“興味がある人軸”から“興味をもって欲しい人軸”へ。視点を変えないとはじまらない、超少子化時代の入試広報。
大学や短大の募集停止のニュースを見る機会も増え、18歳人口減少による「大学、冬の時代」の到来が“少し先の未来”から“いま”に変わりつつあることを、肌感覚で理解できるようになってきました。こういった状況もあり、どの大学も入試広報に必死だと思うのですが、そもそも入試広報に力を入れるって、どういうことを指すんでしょう?流通経済大学が新たに開設した高校生向けウェブサイトを見て、頑張る方向性にとても共感が持てたので、今回はこれについて取り上げたいと思います。
伝えるべくは、自大学の魅力より、SDGsに関わる多様な情報
今回、見つけたのは流通経済大学の高校生向けSDGsサイト「さてらす」。リリースでは、「REAL MAGAZINE 2023」というパンフレットについても言及していますが、こちらは中身を確認できていないこともあり、今回はスルーさせてもらいます…。
で、この「さてらす」ですが、どのようなサイトなのかというと、トップページにコンセプトが端的に表現されています。
うん、とてもわかりやすい。つまり、このサイトは、SDGsを学び、考え、行動する高校生をターゲットにしているわけです。コンテンツも「学ぶ」「考える」「行動する」に区分されており、これもまたシンプルでいいように思いました。
ちなみに「学ぶ」には、SDGsに関わる基礎的な用語の解説や、高校生(?)の素朴な疑問に対する専門家の回答などが掲載。「考える」には、SDGs実践者のインタビューや、SDGsを考えるうえでヒントとなる研究者のインタビューなどが紹介されており、「行動する」には流経大が実際に取り組んだSDGs活動のレポートが載っていました。
ホップ、ステップ、ジャンプではないですが、学んで、考えて、行動するための情報を、ステージごとに整理して伝えるサイト構成は、“高校生にSDGs活動をしてほしい”というメッセージがとても強く出ているように感じました。大学が運営する高校生向けのウェブサイトの多くは、いかに自大学の魅力を伝えるか、に主眼が置かれがちです。でも、「さてらす」はそうじゃないわけです。こういうスタンスが、今後はとても大事なように感じています。やや逆説的な言い方ですが、これからの入試広報は、入試広報以外をどれだけやれるか、にかかっているのではないかと思うのです。
入試広報を頑張ることに意味があるのは上位大学だけ?
入試広報の肝は、入試広報ではない。これがどういう意味なのかというと、入試広報のベーシックなスタンスは、“自大学に興味がある人軸”で情報を整理して伝えていきます。この情報発信が刺さるのは、当然、“自大学に興味がある人”です。これはこれで、もちろん大事のですが、これってもうある程度完成しているんですよね。
毎年大学案内を作成して内容を吟味しているわけだし、高校の進路指導担当者は、大学のどこにどういう情報が載っているのかを熟知し高校生たちに伝えている。進学情報サイトも、情報を届けることに関しては、長い年月とコストをかけて最適解を模索しています。こういった状況のなかで伝えるべき情報や発信方法を研ぎ澄まそうとしても、伸びしろはわずかしかなく、努力に見合う成果が見込めにくいのが実情ではないでしょうか。
さらにいうと、“自大学に興味がある人”の多くは、自身の興味(≒学部)と偏差値の掛け合わせによって、その大学に興味を持ちます。18歳人口が減り上位大学の入試難易度が下がると、現在ターゲットになっている人は、上位大学に獲られていきます。つまり、単に現状の入試広報を頑張っているだけでは、下位大学から順々に干上がっていくし、現状の入試広報を頑張るということは、この状況を消極的に支援している、と言えなくもないのではないでしょうか。
いろいろな大学に怒られそうな気もしますが、“入試広報を頑張る”ことが、従来路線ないしその延長線上の入試広報をしっかり行うことを指すのは、ひとにぎりのブランド大学だけです。それ以外の大学は、“自大学に興味がある人”に情報を届けるのではなく、“自大学に興味がある人”をつくることに注力しないといけません。
“自大学に興味をもって欲しい人軸”で情報発信をするとは?
