【イベントレポート】北海道宇宙サミット2022 Session5 宇宙で加速する、スマート農業とサステナブル社会
登壇者
国立大学法人 鹿児島大学 教授 後藤 貴文氏
ホクレン農業協同組合連合会 代表理事会長 篠原 末治氏
INCLUSIVE株式会社 代表取締役社長 藤田 誠氏
ケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役社長 高岡 浩三氏
インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長 稲川 貴大氏(モデレータ)
稲川氏:
ロケットや人工衛星は打ち上げて終わりではなく、既存産業との掛け算で価値が出ます。特に今回は農業分野を明らかにします。皆さんから自己紹介をお願いします。
後藤氏:
牛の放牧について研究しています。放牧は牛がなかなか太らないため普及しないので、太らせる方法を研究しています。
2040年には日本の半分の町村が消えると言われており、耕作放棄地、限界集落、日本の国土、島といった日本の土地利用を考えたときに、こういった場所で換金率の高い牛肉ビジネスをできないかと考えています。このような環境で牛を管理するためにIoTや宇宙技術を使っています。
篠原氏:
ホクレンは1919年に設立された全道の農協で組織している連合会で、105の農協が加入しています。役割は生産者の活動支援です。生産に不可欠な資材、エネルギー、技術、情報など、安定生産をサポートしています。
もう一つの役割が消費者への食の安定供給です。全国へ安全安心な農畜産物を届けています。
農業人口が減少し高齢化も進む中で、国際情勢による資材の高騰などが様々な課題を与えています。食料基地としてさらなる役割の発揮、生産基盤の維持強化、農業所得向上、環境負荷軽減、安心して暮らし続けられる地域社会の維持、どれか一つ欠けても持続可能な農業は実現できません。
そこで注目されているのがスマート農業で、現場に即した推進と普及を進めています。
稲川氏:
ホクレンの取扱高は1.5兆円と桁違いで、北海道農業の力を感じます。北海道の平均耕作地は30haですが、東京ドーム6個分が一戸の農家ということになります。十勝に限ると40haを超えます。この地域は攻める農業、大規模化、スマート化が必要と感じています。
藤田氏:
INCLUSIVEは2007年にできた会社で、出版社やテレビ局などのDXに取り組んできました。宇宙事業は今後注力したい領域で、今年4月に札幌でINCLUSIVE SPACE CONSULTINGという会社を作りました。
資本提携しているインターステラテクノロジズ(IST)、出資している北海道スペースポート(HOSPO)との連携も踏まえ、地上のお困りごとを衛星データで解決したいと考えています。
No.9と我々で「晴天のデルタブイ」というWEBTOONも制作しています。北海道の宇宙産業の中心はIST、HOSPOだと思いますが、知っていただかないと関係人口は増えません。子どもからご老人まで楽しめる漫画でISTの挑戦を知っていただきたいです。
2月にリリースしますが、映画化やドラマ化も進めたいですし、舞台の大樹町に観光客が来る聖地開発もしたいです。
高岡氏:
ホリエモンから頼まれてISTのマーケティングアドバイザーを務めています。どうしてISTがロケットを打ち上げるのか、もっと日本でのPRが必要ではないか、何のために日本に宇宙ビジネスが必要なのか、どんな問題解決があるのか、などについてPRをお手伝いしています。
大学卒業以来、40年ほどネスレという世界最大の食品企業で働きました。キットカットやネスカフェを扱っており、「きっと勝つ」という受験キャンペーンは私とチームで作りました。ネスカフェもキットカットもネスレグループで世界一の売上と利益を誇っています。
ネスレはサステナビリティやSDGsの概念作りに深く関与しています。スイスで年2回行われるダボス会議は、スイスのネスレとシュワブ教授が中心となって作ったのでスイスで行われています。20年ほど前、ネスレが最初に「企業が積極的に世界のサステナビリティに貢献しなければならない」と言い出しました。
食品企業だからこそ農業とも深い関わりがあります。世界のコーヒー豆やカカオ豆は、ネスレが最も多く購入しています。サステナブルな世界の追求には、買って消費するだけでなく、生産者の課題解決に、購入しているネスレが積極的に関与する必要があります。十分な生産量を確保し、生産者が裕福になるような協力を常にしなければ、お互いがダメになってしまいます。
こうした背景で毎年700~800億円を世界のカカオ豆、コーヒー豆生産者に支援しており、1㎡当たりの生産量が上がるよう研究開発も行っています。持続的に美味しい商品を適正価格で世界に届けるため、企業も生産から考えなければならない。これがサステナブル社会の原点だと考えています。
