雑学マニアの雑記帳(その26)中取り純米大吟醸直汲み無濾過生原酒特A山田錦
最近の日本酒には、「無濾過生原酒」であるとか「純米大吟醸直汲み生」であるとか、様々な「肩書き」がついたものをよく見かける。しかし、ほんの40年程前までは、特級酒・一級酒・二級酒といった簡単な分類しか存在せず、現在のように多様な味わいを楽しむ時代ではなかったと言える。それが今では、酒造りにかかわる様々なパラメータによって、細分化された分類・表示が行われている。いったいどのくらいの分類要素があるのだろうか。これはひとつ整理をしておかねばならない。
分類の軸として真っ先に思いつくのは「精米歩合」だ。現在ではポピュラーになっている「吟醸」や「大吟醸」といった種類の酒も、以前は鑑評会などに出品するための特別な酒として造られるのみで、一般に流通するものではなかった。酒米を精米する際に、米の外側を削っていって、元の重量の半分以下にまで削ったものを使用すれば吟醸、元の重量の40%以下まで削れば大吟醸と呼ばれることになる。削る量を多くすることによって、米の芯の部分のみが残って酒造りに使用されることになるため、雑味が少なく、香り(吟醸香)の良い酒になるということだ。一方で、削る量を少なくしたからといって、必ずしも酒の味が落ちる訳ではなく、逆に芳醇な旨味が特徴となるものも多い。敢えて精米歩合を70%や80%に押さえて、濃厚な味をひきだそうというアプローチも成功を収めている。同じ日本酒でも、精米歩合いを変えることによって、すっきりした味わいからずしりと濃厚な味わいまで、幅広い選択肢が得られる点は魅力である。
原料に関しては、米の精米歩合の他に、醸造用アルコールの添加をするかしないかという分類がなされる。添加しないものは純米酒のカテゴリーに入ることになる。醸造用アルコールを添加すると、比較的すっきりした味わいになり、純米は濃厚で旨味の強い酒になる傾向がある。
原料の次に注目したい分類方法は「絞り方」だ。アルコール発酵が進んだ醪(もろみ)を絞って、清酒と酒粕に分離する「絞り」の工程には、次のようないくつかの方法がある。
・自動圧搾 専用の圧搾機を使って機械の力で強い圧力をかけて絞る方法
・槽(ふね)絞り 醪を布製の酒袋に入れたものを槽と呼ばれる大きな容器に敷き詰めて重ね、比較的弱い圧力でゆっくりと絞る方法
・袋吊り 酒袋を吊るして、滴り落ちる雫を集める方法
・遠心分離 専用の遠心分離機を用いて酒と酒粕などを分離する方法
圧搾機は、強い圧力をかけるために雑味が混じりやすい一方で、短時間で工程が完了するために品質管理が容易であるというメリットがあるようだ。槽絞り、袋吊るしの順で弱い力による絞り方になるため、時間が掛かる分、純度の高い酒を取り出すことができる。遠心分離機は高価な設備だが、これも純度の高い絞りが期待される。「袋吊るし」や「遠心分離」といった表示の酒を見たら、槽絞りとの比較をしてみると楽しいだろう。
絞りに関するもうひとつの分類として、絞りはじめて最初に出てくる酒、絞りの中頃に出てくる酒、最後の方に出てくる酒、と三種類に分類する方法がある。最初に出てくるものを「あらばしり」、その次が「中取り」または「中汲み」「中垂れ」、そして最後が「責め」などと呼ばれる。「あらばしり」は薄濁りとなっていることも多く、フレッシュ感が出やすい。また、「中取り」はバランスが良いメイン部分、そして「責め」は雑味も含まれる一方、濃い味わいが楽しめる。醪までは同じであっても、絞りの工程で複数の種類の酒に区分されて、違った味わいを楽しめるというのも面白い。
さらに、「火入れ(加熱処理)」の有無によっても分類することができる。通常、醪を絞った段階で一度目の火入れを行って貯蔵し、出荷(瓶詰め)の際に二度目の火入れを行うが、貯蔵前の火入れを行わないと「生貯蔵酒」となり、瓶詰め前の火入れを行わないと「生詰め酒」となる。両方行わない場合には「生生」あるいは「本生」と呼ばれる。「生詰め酒」の中でも、特に貯蔵中に夏を越して熟成させたものについては「ひやおろし」と呼ばれることが多い。火入れをすることで保存性が良くなる一方で、味が変化してしまうという側面もある。それぞれの特徴を知ることで、日本酒選びのヒントとなる項目でもある。
この他にもまだまだ多様な分類が存在する。酒米の種類、酵母の種類、各工程の管理温度や貯蔵時の管理温度・熟成期間、火入れのタイミングや加熱温度・加熱時間、などなど多岐に渡る要因を挙げることができる。マニアックな酒蔵では、酵母の種類以外の条件を全て同じにして酒を醸し、酵母の種類による違いを飲み比べられるような企画を行ったりしている。
昔に比べて、造り手と飲み手、双方ともある意味で確実にマニアックになってきていると言うことができそうだ。今後、造り手はさらに研究を進めて新たな提案を続けてもらいたいし、飲み手の方としてもその違いを楽しみながら食事に合わせた日本酒選びの術を身に付けていきたいものである。
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