“自大学に興味がある人”をどうつくるのか?この問いについて、入試に関わる職員さんと話していると、自大学の魅力を受験生に伝えていけば、自ずとそういった人がつくられていく、と考える人が多いように感じています。でもこれって、個人的には違うと思うんですね。だって、現在、日本には800ちかく大学があるわけです。そのなかで、自分のところの大学を見つけ、なおかつ魅力に触れてくれるなんて、もうこの段階ですでに“自大学に興味がある人”以外の何者でもないじゃないですか。
じゃあ、“自大学に興味がある人”をつくるって、どういうことやねん!ってなりますが、これを考えるときに、まずはどんな人に興味をもって欲しいかから考える必要があります。興味をもって欲しい受験生を煎じ詰めていくと、私大の場合、大学での学びを経て最終的に建学の精神やミッションを体現してくれる人、実践してくれる人、だと思います。将来的にこういった人になりうるだろうと予想できる受験生こそが、“自大学に興味をもって欲しい人”になるはずです(こんなややこしい書き方をしなくても、アドミッション・ポリシーでそれが表現されているとは思うのですが…)。
この“自大学に興味をもって欲しい人”を具体的にイメージできるようになれば、次はこの人がどんな情報にひかれるかを考えることができます。そして、求められる情報を(自大学ならではの切り口やリソースとともに)丁寧に発信していけば、“自大学に興味をもって欲しい人軸”で、大学を知ってもらえる機会を創出できるようになります。なお、こういった情報発信を長くやっていれば、その姿勢や実績に対して、“自大学に興味をもって欲しい人”が好感を抱く可能性も高まるように思います。
ちなみに流経大の場合は「流通経済大学ダイバーシティ共創ポリシー」を策定しており、そこには下記のような文言があります。
さらに「ダイバーシティ共創センター」という、これの推進に取り組む専門組織もあるようです。流経大にとって、“将来、SDGsに貢献する人”が“自大学に興味をもって欲しい人”なのだということがヒシヒシと伝わってきます。
減りゆく18歳に悲観せず、前向きに活動するために
こういった真摯な思いがあってのサイトのためか、「さてらす」は大学のPR色がかなり抑えられているように感じました。SDGsについて知りたい、何かしら活動をはじめたいという人にとって、大学のPR情報はノイズになる可能性もあるわけで、そこを理解したうえでサイトが設計されているのかもしれません。
また、ものすごく極端な考え方ですが、大学の存在意義を突き詰めた先にあるのが、めざす人材を世に送り出すことなのであれば、必ずしも自大学で育成しないといけないわけではないと思うんですね。情報やノウハウを伝えることで、自大学以外の学生も、そのような人材になれるように促していく、そんなアプローチもありなのかもしれません。だいぶストイックで、ぶっ飛んだやり方ですが、ここまでドギツくめざす方向を社会に示せるなら、“自大学に興味をもって欲しい人”の目にもつきやすくなるように思います。
今回、“自大学に興味をもって欲しい人”に、どうやったら振り向いてもらえるかについて長々と書きました。これを実践するのって、やっぱりすごく大変だとは思います。“自大学に興味がある人”にきちんと情報を届けたうえでやらないといけないし、方法論もまったく固まっていません。とはいえ、こういった先も見えない、やり方もわからない、でもやらなければいけないことに挑んでこそ、”入試広報に力を入れる”と言えるのではないでしょうか。
一方で、大変とはいえ、楽しい取り組みだとも感じています。男女の恋愛だって、つきあえるからつきあうより、理想の女の子(ないし男の子)にアプローチすることの方が、きっとずっとテンションが上がるはずです。どうやったら振り向いてくれるかをワクワクしながら考え、トライしてみる。そんな活動を長く続けていくと、従来の入試広報にも活かせる知見が貯まっていくだろうし、18歳が減っていくという現実に必要以上に悲観せず、前向きに入試広報に取り組めるのではないか、そんなふうに思うのです。
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