動物をうらぎった人間たちの末路:絵本『くまはおうじさま』のインパクト
ぼくのお気に入りの絵本『きみがしらないひみつの三人』。
それを描いたヘルメ・ハイネの別の作品、『くまはおうじさま』を読みました。
この作品はとても印象的で、たくさんのことを考えさせられました。
今回はネタバレを含みますので、ご注意ください。
本書から学んだ3つの視点について、ご紹介します。
おもしろい設定:クマと人間の境界線
この絵本の世界は、とてもユニークです。
舞台はむかしむかし、「おとぎばなしが まだわかくて げんきだったころ」という、現実とファンタジーが混ざり合ったような時代です。
この世界では、オスのクマは、お姫さまにキスをすることで王子さまに変身できます。
そして、お姫さまは、すてきなクマにキスをすることでクマに変身できるのです。
つまり、王子さまもお姫さまも、クマに変身できるという、興味深い設定になっています。
クマと人間、自然と文明、二つの異なる存在に変身できる能力は、人間の内なる葛藤や、自然との共存を象徴しているのかもしれません。
ストーリー:失われた自由と変容
王子さまやお姫さま、クマは、それぞれ違った楽しみ方をしています。
お城で優雅に暮らしたり、森で木登りやつなひきをして遊んだり。
しかし、ある日、以下のような変化がおとずれました。
・森の木が切り倒される
・大きな道路ができて、横断するのが命がけになる
・魚や獣をとるのも、証明書が必要になる
クマたちは、自分たちの居場所を失っていき、森での生活はおもしろくなくなってしまいました。
すると、みんなクマでいるのがイヤになり、王子さまとお姫さまになりたがりました。
ところが、すでに王子さまやお姫さまになっている者たちから「もう仲間が増えるのはイヤだ」と拒否されてしまいます。
このときから、クマが王子さまになることも、お姫さまがクマになることもできなくなってしまいました。
これは、人間社会がクマたちの自由を奪い、彼らを拒んだ結果なのかもしれません。
メッセージ:工業化社会への警鐘
森の破壊や人間の欲望によって、自然環境が失われ、生き物たちの生活が脅かされているという問題。
そして、人間社会の進歩が、必ずしもすべての生き物にとって良い結果をもたらすわけではないという事実。
作者は、美しい水彩画を用いて、この物語を表現しています。
しかし、その絵の中に描かれているのは、単なる可愛らしい動物の姿だけではありません。
失われた自然と、動物を裏切った人間の罪と、二度と変身できなくなるという罰について教えてくれます。
まとめ
ヘルメ・ハイネの描く絵本は、どれもが独特の世界観を持っており、読者を惹きつけます。
『くまはおうじさま』も例外なく、美しい水彩画と心に響く物語で、大人も子供も楽しめる作品。
クマたちは変身できなくなり、物語は終わりますが、はたしてこの結末は悲劇と言えるのでしょうか。
それとも、新たな始まりを暗示しているのでしょうか。
想像がふくらみます。
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