電波鉄道の夜7
歩き出した男の人の後ろについて、隣の車両の扉をくぐる。
扉をくぐった途端、静寂は消え去った。代わりに耳に飛び込んできたのは活気ある市場の喧騒だった。ワクワクと品定めをする声、一人でも多く客を捕まえようと呼び込む声、狡猾そうに価格を交渉する声。今までの静かな車内から一転、くらくらするような活気が僕を包んだ。
その賑やかさがなんだか恐ろしくて、男の人の後ろに隠れるように車内を進んでいく。よく知らない人だけれども、全く知らない人たちから隠れる分にはそれで構わない。
男の人は僕をちらりと見てから、特に気にしないことにしたのか何も言わずに足を進める。
いろいろな品が並んだ商店が所狭しと並んでいる。大きな店と大きな店の間にはその隙間を埋めるように小さな露天商が店を開いている。
「ちょっと見せてもらうぜ」
前を歩いていた男の人が足を止めたのは、数匹の鳥を並べた露店の前だった。動きを止めた鳥たちがぴくりともせずこちらを見つめている。
「これは何ですか?」
「鳥のお菓子さ」
「こんなに本物みたいなのに?」
「じゃあお菓子じゃないのかもな」
僕の質問に男の人はおざなりに答えた。鳥たちを見るのに夢中で僕への興味は失ってしまったようだ。
鳥たちの視線から逃れるようにあたりの店を見回した。色んなものが並んでいる。見たことのあるようなもの、見たことのないもの、見たことがある気がするのにどこか違うもの。
そうだ、と自分が探しているものを思い出す。女の子、モネに似たあの女の子はこの車両にいるのだろうか。
いくつかの屋台越しに、遠くの屋台のショーケースの中身と目が合った。思わず体が動く。商店と商店の間をすり抜けて、その屋台に向かう。
「モネ」
息が止まる。
ショーケースの中にはモネの顔が首だけになってこちらを向いて微笑んでいた。
「おお、お客さん。それをみとめるとはお目が高い」
店主が僕の方を見て大仰な口調で言った。
【続く】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?