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あやとり家族⑥

ももちゃん、おちんちんを買いに行く

珍しく、お兄ちゃんとすずちゃんと遊んでいた時のことだった。お兄ちゃんが「立っしょんしてくる!」って草むらの方に行った。いつもそうだった。後ろから見ていて水道をひねった時のようにチョロチョロとおしっこをしている。しかも立ったまま。私も早くお兄ちゃんみたく”立っしょん”というのをやってみたくて、マネをして立ったままおしっこをしたことがあった。

あ母さんに言われた。「ももちゃんは、女の子だからできないのよ。ほら靴も靴下もおしっこで濡れてしまうでしょ?」
それを聞いた私は、それでもいつか生えてくると信じていたため、今だけのことだと思い込んでいた。

しかし、いつになっても生えてこない。お母さんには何度も何度もいつ生えてくるのか聞いたが、答えはいつも「ももちゃんは女の子だからおちんちんは生えないのよ」だった。

確か4、5歳くらいのことだったと思う。三輪車に上手に乗ることができていた私は、おちんちんが生えるのを待ちきれず遂にお母さんにこれから実行することを伝えた。

「お母さん、ももちゃんね、今からおちんちん買いに山田さんのところに行ってくるから」
山田さんとは商店街の一角にある酒屋さんで、モーテルにも飲み物を卸していたし、ちょとしたお菓子やお味噌タバコなんかも販売していた。だから、たまにお遣いを頼まれて父が吸うタバコを買いに行かされたりもしていたから私とは顔馴染みだった。

お金も持たずに家を出発し「これでやっとおちんちんが買える!ももちゃんも立っしょんができる!」と心を弾ませ、三輪車を漕いでいく。この信号を渡れば山田さんのところに着く、っと思った瞬間三輪車が動かなくなった。後ろを振り向くとお母さんが三輪車を押さえつけていた。
「ももちゃん、どこへ行くの?」「山田さんのとこ、おちんちん買いに行くの」
「ももちゃん、おちんちんは売ってないのよ。心臓だって売っていないでしょ?」
「いーやーだー、買いに行く!おちんちん欲しい」とその場で大泣きした。

お母さんがモーテルの清掃をしていた時に、私からの決意の言葉を聞いていたため話半分だったのだろう、だけど後になって私の発言を思い出し必死に追いかけてきたに違いない。

買いに行きたい私を力ずくで押さえつけ、三輪車と共に家に連れて帰らされた。
私は、後もう一歩でおちんちんが手に入ったのにと悔しくて大泣きした。
あれだけ、説明されたにも関わらず”男女”の区別がつかない子どもだった。自分が男であるとか女であるとかそういった区別がついたのは、小学校5年生。学校で生理の話を習った時だった。「あっ、私って女なんだ」って。
なんで男と女に別れなければならないのか、小学校に入ってからも不思議だなと思う出来事は確かにあった。ランドセルの色が違うなんで?から色々と。

もうこの時点でASD的な要素?のようなものはあったと思う。ただ、時代的に「他の子と同じ」という考え方の方が主流だったのだろう。
だけど、この子は何か違うなって親なら気づいていたと思う。


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