農業の効率化、若い労働者の参入|
問題解決の役割を宇宙が秘めている
人工衛星が小型化され、リモートセンシングでより高度なスマート農業が日本でも展開される可能性が非常に高いと思います。効率化が進み、経験の少ない若い労働者も可能性ある日本の農業に参入できると考えると、非常に大きな問題を解決する役割がロケットや宇宙産業に秘められています。
日本でもより多くの人に理解いただくことで、たくさんの企業や投資家が宇宙ビジネスに目を向け、投資し、日本の問題解決に繋がる独自の宇宙産業に発展していきます。その一助になりたいです。
稲川氏:
ISTのマーケティングアドバイザーとして日本を代表するマーケターの高岡さんに入っていただいています。我々の取り組みがどのように世の中に還元されるのか、ロケットや人工衛星によるサステナブル社会の実現という文脈で見せていこうと一緒に取り組んでいます。続いてスマート農業の現状についてご紹介いただきます。
放牧牛を衛星で管理、自動給餌で1頭ごとに栄養補助
後藤氏:
耕作放棄地や山、限界集落などの余った土地、島を使って放牧で牛肉を生産する管理手法も研究の大きなポイントです。
衛星には地上の写真を撮る地球観測衛星と、カーナビのような位置を測る測位衛星があります。牛の運動量から餌の必要量を判断していますが、その情報を地球観測衛星と測位衛星の両方で取得し、自動給餌機で餌を与えようとしています。
放牧地を区切って牛を入れると、牧草が食べられるため地面の色が緑から土の茶色に変わります。衛星画像から次の放牧地に入れる時期が分かるわけです。その情報を基に次の放牧地に入れる。
その時に食べた牧草の量を計算し、自動給餌機で足りない分だけ餌を与えます。草の再生状況も分かり、牛がいる場所の草の減り具合も分かるので、効率の良いローテーションが可能です。
首輪にセンサーを付け、測位衛星で牛がどれぐらい歩いたか、どの辺にたむろしているか、どの辺に良い草があるかを推測できます。首輪のセンサーは、牛が寝ているのか立っているのかも分かります。今は採食しているかなど行動まで把握できないか研究しています。
自動給餌機は、行動データや放牧中の牧草地のデータを合わせて個体ごとに餌を補助します。牛舎で飼育している場合は個体ごとの状況が分かりますが、放牧では分かりませんでした。行動や体重の増減などが衛星データで分かることで人間が労働から解放されます。
稲川氏:
ホクレンの篠原会長からも具体例をご紹介いただければと思います。
自動操縦トラクター道内で1万4000台、10年前の126倍
篠原氏:
スマート農業の効果として一つは省力化、自動化があります。人工衛星で位置情報を割り出しながらトラクターなどの農業機械を自動で効率的に走らせたり、自動走行のドローンで農薬の散布を行ったりしています。
トラクターの自動操縦は、10年ほど前の北海道では110台ぐらいしか使われていませんでしたが、今は1万4,000台と126倍に増えています。北海道にあるトラクターの10台に1台の割合で使われています。十勝とオホーツクは畑作地帯なので特に普及しています。人手が減る中で広い面積で作業するには効率的ですし、それを実感している方が増えています。
もう一つの効果として、データ活用による生産性向上が期待できます。衛星やドローンで作物の生育情報を測定、データ化して、これに基づいて栽培を管理する。圃場の状態に合わせた精密な管理が可能です。何十頭、何百頭の牛の活動データを収集し、体調や発情の兆候も把握できます。
携帯電話やカーナビのようにトラクターに受信機を付けることで位置を把握できますが、これだけでは20〜30センチの誤差があります。そこで基地局による補正情報を使うことで、誤差を2〜3センチまで小さくできます。
ホクレンは適正な補正情報を発信するシステムを運用しています。基地局で受信した信号を補正し、インターネットで生産者の携帯端末に送信、Bluetoothでトラクターのガイダンスシステムに送信しています。平成29年から試験的に開始し、令和3年度で全道66JA、51基地局までカバー範囲が広がり、5,000名以上に利用いただいています。
リモートセンシングを利用した可変施肥でコストを下げていく取り組みもあります。地上の物体が太陽光を反射するとそれぞれで波長が異なります。畑に作物があると、生育の良い葉の方が不健全な葉よりも赤い色の反射が少ないのです。生育データを地図情報に落とし、機械と連動させ、生育状況に合わせて肥料を調整できます。
稲川氏:
INCLUSIVEの藤田さんからも具体例をご紹介ください。
藤田氏:
宇宙利用のポジティブサイクルづくりに取り組みたいです。衛星の打ち上げが増え、データの量と質が改善される中で、衛星データを使ったSX、スペーストランスフォーメーション、DXの宇宙版を実現したいです。
