あやとり家族③
じーちゃんが変わった訳
じーちゃんはインドアでDIY人間。明治生まれということ、田舎育ちで都会に出てきて一人で商いを始めてコツコツとお金を貯めた人。だから物はとても大事にする。一回鼻をかんだティッシュペーパーは乾かして使えるだけ使う。
一度使った工具は必ず綺麗に掃除して、使っていない工具は適宜メンテナンスを必ずする。だから余計なものは絶対に買わない徹底ぶり。
そういえば、じーちゃんの戒名に徹底の”徹”っていう字が入っていたな。
そんなんで、一代で財を築いた人。要するに金持ちじーちゃん。
だけど、偉そうな素振りは全くなくむしろ寡黙な人。だから子どもの相手もあまり得意ではなかった。独りで色々とやってきた人だったから周りの人のことをよく観察している人。そんなイメージ。
家には鯉を飼うための池があり、もちろんじーちゃんのDIY。時々、すずちゃんがお母さんに落とされているのを見ていた場所でもある。今だったら幼児虐待で捕まる。
池の周りにはじーちゃん自慢の植木が綺麗に手入れされて並んでいた。じーちゃんはとてもこだわる人で気にいるまで手入れをするため「お昼ご飯だよ」っと呼んでも一度では来ない。自分が気にいるまでやらないと気が済まないタイプ。
ある、雨の日。じーちゃんはテレビを見ていた。外に行けない時は掘り炬燵のいつもの席に座り一日中テレビを見るのが日課。モーテルの仕事には一切関らず自由にしていた。(どうやらモーテル開設の出資はじーちゃんだったらしい)
そこで私はじーちゃんに近づいて一言。「遊んで!」と。それしか思い浮かばなかったのだと思う。私はこの時、じーちゃんが子どもが得意ではないことにもちろん気づいていないから。
じーちゃんはきっと困ったんだと思う。
「じゃあ、肩叩いてくれよ」どうしようもないからとりあえず言ったセリフ。
でもその一言が私は嬉しかった。
「ねえ、じゃあじーちゃんの後ろ行っていい?」
「いいよ」
私はすぐにじーちゃんの背後に周り肩を叩き始めた。
どのくらいの強さで叩けば良いのか、速さは?強さは?どうしたらいいのか全然分からなくって、いちいちじーちゃんに聞きながら叩いていた。
じーちゃんは「ちょうどいいよ。上手だね」って褒めてくれた。
とても嬉しかった。だってじーちゃん笑って私に答えてくれていたから。
きっとじーちゃんは私が一人でいることをわかってくれていたんだと後から思う出来事があった。でもじーちゃんは偽物だし本当は私にもっとしたいこともあっただろうなって勝手に妄想する。
私の家は本家とプレハブで分かれていた。
ただ、そこに生まれた双子の姉妹が同じ敷地内で別々の親に育てられた。
姉のすずちゃんは本家でばーちゃんに育てられ、妹の私はプレハブで母に育てられた。
ばーちゃんは出かける時、すずちゃんは連れて行くけど私のことは連れていかない。母にも何も言わず出て行ってしまう。だから気付いた時には二人ともいない。
そんな状況を何度も見ていたじーちゃんは、私をだんだん受け入れるようになっていった。
「ももちゃん、床屋行くけど一緒に行くかい?」って誘われた時は嬉しかったな。
そうやって、会話が増えていって、毎朝じーちゃんに会いに本家へ行くのが楽しみになっていった。