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今日も、わたしは あの人の帰りを待つ。

あの人が、わたしの元を去ってから5年になる。

この町の風景も、そして この店も 大きく変わったことはない。

変わってしまったのは、わたし自身なんだろうか。

わたしはあの人のことが今でも大好きだ。

でも、その思い出は 少しずつぼんやりとしたものになっている気がするのだ。

いつかまた、あの人に会える日が来るんだろうか。

ただ、わたしはあの人の言葉を信じている。

「必ずまた戻ってくる。だから待ってて」

ひどいな。

わたしは、約束守ってずっと待っているんだけどな。

「今日も帽子が素敵だね。さすがこの町のおしゃれ番長だ」

最近、ここに越してきたという 男は、わたしに とても 馴れ馴れしい。

「今度、一緒に出掛けないか?」

わたしは、自分の両手をきつく握って、男を睨み付ける。

「そんなに気を悪くしないでくれよ。
でも、オレは本気マジだからね」

なにが本気マジだ。

わたしの頭の中にはあの人にしかいないんだ。

カラン、と鳴るドアのベルと共に男は店を出た。

「ははは。悪い人じゃないと思うけど、君にはやっぱりお気に召さないか」

白髪頭の店長が笑いながら言う。

店長には嘘がつけない。

多分、わたしの心も全部お見通しなんだ。

「今日はどの帽子を被ろうかね」

店長はいつも わたしが その日被る帽子を決めてくれる。

店長のセンスは定評がある。

「どんな人にでも、必ず似合う帽子があるんだよ」

店長の口ぐせだ。

そう言われる度に胸がキュッと痛む。

あの人もいつもそう言っていたから。

カラン、ベルが鳴って店長と一緒に
いらっしゃいませ、と言おうとすると。

一人の男性が大きな荷物とトランクを両手に店へ入った。
 
背が高くて、帽子からはパーマのようなクセ毛が少し見えていて。

紫色のタートルネックに
グレーのジャケット、
そしてベージュのチノパン。

笑った顔が子どもっぽい

私の大好きなあの人だ。

「父さん、ただいま」

店長はとても嬉しそう。

「ただいま。
ぼくのことずっと待っててくれたんだな。
えらいぞ。ありがとうな」

そう言って彼はわたしを撫でてからやさしく抱き締めた。

「ますます可愛くなったな、うちの看板猫。」

わたしは嬉しくて、にゃあ、と鳴いた。

こちらの作品は、

えぴさん 企画の 「猫と帽子の創作コンテスト」応募作品です。

猫も帽子も大好きな私。

なので、この企画の参加を決めました。

普段はエッセイ、日記などを書いているため

小説(ショートショート)はこれでまだ三作目。

ですが、あえてショートショートの物語で
応募したのは

えぴさんご自身も、初めての企画と知ったためです。

私自身にとっても、こうしてショートショートにまた新たに挑むことは貴重な機会だと思いました。

開催期間:
10/18(月)〜11/14(日)
開催期間中に投稿した新規記事(1人2作品まで)
・猫、帽子、又はその両方の要素を含んだもの
(含ませ方はあなたに委ねます)。
・3000字以内で小説・詩・イラスト等々。
創作物だと自身が言えるものであれば基本何でも可。

詳しくは、企画に関する、えぴさんの投稿記事をお読みくださいね。

えぴさん、素敵な企画をありがとうございます。
また1作品 思い浮かべたら
その際はまた書かせていただきますね。

読んでくださった皆さん
ありがとうございます。


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