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大学と受験生の悲しきすれ違い…。武蔵大学のウェブコンテンツから、在学生インタビューの役割を考える

受験生向けのウェブサイトしかり、大学案内しかり、入試広報ツールにおいて、学生インタビューはなくてはならないもの。でも、学生インタビューの位置づけは、大学側の思惑と、受験生側のニーズを考えると微妙にズレているのでは?と思うことがあります。このニーズを埋める施策として、武蔵大学の取り組みは効果的なのかもしれません。

インタビュー記事が集積する場、「ムサシトリドリ」

では、どのような取り組みなのかというと、「ムサシトリドリ」というウェブコンテンツです。このコンテンツは、武蔵大学のさまざまな在学生、卒業生、教員のインタビュー記事を紹介しており、とてもシンプルなつくりになっています。このnoteを書いている2024年6月23日段階では、教員の記事はないものの、海外の大学院に進学する在学生であったり、ロックバンド「時速36km」として活躍する卒業生たちであったりと、ユニークなキャリアを歩む在学生&卒業生の記事が多数載っていました。

さまざまなインタビュー記事が載る「ムサシトリドリ

ムサシトリドリの記事は学部・研究科で検索できるほか、ゼミ・研究室、課外活動、進路・就職といったテーマであったり、在学生や卒業生、大学院生などの属性でも検索可能。さらに、これら検索軸をクロスさせることもできます。こういった多種多様な人たちを、いろんな軸で探せるのは、受験生にとって非常にありがたいのではないでしょうか。

在学生インタビューの役割とは何なのか?

一方、現状のムサシトリドリで取り上げられている人選を見ていると、これでいいのかな?という気がしないでもありません。でもこれはムサシトリドリだけにそう思うのではなく、冒頭に書いたように、ほとんどの入試広報のインタビュー記事に対してそう感じています、なんか大げさな言い方ではありますが。

というのも、大学側って、学生インタビューですごい人を取り上げがちというか、ほぼそうするんですね。うちの大学には、こんなに活躍している人がいます、こんな偉業を達成した学生がいます…。もちろんわかるんです。大学をPRするためにインタビュー記事をつくっているわけですから。

でも、読者である受験生たちが何を求めているかというと、この大学に入るとどんな学生生活を送れるんだろうとか、ゼミではどんなふうに学ぶんだろうとか、進学後の自分をシミュレーションできる情報を欲しがっているわけです。もうちょっと、掘り下げていうと、インタビュー記事を読みたいわけではなく、シミュレーションしやすい情報の一つとして、インタビュー記事があるだけなんですね。インタビュー記事を読みたいわけではないし、より最適な表現があればそっちの方がいいんです。学生たちの話を聞いていると、これをしみじみ感じます。

繰り返しになりますが、大学はできる限りすごい人のインタビューを載せたいし、受験生はできる限り参考になる人のインタビューを読みたい。つまり、大学が頑張れば頑張るだけすれ違う可能性が高まるわけです。

これは勝手な想像ですが、人気アーティストのインタビューと、在学生のインタビューは表現形態こそ同じですが、他はすべてが違います。でも大学関係者のなかには、すごく頑張っている人物であったり、ドラマ性がある記事内容であれば、後者のインタビューでも前者を読むのに近い心情で、受験生が読んでくれるのでは?そんな期待を持っている人がいるような気がします。しかし、この二つは地続きではないし、受験生のニーズにもあっていない。やっぱり読者ファーストでの人選がいいように思えます。

多様な記事があってこそ、在学生インタビューは意味がある

ここでムサシトリドリに話をもどします。このウェブコンテンツで取り上げられている、プロデビューしたロックバンドの卒業生とか、海外の大学院に行く在学生というのは、多くの受験生の目には“私とは違う別世界の人”だと映ってしまうように思います。

でも、ムサシトリドリにはポテンシャルを感じるんですね。こういうすごい人たちを含め、いろんな人のインタビュー記事が集まっていることこそが大事だと思うからです。というのも、何が参考になるのかって、人によってぜんぜん違うわけです。不本意入学したけど今は納得して大学に通っている人の記事が参考になる人がいれば、大学1年生から研究の楽しさに目覚めて論文を書き出した人の記事が役に立つ人もいる。ロックバンドの記事だって、なかには自分を重ね合わせられる人もいるでしょう。

たくさんのインタビュー記事を集めてデータベース化し、このサイトのこのページを読んでいる人には、このインタビュー記事が参考になりそう、というのを割り出して表示していくのがいいと思うんです。これはオンラインだけでなく、QRコードを使って紙媒体でも同じことができるはずです。大事なのは、受験生の興味を先読みして、その人の参考になるインタビュー記事を当てていくことだと思います。インタビュー記事を一箇所に集約しつつ増やしていければ、これをスムーズかつ効率よくできる状況をつくれるはずです。

また、人によって参考になるものが千差万別であるなら、検索システムが肝になります。受験生は、何が自分の参考になるかをわかっている人だけでなく、ぼんやりと参考になるものを欲しがっている人もいます。このぼんやりとしたニーズの人でも、自身にとって参考になる記事を見つけられるようにできれば、このウェブコンテンツに価値を感じる人が大幅に増えるように思います。さらにいうと、これができたら受験生だけでなく在学生にも、めっちゃ役立つはずです。

この検索システムは、仮説を立ててペルソナを複数つくり、議論とトライ&エラーを繰り返しながら組み立てるしかなさそうです。とはいえ、その過程自体にたくさんの気づきがありそうではあります。また今後AIが発展していくと、思いもつかないアプローチで達成できるかも……という気もしないでもありません。

大学と受験生で在学生のインタビュー記事に求めるものは大きく違います。そして、大学PRであれば、飛び抜けた数人を紹介すれば事足りるけれど、参考事例であれば、数人ではぜんぜん足りず、多くの人を集めてアーカイブ化しないと意味をなしません。さらにそこから求める事例が見つけられるような検索システムも大事になります。簡単にできることではありませんが、武蔵大の「ムサシトリドリ」は、その一歩目を踏み出せているので、今後これがどう発展していくのかとても楽しみです。


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