大学のリカレント教育に残された道はこれしかない。徹底的に個人に寄り添った”学び直し”について考える。
最近、教育未来創造会議の第一次提言について詳しく内容を聞く機会がありました。このなかで「学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備」が、大きなテーマとして挙がっていたこともあり、リカレント教育について改めて考えてみて、何となく自分のなかで整理ができたので、一度まとめてみたいと思います。
まず、本提言でも言及されているのですが、日本人は諸外国に比べて「日本の企業は学ぶ機会を与えず、個人も学ばない傾向」があるとされています。
私も以前はそのように思っていたのですが、実はそうではなくて、日本には日本なりに学ぶ機会がけっこうあるように思うんですね。その学ぶ機会というのは社員研修です。パワハラをしないようにするためにはどうするべきかとか、個人情報の適切な扱い方とはどういうものなのかとか。これって、大学の視点でいうと、おそらくリカレント教育の範疇に入っていないと思います。でも、知らないことを学ぶ、自分をアップデートするという意味では、これはこれで立派なリカレント教育なのではないでしょうか。
で、これがリカレント教育の範疇なのであれば、大学側がよく言うリカレント教育と大きく違うところがあります。それは、再現性です。パワハラ防止については、学んだことを実務のなかですぐ再現することが求められます。さらにいうと、簡単なテストを行うことで、受講生のうち、およそ何割が身につけたか(=再現できそうか)を数値化して示すことも可能です。一方、哲学的な視点やAIの知見をビジネスに取り入れる(=再現する)ことは、たとえそれにつながるきっかけを教育から手に入れたとしても、それがいつになるかわからないし、何をもって取り入れたというのかも定かではありません。
では、企業が比較的お金を払いやすい社員研修を大学が行うのかというと、できなくはないでしょうが、わざわざ大学がやる必要はあまりない。というより、研修企業に大学が競り勝つのはちょっとむずかしいのではないでしょうか。だって社員研修は、最先端の知識よりも標準化された知識の方が重宝されるし、何かを探究するということ自体が求められていないわけで、大学の強みがほぼ使えないからです。
大学に向いているのは何かというと、新分野を切り拓く人材を一人(ないし少数)、徹底的に磨き上げるというアプローチです。明日すぐに使える知識や技術ではないけれど、中長期的にイノベーションを起こす(かもしれない)人材を育成する、これであれば大学の得意を活かせそうです。では、企業がこういった教育に興味を示すのかというと、現実問題、実はけっこう難しいように思うんですね。
というのも、大学ではあくまでベースとなる知識を学ぶだけで、それをビジネスに発展させるのは業務のなかでです。しかし、企業がまったく門外漢の分野の専門性を持った人材を評価することも、育成することも、活かすことも、すごく難しい。だって、基準になるものがないから、いいも悪いもいえないし、アドバイスもできないからです。とりあえず一人入れるのであれば、すでにその分野で評価が定まった人材(=実績のある人材)を入れますし、入れるまでもなくお試しで何かをやってみるなら、他企業に外注するか、大学に共同研究を持ちかけるのが理にかなっています。あと、すでに評価・育成できる環境が整っているなら、今の日本であれば、新卒で人材を採るはずです。だって、そっちの方がコストもリスクもかからないからです。
……そう、リスクなんです、学び直しは。今回の提言を読んでいて強く感じたのですが、会社の社員の育成と、個人のキャリアアップ(≒転職)は両立しないんです。キャリアアップに使えるのであれば、会社にとって社員のリカレント教育推進はメリットとリスクを天秤にかけることとなります。そして、よっぽど自社に自信がなければ、リスクに天秤が傾くはずです。じゃあ、会社に肩入れしてリカレント教育のあり方を変えていくのかというと、会社が基本的に欲しがっているリカレント教育は社員研修なわけです。
そうなると、もう道は一つして残されていないんですよね。大学のリカレント教育に残っているのは、徹底的に個人を磨き上げ、キャリアアップさせる場、という道です。世の流れとしても、終身雇用制が崩れ、働き方が多様化してきていることを考えると、企業よりも個人につくほうがいいように思います。
では、今の大学のリカレント教育が、個人にしっかり寄り添っているかというと、そうではありません。リカレント教育受講者に向けたキャリアサポートは確立されていないし、リカレント教育を受けた卒業生たちのネットワークの構築も、一部の社会人大学院を除くとまだまだです。そもそもキャリアアップに全振りするなら、働きながら学べることよりも、奨学金制度を充実させた通学制教育の方がいいように思います。
そして、これら学びを徹底していけるなら、特定の大学のリカレント教育を受けた人材の市場価値があがり、転職市場での大学ブランドというのが生まれるはずです。今後も少子化が続いていくことを考えると、18歳からの評価と同じかそれ以上に、これが大事になってくるように思います。
現段階だと大学のリカレント教育を発展させる方法は、可能性を探る、という段階ではなく、これしかないという状況にあります。であるのに、多くの大学が煮え切らない対応をしているわけで、早々に腰を据えて取り組んでいくべきではないかと思うのです。あまりこのnoteで強い主張はしないのですが、これについては、もうこれしかないんじゃないかと強く感じている次第です。このテーマについて、ぜひいろいろな大学と意見交換できるとうれしいです。
ちなみにこの考えに至るまでに考えていたこととして、こんなことがあります。こちらも、ぜひ一緒にご覧ください!
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