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昼の色#1 電車にいたヒーロー

ある日の休日14時。
JR 京浜東北線は人がまばらに座っている。

段々と朝晩が冷えるようになり、秋めいてくる。
埼玉から神奈川までを結び、都内を横切るこの電車では
ビルが景色を作っていく。

今日は電車が好きな5歳の息子と東京駅まで行き、
電車をただひたすら見る会を男二人でしてきた帰り。

息子は新幹線とかではなくJRの在来線が好きなようで、
この前新しくなった電車を見る度にどこが変わったのか?と
電車の隅々までじーっと観察する。

違うところを見つけると、
「○○線で見たやつのお顔とこれ違う!」と言い、
どこがどのように違うのかをこと細かく僕に報告をしてくる。


そんな彼にも数日前妹ができた。

最近は特に「僕お兄ちゃんだから!」と頑張って絵本を熱心に読んだり、
苦手な野菜にも挑戦する《妹には弱いところを見せれない!カッコいいお兄ちゃんキャンペーン》を行っている。

今まではママと僕にベタベタにくっついて甘えていたのに、
下の子ができるというだけでここまで急に成長するものなのかと
驚く毎日だ。

ママがいないと不安でいっぱいになりいつもぐずるのに、
出産で家にいなくても泣き言一つ言わない。

 逞しくなったな。


そんな現在絶賛成長中の息子との帰り道。

電車に乗っていると、遠くの方でゴロゴロ、カラカラ音がする。

音のするほうを見ると、ビールの空き缶が転がって電車の揺れに合わせて
右に左にゴロゴロ...

 仕事帰りによく電車の中でお酒を飲む人が置いてったやつだ。
 まったく、いい大人が...きちんと片付けろよ。
 そもそもなんかで電車で飲むなよ

周りの大人たちも僕と同じことを思ったのか、
不快な表情を浮かべている。

だが、誰もが缶を見て見ぬふりをするだけで、拾わない。

それはそうだろう。

どこかの誰かも分からない、だらしない酔っぱらいが置いていった空き缶なんて誰が触りたいと言うのか。

 子供の手前無視するのも親としてダメだろう...

 近くにきたら拾おう。

そう思った。
その時、隣にいた息子がいないことに気づく。

どこに行った?と焦り、視線を動かすと
彼は転がっていた缶を拾い、
ホクホクした誇らしげな表情で僕の元へ戻ってくる。

それと同時に周りの大人たちの驚きと優しさ、そして恥ずかしさが混ざった視線が彼の小さな背中に集まる。

それはまるでヒーローを見るかのように。

「パパ!これ落ちてた。電車はみんなが乗るからお片付けしたよ!」

こんな小さいことなのに、「誰かがやってくれる」と人に押し付けよう
なんてどれだけ自分はちっぽけなのか...

「偉い。すごいことをしたね!後で一緒にポイしに行こう。」

息子の頭を撫でる。


小さいことに拘って、動けなかった自分の浅ましさを
彼は軽々と越えてゆく。

僕は彼を見習わなければならない。

次は彼のヒーローになれるように。

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