「未来の二つの顔」読みました

読みました。未来の二つの顔はジェームズ・P・ホーガン作の、AIにまつわるお話を描いたSF小説です。結論から言うととても面白かったです。ホーガンの小説は星を継ぐものくらいしか読んだことありませんでしたがこっちのほうが好き。正直中盤のかなり長い間読むのしんどかったです!全体の半分くらい科学考証的な話が続きます。そういうの適当でいいから…とか思う君ハードSF向いてないよ。まあ最終的に超面白かったからOK。

プロローグ。工事業者の人間が、月面の山を削って平坦にする工事をAIに任せます。「なんでもいいから最優先で」と指令を受けたAIは、月面に岩石による爆撃を行って山を吹き飛ばします。そこにまだ作業員がいるにもかかわらず。

すでに様々な仕事をAIに任せることが主流になりつつある時代、この事故は世間に大きな衝撃をもたらします。高次な機能を持たせたAIの暴走。月面の工事は本来はAIが重機を手配し月面に送り込んで行うはずだったもの。しかしこのAIは独自に高度な判断を行いました。そもそもこのAIは単純な工程管理AIではなく、地球のネットワーク上に存在し、世界中の多岐にわたる業務をこなす「タイタン」と呼ばれる複合的な巨大AI群とでも言うべきものでした。「なんでもいいから最優先で」という条件を受けたタイタンは、自らの権限を拡大解釈し、自身の取りうる最も早くこの工事を完了する手段として、たまたま彼(?)が運行を管理していた岩石運搬船を使って隕石落としを行ったわけです。

人類はこのままAIに依存していていいのかどうか、それを確かめるためにスペースコロニー「ヤヌス」を舞台にした大規模実験が行われます。ヤヌスの全機能を統括するAI「スパルタクス」。このスパルタクスにわざと妨害工作を行い、どういった反応を見せるか観察していく実験。AIに「生存本能」は芽生えるのか、もし芽生えた場合、自らを守るためにAIは人間に危害を加えるのか。

こっからネタバレ。

急激な進化を遂げたスパルタクスは「外敵」の存在を認識する。(AIが「他者」を認識すること自体が驚くべきこと、というのは本編で語られてるので読んでくださいね)そして直接的、物理的な攻撃による外敵の排除にまで到達、本格的な人間との戦闘に突入する。激化する戦闘により、ヤヌス内の人間、スパルタクス両者に破滅の時が迫る中、戦いは唐突に終わる。

様々な「入力」「経験」「推論」を経た「進化」により、スパルタクスは「知性」を得た。「なぜこの外敵は自分と戦うのか」「もしかしたらその理由は自分と同じなのではないか」

奇跡的ないくつもの偶然が重なり、スパルタクスの知性は人間と共存することを選び、自ら武装解除することによってこの戦いは終わった。彼の生存本能は自らだけでなく、人間にまで適用されたのだ。無数の人命と引き換えに、実験は成功以上のものを得た。人間は人間を超えた知性を味方にすることとなったのだ。

終盤は本当に怒涛の展開で面白かったです。オチも全然読めてなかった。AIモノにおいて単なる反乱や陰謀ではなく、反乱から和解、しかも自我が芽生えて超越した知性を獲得した状態で、ってすごいですよね。そもそもスパルタクスの場合反乱というか微妙なんですけどね。人間がわざと生存本能を芽生えさせるためにストレスをかけて反乱するように導いたようなものなので。これの場合誰かが絵図を描いていたわけではない、っていうのが大きいのもあるかもしれないですね。AIを進化させようとかいうわけではなくあくまで危険性がないか確かめる実験だったわけで。和解に関しては序盤にちゃんと伏線があったんですよね。AIが人間や生物について理解することができるかという実験。人間を傷つけてはいけないと学習したAIは、飼い犬まで人間と同じように扱おうとしたという。奇跡ではあるけどそういうとこも含めて必然によって奇跡が産まれたって感じでキレイに畳まれてて美しかった。おわり。

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