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試着室に入ったら、自分の身体が少しだけ好きになれた話。

思春期を迎えたあたりからずっと、自分の身体に自信が持てなかった。

自信が持てないならまだしも、鏡を見るたびに「どうしてこんな身体に生まれてしまったんだろう」と悲しくなるばかりで、最近よく聞く「ボディポジティブ」なんて言葉に共感を覚えるのは、夢のまた夢だ。

いつも自分の見た目や形を否定ばかりして、誰かと比較して、勝手に傷ついて。そんな情けない自分を知ると、また自己嫌悪に陥る。

このままではいたくない。せっかく生きていくんだったら、自分の身体を嫌わないで、できれば好きになれたらいいのにと思っていた。

そんな私に転機が訪れたのは、思い立って入った、あるお店の試着室。

普段なら手にとらないような洋服に触れたことが、鏡の前の私を勇気づけるきっかけとなってくれたのだった。

試着室なんて、怖くて入れなかったのに


その日私が訪れたのは、新宿ルミネにあるガリャルダガリャンテ。

ここはずっと気になっていて、新宿駅に立ち寄るときは、ほんの少し覗いては、しかし、なにも買えずに逃げるように退店していたお店である。

なぜ私が逃げ腰だったかというと、ガリャルダガリャンテは明らかにおしゃれ〜〜なお店だからだ。

お店の中へ一歩踏み入れれば、ベルガモットとマグノリアのような甘く爽やかなアロマの香りがいっぱいに広がっていて、その良い香りに負けず劣らず美しい洋服たちが陳列されている。

店内は明るすぎず、けれど暗いわけでもない、ほど良く調整された暖色の光で照らされていて、並べられた洋服の魅力をより一層際立たせていた。

私はなるべく目立たないようにお店に入り、ちょこっとだけ店内の品を観察するのだが、なにか一つにでも興味を持とうものならば、「おしゃれ上級者です!!」と言わんばかりのハイセンスな店員さんが「ぜひ、鏡で合わせてみてくださいね」とニコニコと弾けるような笑顔で声をかけてくれるのだ。

貧乏な学生時代を送り、服と言えば家族からもらうお下がりばかり。

おしゃれとはほとんど縁遠かった私からすると、その場所はあまりにハードルが高く、どこか自分には不釣り合いな空間だと感じていた。

しかし、その日の私はいつもより少し堂々とした態度でお店に入った。実は、心のなかで決めてた、あるミッションがあったのだ。

それはこのお店で、「試着をすること」。
そんな簡単なことかと思うかもしれない。でも、全国のコミュ障内向的フレンズの皆さんにはわかると思うのだが、試着ってマジでハードルが高い。

UNIQLOやGU、H&Mなど、いわゆる「ファストファッション」と言われるお店で試着する分にはそれほどハードルを感じないのだけれど、こういうハイパーファビュラスなお店では、そういうわけにもいかない。

なぜなら、試着室に行くためには店員さんに声をかけなくてはいけないからだ。

「この洋服着てみたいんですけど〜」
とその一言を言うためには、まず、

①自分に似合いそうな洋服を選ぶ
②店員さんに声をかける

の二段階の関門をくぐらないといけない。

それどころではなく、試着を頼んだら、

③キレイなお洋服を汚さないよう、細心の注意を払って試着する
④タイミングを見計らって、試着室から出る
④試着室の前で待っている店員さんの「お似合いです〜!」攻撃に耐える


