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中国山地を制覇せよ-2

時速25キロでゆったりと流れていく景色は眠気を誘う、スピードを落として加速してまたスピードを落として、これが繰り返されるうちにすっかりうたた寝してしまい目が覚めると半分ほど進んだ先にある林野駅だった。

林野駅は隣に勝間田駅という縁起の良さそうな駅があるせいか、戦時中林野は「早や死の→早死に」を連想させるとして避けられ、徴兵に駆り出された地元の人々は隣の勝間田から出征していったという逸話があるらしい。このあたりになると少しずつ地元の利用客も増えてきて徐行をすることはなくなっていた。基本的に乗客の数と徐行の頻度は反比例するのでそのあたりを意識して乗っていてもローカル線は楽しい。

9:31に津山着、津山は因美線と津山線も交わり四方に線路の伸びる交通の要衝で、岡山最大規模の盆地である津山盆地に10万都市を築いている(近年ついに10万人を下回ったらしいが)。駅前広場に出てみるとまだ午前9時だというのに酷く暑い。トイレの往復だけで汗だくになってしまう。果たして太陽の昇り切る昼間の気温は如何程か、恒例となっている酷暑の日々を盆地で過ごすのはさぞ厳しいことだろうと肌で実感した。

30分強の接続で姫新線リレーのアンカーである10:07発新見行き859Dに乗り込んだ。そろそろ見飽きてきたこの顔だが、ここから先も6時間ほどはお世話にならないといけない。

姫新線は佐用から津山を経て美作落合のあたりまでずっと中国道に並走する形になる。津山を出たこの区間は線形も良く平坦で70キロほど出し軽快に飛ばしていく。しかし並ぶ中国道は高速道路、ローカル線必死の走りも虚しく乗用車やトラック、高速バスはすいすいとディーゼルカーを追い越して先を急いで行ってしまう。都市間輸送の役割は完全に高速道路に譲ってしまっていることを実感せざるを得ない場面だ。

途中中国勝山までの区間は徐行もなく快適な走りだが、そこを過ぎれば再び最閑散区間の趣になる。鬱蒼とした山あいの車窓に時速25キロの必殺徐行、単調な景色に耐え抜いて11:48に新見着。本番はこれからだというのに既に疲れ始めていた。

新見では60分強の待ち時間が発生するが、特急やくもも停車する新見市の中心駅だというのにあろうことか空調のある待合室が存在しない。これではたまらないので照り付ける日差しに体力を奪われつつも、蒸し焼きを回避すべく徒歩10分程度の立地にある「にいみショッピングタウンプラザ」に避難した。

建物内に「いんでいら」という昭和の雰囲気が残るレストランが入居しており、丁度昼時であったため日替わりのランチを頂いた。後になって岡山名物であるえびめしがオススメされていたことに気付いて少し後悔したが、周りを見ても常連とおぼしき人々は殆どこの日替わりを注文していたし、実際バランスも取れていてエビフライがたまらなく美味かったのでどうでもよくなった。

レトロなショッピングセンターで少しばかりの買い物を楽しんだら、再び灼熱の炎天下をくぐり抜けて新見駅を目指さなければならない。この日は10分弱歩いただけでも熱中症を覚悟せねばならないレベルの酷暑で、地元のご婦人達もあまりの暑さに耐えかねているのか「家から出られん」と井戸端会議で愚痴をこぼしていた。

13時前に新見駅に戻ると、地元の人以外にもいかにもと言った風貌の人々がカメラや時刻表を手に列車を待ちわびていた。間違いなくこの後の芸備線で備後落合方面に向かうマニアの軍勢だ。この前の4連休では地元民積み残し騒動が起こるような大混雑を引き起こしたらしいが、この日は平日ということもあってかそのような悲劇は起こらずに済みそうであった(地元の人々からすれば我々が傍迷惑な存在には変わりないのだろうが)。私もその軍勢に加わるような形でホームに登り、列を成さない1両の列車を待つことになった。

ところで「岡山の県北にある川の土手」といえば一部の方々に広く知られる単語だが、ちょうどその岡山の県北に位置する新見の駅前には土手のある川が流れているということをお伝えして今回はここまでにしたいと思う。