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小説ブログ 【無意識】

薄暗い部屋…今、何時だろうか

網戸にして開けられた窓の外からは
月明かりとも夜景を彩る人工的とも言えない光が
真っ暗になった寝室を照らしていた

虫達の音色と共に寝室に入ってくる風は
エアコンから解放された私と
そして隣で寝息を立てる妻と4歳になる娘を心地よく包んでいた

もう秋か…

そう思いながら私は体をくの字にさせ
自分の足を触った

やっぱり刺されている…


私は寝心地のいい最高の空間で
足が痒くて目が覚めたのだ

これは…最悪の寝覚め

刺された場所は、よりにもよって体から遠い足
そして…その甲

容易には搔けない
寝転びながら体をくの字にして、足の甲に手を伸ばす作業は
無駄に体の長い、そして固い私には苦行だ

痒くなるたびに何度も体を曲げるのはおっくう
だからといって痒み止めを塗りに起き上がるのはもっとおっくう
私は痒みのある場所にこれでもかって思いをのせた
爪十字を刻み、また私は眠りについた…


・・・・・・・・・・・


あれから何分経っただろうか?
私の体は自然と足の甲に手を伸ばしていた

痒い、痒すぎる…


眠い体を曲げ、ようやく届いた足の甲には
爪十字が深掘りで残ってた

数分ではなく、おそらく数秒か

私は足の甲を掻きながら
天を、そして窓から見える空を眺める

寝室…いや、世界はこんなに穏やかで
そして優しく心地よい空間なのに
この一点の痒みのせいで、この世界がどうでもよくとは

私は爪十字から爪米字へとさらなる傷をつけ
また目を閉じ、そして更なる深い眠りへと足を踏み入れようとした

・・・その眠りの世界に踏み出した足が痒いぃぃ!


よりにもよって足の甲
皮膚の薄い場所を刺しやがって!
薄いところは痒みが強いんだよ!
てか、なんで皮膚の薄い[くるぶし]とか[足の指]とかって異常に痒みが強いんだ?
どうでもいいわ、そんな事!
もっとあんだろ、刺す場所!
わざわざ薄い場所、刺してんじゃねぇ!!

と、私は刺された患部を掻きむしりながら我に返る

この部屋に刺す奴がいるのか?と


こんな心地いい空間にいるの、蚊?
もう涼しいよ
蚊ってまだいるもんなの?

辺りを見渡してもいない
というより、月明かり程度の光では目視できん

この部屋になんかいる…
どこかに潜んでいる?もしくは現在、食事中か?

一度、全身を蚊がいるかもと払い除ける

足の甲に結果が出ているので蚊はいるはいるだろう
しかし100%いるかどうかわからない
けどおそらく、いや十中八九いる
すごいな
いるかもって想像だけで、全身が痒くなってきた
顔・首・腕・足・手の甲まで…

こんな状態で寝れるのか?
部屋には虫が居るんだぞ
そして足の甲がとんでもなく痒過ぎて
可能ならこの刺された患部を引きちぎりたい状態で寝れる?

私は布団を離れ、徐に冷蔵庫へ行き
保冷剤を取り出しリビングへ

とにかくあの部屋には戻れない
患部を麻痺させて痒みから遠ざけよう
私は布団も何も敷かれいない地べたで、患部を冷やしながら横になった

・・・・・・・・・・

あれから何時間経っただろう
妻に声をかけられた
「何故、あなたはここで寝ているの?」と…

私は妻の声で目が覚め
そして体を起こすと同時にフニャフニャの保冷剤が足に当たった

寝れてたのか…


患部麻痺作戦は成功!
痒みに克服した喜びを噛み締めることなく
ほぼ半目の頭が回ってない状態で妻の疑問の解消に努めた

「そう言えば、蚊がいたよ。ぷ〜んて音がしたからシュってした。」

妻の枕元にワンプッシュで蚊を撃退するスプレーが転がっていた

そうか…
俺がいなくなってターゲットを変えたのか
ターゲットを変える?
そうか…
俺は妻と娘を見捨ててリビングで寝てたってことか

優しさが一切ない自分の無意識の行動に絶句しつつ
肝心の刺されたかどうか尋ねた

答えは二人とも無事

よかった
もし刺されてたら、朝から生贄を差し出した人の気持ちになるところだ
そんな寝覚めは悪すぎる
よかった、身を持って家族を守ってたことが知れて

私は自分に都合のいい解釈をしながら徐に腕を掻いた

腕?
あれ、ちょっと待って
刺されてる?
あれ?
足も痒い?

どんどん込み上げてくる至る所の痒み?
発信源を探ると
足の甲・くるぶし・ふくらはぎ・膝横・腕
の5ヶ所で結果が残ってる?

めちゃめちゃカモってくれてるやんけ!

何、ころころ場所変えてハシゴしとんじゃ、ボケェェ!
店変えるなや!
1ヶ所で腹一杯なって満足せぇよ!
こっちは手が二本しかないんじゃ!
5ヶ所も巡ったら足りんやろが!!

「なんでおこってるの?」

4歳になる娘が突然私に尋ねてきた
どうやら心で思っていたのではなく、ちゃんと声に出してたらしい…

蚊にたくさん刺されたと説明したら
「それはひどいね。」
と同情してくれた…

なんて優しい娘なんだ
俺はこんなに優しい娘を、自分のことしか考えずに置き去りに…

深夜に蚊にカモられ
自分のことだけ考えて家族を部屋に置き去りにし
そして、その家族の優しさに朝触れる。


この状態、そしてこんな俺は何分咲き?

無意識 〜これ、何部咲き?〜#3
おしまい

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