側面を知ることができます。

ヨーロッパの歴史に興味のある学生や社会人におすすめ。

日本で「ルネサンス」といえば、イタリアでおこった美術的革新。

しかし、その以前に自然科学、哲学、神学分野のルネサンスがあり、それが花開いた地はスペイン、シチリア、北イタリア。

(より具体的にいうと、スペインのトレード、シチリアのパレルモ、北イタリアのヴェネツィア)

これらの地こそが「十二世紀ルネサンス」の舞台で、ギリシャの自然科学や哲学が、ギリシャの文献からだけでなく、イスラム教徒による咀嚼と発展を経て、再び西欧世界にもたらされた場所です。

本書を読んで一番おどろいたのは、そもそもギリシャの知がローマに受け継がれていなかったということ。

著者によると、十二世紀までにギリシャ文明の約9割が、ヨーロッパに伝わっていませんでした。

伝わっていなかった文献の具体例をあげると、アリストテレスの主著や、ユークリッドの幾何学体系、アルキメデスやプトレマイオスの著作。

これらのギリシャの文献は、まずはエジプトのアレクサンドリアへ(前三世紀〜五世紀)いき、コンスタンティノープルを経由して、シリア語訳されシリア文明圏へ(五世紀〜七世紀)。

そして、アラビア語訳されてアラビア文明圏に移入(バグダードが中心地)し、最後に、ラテン語訳されてヨーロッパへ(十二世紀)と伝わりました。

ここで興味深いのが、経由地となったアラビア世界は、ギリシャ文明を伝達しただけではなく、「独自の発展させた」ということ。

「科学はすべてヨーロッパで発展した」という思い込みを一変させてくれます。

著者の伊東俊太郎さんは、1930年の東京生まれ。

東京大学文学部哲学科を卒業したあと、米国ウィスコンシン大学よりPh.D.(科学史)の学位を取得。

その後、東京大学教養学部教授を経て、東京大学名誉教授に。

日本科学史学会会長や、日本比較文明学会、国際比較文明学会名誉会長と、様々な肩書きをお持ちです。

そして、『十二世紀ルネサンス』は、1984年に7回にわたって開かれた「岩波市民セミナー」での彼の講義内容がもとになっています。

EUへの移住を目指すに際して、キリスト教やユダヤ教、イスラム教について、もっと知らなければと思ってはいましたが、何から学べばいいのかわかりませんでした。

とりあえず、興味のある「ルネサンス」の時代を起点に、ヨーロッパに影響をあたえた宗教について学んでいこうと思い、本書を手に取ることに。

本書は講義録がベースになっているだけに非常に読みやすく、読み手に負担をかけないつくりでスラスラと読むことができました。

アラブやイスラムに対するイメージを覆し、ヨーロッパの知的基盤がどのように発展したのかを教えてくれる良書です。

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