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1万円のファンデーションが教えてくれた、1万円以上の体験。

この前、それはそれは奮発して1万円のファンデーションを買った。

私のような20代前半の零細個人事業主が、ただ顔に塗るためだけのものに諭吉1人を手放すなんて、誰かに怒られてしまうような気がしてちょっと躊躇したが、どうしても欲しかったのだ。

そのファンデーションは、以前からずっと気になっていたもので、買う前に1度、店頭で使用感を試したことがあった。

高級感のあるコンパクトを開けると、中ではベージュの液体が艶めいていて、ちょっといい香りがした。

「ぜひ試してみてください」

販売員のお姉さんに言われるがまま、手の甲に付けてみると、塗った場所が自分の肌じゃないようにキラキラと光って、心が踊る。まるで、水分の膜で包んだような艶と品の良さは唯一無二だ。

「これは、買うしかない…」

衝撃的な美しさに心を奪われた私は、そう決心して、後日改めてお店に赴き、ついに手にしたファンデーション。買った当日はもったいなくて、開封できなかったが、その翌日はちょうど人と会う予定があった。

私は自分の見た目に自信がない。丸まっちい輪郭が嫌だし、鼻先が上がっているのも恥ずかしい。浅黒い肌は小麦肌なんて言えば聞こえはいいが、透き通るように白い肌の女の子が死ぬほど羨ましかった。

コロナ禍になって、マスクで顔が隠せるのにホッとしていた。自意識過剰だと思うかもしれないが、自分ですら鏡でしか確認できない自分の顔を、知らぬ誰かに見られるのが恥ずかしいのだ。

そのせいなのか、初めて会う人とも積極的に仲良くなることができないことが多い。

しかし、その日の私の手には、奮発して買ったファンデーションがあった。普段だったら絶対に買えないような、特別な特別なもの。

パフにファンデーションをのせて、顔に付けてみると、あの日お店で見た上品な艶めきが少しずつ顔全体に広がっていく。

鏡の中でいつも不安そうな表情をしていた自分も、今日はどこか晴れ晴れとしたように見える。

せっかく買ったファンデーションを塗っているんだ。前を向かないともったいない。そう思って歩く街は、いつもより色づいて見えて、自然と背筋がピンと張る。

高価なものを自分のために買うのはもったいない。
化粧品を買うくらいなら、もっと人生に役立つものを買わないと。

そんなふうに卑屈になっていた思いが、いつの間にかゆるゆると溶けていく。自分に自信を持つために、自分が心地よくあるために使うお金は決してもったいなくなんてないんだ。

役に立つわけでも、成長に繋がらなくても、自分を愛するためにお金を使う体験を、大事にしていこう。

今日も私は特別なファンデーションを付けて、まっすぐ前を向けている。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。普段は「ままならない日々を豊かにする」をテーマに発信をしています。他にもこんなnoteを書いているので、ぜひ覗いてみてください。


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