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大学は物語が生まれる場であるという事実をストレートに伝える”ドキュメンタリー”は、大学広報に使えるのかを考える。

大学が作成するムービーというと、教育内容や制度を説明したり、大学のブランドを伝えたりするものが多いように感じます。今回、見つけた武庫川女子大学のムービーは、こういったムービーとは表現がまったく異なるものでした。めずらしい表現手法ではないのですが、大学がやると新鮮で、こういう伝え方もありなのかなと感心しました。

ではどのような動画なのかというと、”ドキュメンタリー”です。テレビ等ではちょくちょく見るのですが、大学がつくるのは非常にめずらしいのではないでしょうか。ではなぜ大学はドキュメンタリーに手を出さないのか?これってすごく単純で、通常の動画に比べてドキュメンタリーは制作するのに手間がかかるしリスクも高いからです。

通常の動画制作では、必要なシーンを割り出して、そのシーンをつくって撮影すればOKです。しかし、ドキュメンタリーはシーンをつくれないので、よいシーンが撮れるまで何時間も何日もカメラを回さないといけないし、一度撮り逃がすともう撮れないということもザラにあります。

また、筋書きのないものなので、予期せぬトラブルですべてがお蔵入りしてしまうことだってありえます。今回の武庫川女子大のドキュメンタリーは、3年ぶりに開催した体育祭の舞台裏を追ったものですが、何らかのトラブルで体育祭が中止になってしまったら、作品として成立しなくなります。

さらに、です。ドキュメンタリーって、丁寧につくるとどうしても尺が伸びてしまいがちなのですが、長い動画はプロモーションでは使いにくいというデメリットがあります。

このように書いていくと、大学が少なくとも広報目的でドキュメンタリーをつくるのは、なかなか思い切った決断だということをわかってもらえるのではないでしょうか。でも、補って余りある……かどうかはわからないのですが、よさも間違いなくあります。

一つは、やはりリアルなんですよね。頑張っている学生の姿、熱心に教えている教員、その大学特有の雰囲気、こういったものはドキュメンタリーだからこそ説得力のある伝わり方をします。たとえば、今回の武庫女の体育祭も、終わった後に役員の学生さんにお話を聞いて読み物としてまとめても、体育祭の内容を伝えることができるでしょう。だけどそれは結果が出たあとの話だし、よそ行きの言葉できれいに整えられた情報になります。うまくいくかどうかわからない焦燥であったり、イベントが近づくに連れてハイになったり悩んだりする学生の姿は、おそらく文章だけでは浮かび上がってきません。

もう一つの良さとしては、大学の“ワクワク感”を伝えることができることです。言ってしまえば、大学には規模や度合いはまちまちですが、日々たくさんの物語が生まれています。そのなかの一つ、とくにドラマチックなものを顕在化して見せることで、大学は物語が生まれる場であり、そこにはあなたの物語もあるということをストレートに感じてもらうことができるように思います。「主役は君だ!」なんて言われてもピンとこないけど、目をキラキラ、ギラギラさせながら頑張っている学生たちを見ると、説明不要で伝わってくるものがあるように思うのです。

“物語が生まれる場”というのは、いろいろな若者が集まる大学らしい魅力の一つだと思います。言葉にすると陳腐だし、説得力をもって押し出せないので、こういう切り口や表現で大学をアピールするところはあまり見られません。でも、高校生も大学生も強く求めていると思うんですよね。コロナ禍で大学に通えなくなったときの学生たちの反応を見ているとそれは明らかです。

つくるのが大変だし、使いにくい。そんな理由からか、ドキュメンタリーを大学広報に積極的に使うところはほぼ見られないのですが、使われないからこそ積極的に活用してみてもいいのかもしれません。うまく言語化できないけれど、高校生が知りたいことがドキュメンタリーには詰まっている。多くの大学が、それにまだ気づいていないわけですから。

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