作業の効率化や少子高齢化対策、作物の高品質化もできます。効率化や自動化で浮いたリソースで、農作物や地域の想い、ナラティブを生活者に訴求することが重要です。その中で地域産業の収益化が強化され、持続可能な取り組みになると思います。
衛星で施肥量、作物の倒伏被害、メタン排出量、林業を管理
大樹町と土壌窒素量の推定に取り組んでいます。施肥量を調整するため、衛星データで土壌の窒素量がどの程度把握できるか調べています。台風が来た時の倒伏の被害状況を把握できるか、畑の作物を判別できるか、なども合わせて調査しています。メタンガスの排出量も衛星データで確認できると思います。農業以外でも災害時の被害把握や、林業の管理業務改善などにも使えるのではないかと考えています。
他にも現場には色々な困りごとがあると思いますので、解決手段を作っていきます。このソリューションを横展開できると、海外にも輸出できると思います。
稲川氏:
我々はISTとしてロケットを、Our Starsで人工衛星を作る。悩みごと解決のところでINCLUSIVE SPACE CONSULTING社と連携し、宇宙がもっと身近に使われる世の中にしたいです。
最後に北海道宇宙サミットに残したいメッセージをお願いいたします。
後藤氏:
まだまだ衛星データはすぐに使えるわけではないと思います。生みの苦しみだと思います。
衛星はどんどん打ち上げられ、リアルタイム画像を使える時期が来ますが、もうちょっと頑張らないと実現できないので、銀行や投資家の方にはお金を出していただきたいです。
技術立国日本として宇宙の盛り上げを
衛星ネットワークや6Gの時代になったら、色々なビジネスが変わると思います。日本はイニシアチブを取れる領域が無くなっていますから、ここで踏ん張って新しいイニシアチブを取らないといけない。宇宙を盛り上げることが技術立国日本としては大事なことだと思います。
篠原氏:
北海道の鈴木直道知事が食と観光をテーマに挙げています。国の食料自給率は37、38%しかないですが、北海道は200%、十勝は1,100%あります。ここを活かさなければいけない。
国は緑の食料システムを掲げていて、色々なコストを下げて有機農業に向かわなくてはいけません。肥料の3割削減達成のために、ISTに農業用衛星をどんどん打ち上げていただき、衛星を使って管理する。そして、十勝の宇宙観光に結びつくと良い。
我々も北海道の食をしっかり担いながら、宇宙と食と観光をミックスして十勝から発信することが私の夢です。
藤田氏:
衛星データと農業や漁業がどのように関係するのか、十分理解されていないと思います。事例を作っていきたいので、自治体、農林水産関係者の方など、お困りごとを教えてください。新しいソリューションを作っていけると思います。
北海道は優秀な学校も多いですが、東京の企業の刈り取り場になっています。北海道で就職したいと思われる会社を先端産業で作り、上場し、時価総額を高められると良いなと思っています。
高岡氏:
一言で言えば、とにかく稼がなくてはいけない。失われた30年で、日本はあらゆる産業で稼げない国になってしまった。
どうしたら稼げるのか。デジタルトランスフォーメーションは単なるデジタライゼーションとは違います。効率ではなく、稼ぎ方を変えることです。デジタル、AI、人工衛星、宇宙など今まで人類が持っていなかった新しいエネルギーを使いながら、解決できなかった問題を解決することがイノベーションに繋がります。これからの宇宙産業で、日本ならではの問題をいかに解決するかにもっと目を向けて、稼げる国にしてもらいたいです。
稲川氏:
農業の最新状況と、掛け算する宇宙の夢も含めて皆さんに知っていただけたと思います。宇宙の活動と農業国としての北海道はどんどん盛り上がっていきますので、ご期待ください。
北海道宇宙サミット2022全編
https://www.youtube.com/watch?v=tlT_RPJ6AUQ&t=133s
HOSPO整備へふるさと納税募集中
大樹町、SPACE COTAN株式会社は、HOSPO施設の拡充のため企業版ふるさと納税や、個人版ふるさと納税を募集しております。
「北海道に、宇宙版シリコンバレーをつくる」というビジョンに共感いただける皆様のご協力をお待ちしております!
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https://camp-fire.jp/projects/view/637366?list=search_result_projects_popular
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