時をかけるおじさん 18 / 小林くんへお手紙かいた
母のがんが発覚し、私の心の中の嵐も吹きすさび、なんだかイガイガしていた頃のこと。
父が小学校の同級生の「小林くん」の話をしはじめて、昔チャンバラごっこをしたとか、笑いが止まらなくなるくらい毎日楽しかったなと繰り返し喋り始めた。もちろん私も、母も知らない頃の話だし、昔の話はよくするので、特に取り合いもしなかった。
その後、父は自分の部屋にいったかと思ったら数時間後にハガキを持っていた。おそらく寝室かどこかにあった異国の写真つきのポストカードに、小林くんあてに手紙を書いていた。
「小林くん 僕はあの頃のキミに今も会いたくて、会いたくて、想い出しては涙してます。キミは何処にいるのでしょう。」
住所も何も書いていないハガキが届くわけはないけれど、どうしても切ない気持ちが私は抑えられない。
母の病気のショックや悲しさ、自分の病気のもどかしさ、そんなものも混じった手紙のように見えたのは、私の考えすぎなのだろうか。
父は、自分の友達のことを思い出しては、誰々は今どこにいるんだろうなあ、とよく言う。
小、中、高の楽しかった思い出を反芻しては、今目の前にいない人のことを、時空を超えて探し回っている。
やっぱり父は、時をかけるおじさんなのだと思う。
この頃の私は、本当によく泣いていた。
文・絵 / ほうこ
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