答えがないからこそ大事にしたい。千葉商科大学の全学改組から考える、大学改革の”正攻法”とは何か
先日、厚生労働省が人口動態統計(速報値)を発表し、それによると2023年上半期(1~6月)の出生数は、37万1052人だったようです。今年6月に22年の出生数が、1899年以降はじめて80万人を割ったことがわかり衝撃が走りましたが、このままいくと、これよりもさらに減る可能性が濃厚です。
若者人口が経営に直結する大学にとって、この避けることのできない現実にどう対処するかは、ものすごく切実な課題です。画期的な解決方法は、おそらくなさそうで、でもだからこそ、今回、見つけた千葉商科大学のアプローチはとても大事なように思えました。
正攻法だけど難しい、徹底的な議論をもとにした大学改革
今回、見つけた千葉商科大学のプレスリリースの内容は、2025年に全学改組を行い、それにともない4割強の教員が、学部を越えて異動するというもの。異動する人の多い少ないは、そんなに響かなかったのですが、そこに至るまでのやり方が、ものすごく実直というか正攻法でグッときました。
では、どう正攻法なのかというと、徹底的に学内で話し合い、自分たちがめざす方向を考えたわけです。なんというか、文字にするとすごくフツーなんですが、実際、本気でこれをやるのってかなり大変なんですよ。
千葉商科大だと、2020年にプロジェクトが動きはじめ、プロジェクトが本格稼働した2022年の上半期にメンバーを変え、アプローチを変えて合計39回の意見交換やクロスセッションをやっています。大学って、学部間、部署間で考え方や大事にするポイントが違うし、教員と職員ではそもそも文化から違ったりします(同じ大学であっても!)。そういったなかで、答えが出ないうえ、やもすれば責任の押し付け合いになりかねない、こういったテーマについて丁寧に話し合い、ひとつの形にまで持っていったわけです。
また、大学改革の骨子をまとめたのが「CUC未来会議」という、若手~中堅の教職員による組織体というのもいいですよね。経営陣が主導し、経営陣&コンサルでまとめてしまうケースも多々見られるんですが、結局のところ経営陣もコンサルも、大学業界がさらにシビアになる10年後、20年後はもういないんですよね。“未来の大学”にいる人たちで、“未来の大学”のプランをまとめるのは、とても健全なように思います。
気持ちや熱量に意味がある、大学という場だからこそ
もうひとつ、この取り組みが正攻法だなあと思ったことがあります。それは、今回の大学改革の発表方法です。リリースを出して、記者会見をしたり、改革内容を特設サイトにまとめるというのは、まあオーソドックスな手法です。今回、それだけじゃなくて、記者発表会の全編を動画で公開しているんですね。しかも、これがかなり長い(笑)。なんと1時間以上あるんです。内容としては、理事長、学長、副学長(2名)が話したあと、「CUC未来会議」のメンバーによるトークセッションと続きます。
これを見て感じたのは、大学改革について1時間以上にわたって語り続けられるという熱量です。さらに、それをオンライン上に、自分たちの言葉で残すという自信です。とくに後半のトークセッションで、現場の方たちが改革内容やそれに至った経緯を語るところに、本気度合いをすごく感じました。結果や事実を伝えるだけであれば、このトークセッションっていらないわけです。でも、それだけじゃ伝えたいこととして十分でなかったのでしょう。
大学は、規格に則った商品を販売しているわけではなく、人と人との関係性のなかで人を育てるという、不確かで人の気持ちのありようが結果に大きく影響する業務(?)を行っています。そういった業務だからこそ、関係者の気持ちがちゃんと同じベクトルを向いていることであったり、それを公の場でしっかりと伝えられることというのは、大学の強さに直結するように思いました
話を冒頭に戻しますが、急速に少子化が進んでいるものの、こうすれば大学が生き残れるという“正解”は今のところありません。できるのは、それぞれの大学が、自分たちが思う“正解”に向けて、トライ&エラーを繰り返すことだけです。そうであるなら、最初の一歩は、自分たちが考える“正解”をいったん定めて、トライすることになります。千葉商科大は少なくとも、その最初のフェーズに、今回、乗ったのかなと思います。
いろんな大学が、自分たちがどうあるべきかを本気で考え、それぞれの“正解”に向けて動き出す。過酷な船出ではありますが、そんな大学が増えることで、業界全体にうねりが生まれ、状況も変化し、新たな活路が見えてくるのではないかと願っています。そのためにも、千葉商科大のような熱のある大学改革のあとに続く大学が多く出てくることを、ぜひ期待したいです。
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