見出し画像

地域が大学に求めるシンプルでゲンキンな「地域貢献」に、大学がどう応えられるかを考える。

教育、研究、地域貢献。この3つが大学のミッションと言われるようになって久しく経ちます。教育と研究はやるべきことがわりかし明確なのですが、地域貢献は良くも悪くも非常に幅があり曖昧なイメージを持ってしまいがちです。たとえば、市民向け講座もそうだし、学生たちのボランティアもそう、ゼミなどの教育活動の一環で地域と関わり合うのも、このなかにカウントされるのではないでしょうか。

では、いろいろな地域貢献があるけれど、本当に地域が求めているものは何か?と考えたとき、実際はこういうものが求められているのかなと思った記事があるので、今回はこちらをご紹介します。

大学の地域貢献の記事を紹介するように振りだったのですが、取り上げたのは医学部入試の「地域枠」の記事です。医学部入試の「地域枠」は、都道府県の知事が大学に要請することで設けられるもので、この入試では要請のあった地域で一定期間働くことが出願条件に加えられます。要請した地域にとってはもちろん、受験生もその地域から奨学金をもらえたり、通常の入試より倍率が低かったりと恩恵を受けられる場合が多く、ニーズさえ合えばWin-Winの入試制度だと言えます。一方で、医師免許を取得するまでに6年かかり、そこから6~9年程度、地域で勤務しなくてはいけないため、自由に勤務地を選べるようになるのは30代前半~中盤ごろになります。そんな人生を左右する大きな決断を18歳にさすのは酷ではないか?という声も出ていたりします。

今回、この制度の是非は横に置いておきます。でも、地域が本音として大学にして欲しいことって、きっとこういうことなのかな、とこの記事を読んで思いました。大学は優秀な人材を育成する“教育機関”なわけで、それならば地域としては、途中の人材(学生)に時限的に関わってもらうのもいいけど、それよりも仕上がった人材(卒業生)に腰を据えて関わってもらいたいというのが、ごくごく自然な気持ちのように思うからです。

以前、大学の地域貢献の取材で、「でも、きみら(学生)は卒業していなくなるんやろ?」と言われたことがあるという話を、学生から聞いたことがあります。いくら熱心に活動してもそう思われてしまうことに歯がゆさを感じることはわかるし、実際にそうなる可能性は高いんだろうなというのもわかるので返事に困る瞬間でした。もし「地域枠」みたいなものがあって、卒業後も関係性が続くとお互いがわかっていたら、関係者の意識や取り組み方も変わっていくのかなという気がしないでもありません。

また、大学にとって「地域枠」は一切の回りくどさがなく、(おそらく)地域が求めていることにストレートに応える活動になるので、こういう制度が有ると「地域貢献」の説得力が変わってくるように思います。学生も、地域で働くという意志が明確にあれば、いろいろと地域からサポートを得られそうなので、プラス面も大きいのではないでしょうか。

こう書くとWin-Win-Winな感じがしますが、あまりこういう入試が一般的になっていない理由は、18歳の段階で将来を決めきれない、という一言に尽きるように思います。医学部であれば、職業がほぼ固まっているわけで、勤務地だけの話になるのでややマシなのかもしれません。しかし、国家資格をともなわない学部学科であれば、就ける職業も幅広く、エリアだけを先に限定するというのはムリなのでしょう。

でもそうであるなら、社会人入試に「地域枠」をつくるというのはいいのかもしれませんね。社会人であれば、ある程度、社会や自分自身を理解したうえで進学するので、その地域で働くかどうかを考えられる土台があるように思います。それに自費で進学する人も多いように思うので、地域から経済的支援を受けられたら、だいぶと助かるのではないでしょうか。

大学の「地域貢献」はいろいろあるけれど、地域の本当のニーズは実はすごくシンプルでストレートなように思います。でも、このニーズと学生の将来性を天秤にかけると、後者が重くなるのは当然で、議論の余地すらありません。とはいえ、地域のニーズとそれに応えられない理由が明確なのであれば、そこから新しい仕組みや関わり方を考えるきっかけになりそうな気もします。社会人入試の「地域枠」しかり、ややゲンキンな視点で大学の地域貢献を捉え直してみてもいいかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?