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Convenience Store in Naked

酒でやらかした話。
まだ平成だった時の話。


その日もいつも通りの朝かと思われた。
昨日の酒が残って少し頭が痛いけれど。
果たして。
一人暮らしシングルベッドの上、
隣でイケメンが寝ていた。

まあ、そのイケメンは昨日一緒に飲んでいた同じゼミの友達なのだが。
昨日は居酒屋で飲んでいたはずなのに、彼は何故うちのベッドで寝ているのか?

トイレに行き、顔を洗うため風呂にいった。
浴槽を見ると吐瀉物が散らばっていた。

そうだ。
昨日は酔っぱらって帰って吐きながらシャワーを浴びたのだった。

当然だが、これは私の"いつも通りの朝"ではない。

異常な朝である。

この異常な朝は私にとっての日常ではないことを一度強調しておきたい。

・・・

何故ツルマル君(イケメンのこと)が私のベッドで寝ているのだろう?

全く思い出せなかった。
ただ、状況を推察するに、おそらく十中八九私が粗相をやらかして、見かねたツルマル君が家まで介抱してくれたのだろう。
今日も研究があるので、とりあえずツルマル君を起こして一緒にゼミに向かった。
道すがら、昨日の状況をツルマル君に聞いた。
――いったい昨日、ぼくらに何が起きたのか。


。。。

以下、風呂で吐瀉物を蒔き散らす迄の記憶は一切ないので、
あくまでツルマル君が観測した出来事となる。
よって、ツルマル君の話に登場する私を便宜上"彼"と表記する。
”彼”はあくまでツルマル君の記憶上における私であり、私が観測する私自身とは区別されるべき対象として取り扱いたいため、以降私は"彼"として話を展開していく。


話は昨日の夜、宴が終わって居酒屋から出たときに遡る。
ゼミのメンバーで集まって飲んでいた。
外に出て開口一番、彼は先輩のシノザキさんにこう言ったらしい。

「見てください。星がきれいですよ。」


その日の空は、

月の光すらも完全に隠す勢いで、

分厚い雲に覆われていた。


優しいシノザキさんはおお、そうだなとか言って適当にあしらってくれた。
足取りも呂律も怪しい彼を見かねた同期のツルマル君とトベちゃんがアパートまで送ってくれることになったらしい。
アパートは二人が使う駅とは完全に逆方向だった。
申し訳ないと思うと同時に、
なんていい友人を持ったんだと誇らしくも思う。

居酒屋からうちのアパートまでは2Km近くある。
それなりの距離だ。
彼は ありがとう、最高 とか譫言を抜かしながら、
二人の肩に凭れて、不安定で安心な歩行を進める。
想像するに、二人は優しいから彼の意味不明な譫言にも、
温かく対応してくれたに違いない。多分。


それなりに歩いて、うちまであと300メートルくらいのところまで来た。
ここで、彼は叫びだした。

「ぎもぢわるいぃぃぃい、あぁぁん」

救えない野郎だ。

救えない野郎だ。

あぁぁんじゃない。
糞愚図痴呆馬鹿餓鬼が、
ふざけるな、
自戒しろ、
人に迷惑をかけるな。


幸いすぐ近くにコンビニがあったので、
ツルマル君は彼をそこのトイレにぶち込んでくれた。
めでたく彼の吐瀉物は下水に流されたのである。

しかし、暫くしても彼がトイレから戻ってこなかったので、
ツルマル君が様子を見に行ってくれたらしい。

丁度、そのタイミングで彼がトイレから出てきた。


裸で



吐き気の前には服の締めつけさえも耐え難い苦痛だったのだろう。
Convenience Store in Naked.
身に着けたもの、
全てを脱ぎ去って、
生まれたままの姿で、
化粧室から出てきた彼を、

英断。

やめろォ!と叫んで瞬時にトイレに押し込んだ。
この賢明な判断のお陰で彼は警察のお世話にならずに済んだのだった。

扉越しに服を着る音が聞こえるまで外で見張ってくれた。
再び彼の恥部を世に晒さないように。

因みに、このコンビニはうちから最寄りのコンビニで非常によく使う一人暮らしの生命線のような場所だった。もし裸を知らない人に見つかっていたら、一生利用できなくなっていただろう。


そして、無事、或いは傷だらけでアパートまでついたのだが、
彼はこんなにも迷惑をかけたにも関わらず、
よくしてくれた二人をそっちのけでシャワーを浴び始めた。
ゲロを吐きながら。

二人はこれを見かねて、
彼を監視するためツルマル君を残してくれたらしい。

突如決まった外泊で。
風呂は吐瀉物にまみれて使えないから、
風呂にも入れないまま、歯も磨けないまま、
そんな最悪の状況で、
ごみ溜めの彼の家に泊まってくれたのだった。

こうして何も知らない愚かな彼が目覚めた冒頭に至る。



。。。

とりあえず身は潔白だったようなので、
ほっと胸を撫で下ろす。

それにしても、である。

そんな状況だったにも関わらず、
朝起きたときツルマル君は嫌な顔一つしなかった。

こんな塵芥を相手にしてくれて、なんて心が広いんだろう。

研究室についてから、トベちゃんにも謝ったが、
彼もまた、全然いいよ、と笑って許してくれた。

嗚呼、美しきかな友情。。。



。。。

私はこの話の真偽の程を知らない。
愉快な虚構か、醜悪な真実か、残念ながら確かめる術はない。
まあ、二日酔いは酒の席の延長線のご愛嬌ということで、
私はこの話を曖昧なままに受け流すことにした。

それにしても怖い話だ。
人の振り見て我が振り直せ。
彼と同じ轍を踏まないように、
今回の話は教訓として心に留めておくとしよう。



最後に、これだけは言わせてくれ。

ツルマル君、トベちゃん。

マジすみませんでした。

そして、ありがとう。



終わり。
(2117文字)

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