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伝えたい。でも興味を持ってもらえない…。聖学院の特別授業から見出す、自校教育の新アプローチ

自校教育というものがあります。在籍している学校の歴史や創設者、建学の精神などについて学ぶことで、自校に対する理解や誇りを育むことを目的にした教育です。大学にとっては、第一志望を落ちて進学してきた学生の気持ちの切り替えに役立てたり、卒業後も見据えた学生との関係性づくりの礎として使ったりと、なかなか重宝したい取り組みです。一方、学生からしてみたら、大学そのものに興味があって入学してくるのは極めて稀。多くの学生は、やりたいこと、学びたいことがあって入学してくるわけで、自校教育は興味の本筋にありません。

大学が伝えたくても、学生は知ろうとしてくれない。そんな自校教育のジレンマを以前より感じていたのですが、今回見つけた学校法人聖学院の取り組みが、その解決のいとぐちになるかもしれません。小学校での取り組みなのですが、紹介したいと思います。

周年ロゴを題材に、ロゴデザインを学ぶ

では、どのような取り組みなのかというと、聖学院創立120周年記念ロゴを題材に、ロゴデザインについて学ぶ特別授業「はじめてのロゴデザイン」を開催したというものです。周年のタイミングにロゴをつくるというのは、ありふれた取り組みなのですが、それを題材にして授業をするというのは、ちょっとめずらしいように思います。

この取り組みの何がいいのかというと、ロゴタイプをつくるときって、その対象を深く理解していないといけないんですね。使われる色、かたち、すべてに意図があります。そしてその意図は、伝えるべき対象への理解をもとに、ターゲットや目的を踏まえて、議論しながら段階的に浮かび上がってくるものです。デザイナーの好みで、なんとなくこうしました!なんていうのは、プロのデザインナーやプロデューサーであればまずやりません。

つまり逆にいうと、ロゴを正しく理解するには、その背景にある目的やメッセージ、対象への理解が必要なわけです。全員が全員、これらをわかった上でロゴを使うべし!と言うわけではありませんが、一つのロゴを事例に挙げてロゴタイプを”学ぶ”のであれば、対象への理解は必須だと思います。
※今回のリリースにある聖学院の授業は小学4年生が対象のため、こういうガチな授業ではないと思います、念のため……。

発想の逆転で、より多くの人の興味をうながす

で、ここからが発想の転換です。「ロゴを使って自校について学ぼう」だと、自校に興味があるレアな学生にしか響きません。ですが、「自校を題材にロゴについて学ぼう」だと、やることは同じであっても、もっと多くの学生の興味をひくように思うのです。さらに、ロゴを学ぶうえでも、教えるうえでも、自校を題材にするのは効率的です。だって、ロゴを学ぶには、まずそのロゴがつくられた背景を理解しないといけない。まったく知らない企業のロゴを題材にした場合、いちから調査が必要ですが、自校であれば多少なりとも知っている状態からスタートすることができます。

加えて、自校の関係者以外に伝えるうえでも、この発想は役立つはずです。自校に興味があるのは、その学校に近しい人が中心になりますが、ロゴに興味がある人は社会に広く散在しているからです。

今回は、たまたま学校法人聖学院の授業テーマがロゴだったので、ロゴという観点で書きました。でも考えようによってはこれ以外にも、周年史と編集業務、記念式典とイベントプロデュース、周年記念ソング(あるのかな…)と作詞作曲など、いろんな切り口があるように思います。

より普遍的な言い方をしてしまえば、アート以外で何かを表現するという営みは、自分の内なるものではなく、対象や目的への深い理解が起点となります。対象✕目的とアウトプットは、いわばニコイチの関係で、どっちかを伝えることは、もう片方を伝えることと深くつながります。この考え方は、自校教育もそうですし、伝えたいけどなかなか興味を持ってもらえないものを伝えるときに、けっこう役立ちそうな気がします。


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