という、さらに三段階の壁があるのだった。
普段の私なら無理だ、絶対に無理である。

ちなみに、試着が怖い理由は私のコミュニケーション下手以外にもう一つある。

そもそも私は零細フリーランス。洋服にかけられる予算は雀の涙ほどしかないのだから、ここのお洋服なんて気軽には買えやしない。

この前、このお店で「かわいい!」と思って手に取ったスカートが、私の食費3ヶ月分以上のお値段だったときは目が飛び出そうなほどビビって、慌ててラックに戻した。

買えないものを試着するなんて。
そのためにおしゃれな店員さんに声をかけて大事な時間を奪うなんて。
それはひどく厚かましいんじゃないかと思っていたのだ。

しかし、私はどうしてもこのお店のお洋服が着てみたかった。
私の今年の目標は「ちょっと良いお洋服をさらりと着こなせるおしゃれな女になること」。

自分のことは好きになれないが、自分の好きなものを着たら、好きなお洋服に包まれたら、全部まとめて愛せるような気がしていたのだ。

一歩踏み出さないと、何も始まらないから

というわけで、いざ出陣。
私はなるべく静かに、そして丁寧に店内の洋服を見て回る。すると、気になるアイテムがあった。

一つは、ストライプ柄のスカート。生成りっぽい白と、上品な黒の配色が可愛い。触れてみると、ストレッチのある素材でこれなら体型を選ばずに着れそうだ。

次に気になったのが、ブルーのストライプシャツ。どっちもストライプかいと思ったが、なんとなくストライプ柄を着こなす大人に憧れていた節がある。

このシャツは、やや暗めのブルーが大人っぽく爽やかで、少し固めの布地は肌触りが良かった。

(これだ……これでいくぞ……)

心に決めて、近くにいた店員さんに声をかける。

「あの、これ、試着してみたんですけど……」
「ありがとうございます!では、こちらに!」

想像以上に優しい声の店員さんは、私の持っていた2着を受け取り、スムーズに試着室へと運んでくれる。

「こちらに合うようなアイテムも、なにか探してみますね!」

そう言われて待っていると、店員さんが早々といくつかのアイテムを持ってきてくれた。

質の良さそうなアクセサリーに、いつもは着ないようなちょっと個性的なシャツなどが、私の目の前に並べられる。

すごい、あっという間に2種類のフルコーディネートの完成だ。

「こちら、ぜひ着てみてください!」

そう店員さんに言われるままに、私は1つ目のコーディネートを手に試着室に入った。

「かわいい……」

広い試着室で一人きりになった私は、並べられた品を見ながら、思わずそう呟く。

嬉しいはずなのに、この状況がなんだか照れくさくて、そそくさと着替えた。内心、本当に私に似合うのだろうかと不安を覚えながら。

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「あの、これで大丈夫でしょうか?」
「わ〜!お似合いです!」

気まずそうに試着室を出た私を、店員さんは食い気味に褒めてくださる。サービストークだとは思いながらも、こうして褒めてもらえるとやっぱり嬉しい。

(しかも、これは割と似合っているんじゃないか……?)

生意気にもそう思いながら、私の身長よりもずっと大きな鏡の前でくるくると回って全身を眺める。

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最初に選んだストライプのスカートが、身体を優しく包んでいる。
腰周りはキュッとしたタイトなシルエットなのに、嫌な苦しさはなく、むしろ背筋が伸びるような晴れやかな気持ちだった。

ロングの丈が、コンプレックスだったお尻や足を隠してくれるので、安心して着ていられそう。いつもは付けないような、大きな金色のブレスレットが、忌まわしく思っていた浅黒い肌を彩った。

もう一度、鏡を見る。
ピンと正された姿勢は、いつもの暗い表情を鮮やかに塗り替えた。

(なんだ、私、悪くないじゃん)

ちょっとだけ、そう思えた。

大丈夫。自信はきっと、あとからついてくる

2つ目のコーディネートも試着させてもらいながら、私は心がどんどん明るくなるのを感じた。

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(大丈夫、大丈夫)

心の中でそう唱える。なにが大丈夫なのかわからない。
でも、確実に心の内側のモヤモヤした部分が、少しずつ大丈夫になっていく。

あんなに不安だった試着室が大丈夫なら、
今は嫌いな自分の身体も、きっと大丈夫になれるはず。

そう思える日が来ることを、美しい洋服に包まれながら、予感していた。

まだまだ自信はないけれど、あとからついてきてくれることを信じて、もっとたくさんのことに挑戦してみよう。

自分を諦めてしまうには、人生はちょっと長すぎるのかもしれない。

追記:その後のお話し

その日、試着したコーディネートは予算の関係上、購入することは叶わなかったのだけど、その後少しずつこちらのお店に通うようになった。

そして、ドキドキしながら初めて買ったのは、あの日つけてもらった金色のブレスレットと、夏に一目惚れしたワンピース。

どちらも私の日々を、ずっと軽やかにしてくれた。

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(了)

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