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8. ミドルのバンジー退職

転職して約2年の上場したての会社。
手薄感が否めない管理体制の基盤を固め、新しい仕組みを導入することができ、管理部門のプレゼンスは少しづつ高まって行った。

伸び代がまだまだあり、
もっとああしたい、こうしたいと、やりたい仕事がたくさんあった。

ただ、一部役員の理不尽な対応と全く容赦のない激務が重なり、ついに体を壊してしまった。

突発性の難聴だった。

キーンとつんざくような耳鳴り。
気にすればするほど大きくなり、鳴り止むことはない。

いかに気にしないかの戦いである。
WEB会議のイヤホンが辛く、集中力が続かず、そんな不甲斐ない自分に心底イライラした。(こんなことでなんだ、しっかりしろ!自分!)

ある全社幹部のWEB会議中、イヤホンの奥からキーン鳴り響く耳鳴りに耐えられず、気分が悪くなった。

これはヤバいやつだ!
そう直感した。

チャットで「急用で退席します。」とだけ打って、速攻で退社した。
わけがわからない恐怖感で、心臓がバクバクしていた。

医者からは出社抑制が出ていたが、やっぱり医者って凄いなと思った。
長いサラリーマン生活で、初めてのことだった。
ムリがたたり、体が悲鳴を上げていた。

ここは、今の私がいる居場所じゃない。
さんざん考え、悩み、迷ったけど、この会社を辞めることにした。

ありがたいことに他の役員から配慮ある言葉もいただいた。
引き止めもいただいた。
必要とされていることに、感謝の念が湧いて来ていた。

それでも、退職の決意が揺らぐことはなかった。
気がかりは残されたスタッフと組織体制だった。

かくして
管掌役員に時間をとってもらい、こう切り出した。
「この度、一身上の都合により退職させていただきます。」

空気が凍りつく。

驚きを隠せないまま理由を聞かれ、あらかじめ整理していた理由を「3つあります。」として、まるでマシーンのよう淡々と伝えた。
ポイントを明確に、はっきりと伝えたかった。
その上で、私の退職後の組織案を時間軸を含めいくつか提示した。

予想通り引き止めをいただくが、ここが「勝負どころ」であった。

まず、私の退職に関して決めるのは経営ではなく「私」であること。
ここはその通りとして合意形成し、第一関門突破。
当たり前のことだけど、いつも「経営判断だ!」が常套手段であったため、まずは入口からしっかり主導権を握る必要のある相手だった。

いよいよ核心の退職時期と後任責任者の採用についての話を始めた。

私:9月末で退職したいと思います。家族とも話した結果です。
役員:それは困る。他のポストを用意するからゆっくりしてくれ。
私:それでは業務に支障が出ます。今の私の部署のことです。
役員:・・・
私:社内異動でも新規採用でも結構です。
  私の後任を付けていただけるなら12月末まで退職を延期します。
  部署内昇格でも結構です。

もちろん、ここで決着するとは思っていない。

役員:本当に退職するつもりなのか?
私:熟慮した結果で、決意は固く、変わることはございません。
役員:転職先は決まっているのか?
私:いくつかオファーをもらっていますので何とかなると思います。
  (これはハッタリ)

さすがに困惑していた。

私は知っている。
この役員は私が本気で辞めるとは思っていないし、エサがあれば何とかなると思っている。それなりのポストや給料アップで思いとどまるはずだと。
リストラや事業再生の専門家かもしれないが、これまでの社員と一緒にして、甘く見ない方がいいですよ。そう心で呟いていた。

果たして、一旦、役員預かりとなった。

当然のように時間だけが過ぎ去って行ったが、それは想定内のことだった。

私の退職について時間をいただきたいとお願いし、2回目の面談となった。

ここが「本当の勝負所」とわかっていた。
久しぶりに本気になった。
私はこの会社を去る。だけど、飛ぶ鳥、後をにごさず、なのだ。
ここがキレイにならないと、この後、必ず後悔するに決まっている。

私:私の後任についてその後いかがでしょうか。
役員:心配するな。大丈夫だから。

出た!
これに何度騙されて来たことか。

私:具体的にお知らせいただけないと困ります。
  お話いただけなければ、私から社長へ直接お話します。
役員:大丈夫だってば。
私:・・・(じっと目を見据える)
役員:本当に辞めるのか?例えば◯◯長でどうだ?
   丁度手厚くしたいと思っていたところなんだよ。

出た!
管掌範囲なので何とでもなるからね。
でも、全くの検討違いで、問題のすり替えにすぎない。
やはり心を開いた本音の話はできないか…

私:ありがとうございます。素直に嬉しいです。
  ただ、私は退職いたします。
  お話したいのは、今の私の部署の後任責任者のことです。
役員:(凄みを効かせて)本当に、辞めるんですね?
私:はい。(最初からそう言っている)
役員:わかった。今日はもうこれでいいよ。
私:(いやいや!)
   後任について明確にならなければ9月末で退職させていただきます。
役員:・・・
私:後任について会社として採用なり異動を検討いただけるのなら12月末ま 
  で退職を延期させていただき、キレイに引き継ぎし、スムーズな移行が 
  できるようにするとお約束いたします。
役員:わかった。検討を進める。
   とりあえず9月末退職は無しということでいいね?
私:くれぐれも宜しくお願いいたします。
  退職時期の延期については家族に話します。


正直、ぐったり疲れた。笑

かくして退職時期は12月末で決定し、一抹の不安を抱えながらも会社として後任責任者をあてがってくれることになった。
下手したら責任者1名減の中で、スタッフの業務が激増して大変な事になる。

心が晴れやかだ。(本当は、うすぐもり)

迷惑かけることに違いないが、最低限のところまでは持って行けたかも。
不思議なことに耳鳴りを全く気にすることなく面談できたのだった。

価値ある仕事とは何か?

新たな文化醸成、意識醸成に留まらず、属人化を解消し、ナレッジを組織に落とし込むこと。従前踏襲型を払拭し、新たな仕組みを入れ、社内へ浸透させること。
今のこの会社での価値ある仕事はそれ、だった。

ありがたいことに、本当にありがたいことに、多くの協力とひたむきなスタッフの努力により、一つひとつが着実に成果として実を結んでいった。

これこそマネジメントの醍醐味。

スタッフが自走しはじめ、新しい価値を生みだし、組織に落とし込んでいく。新しいスタッフが来ても文化とマニュアルですぐに同じ品質で仕事ができる仕組み作りを進めてくれた。

優秀な部下に恵まれる嬉しさ、喜びをジーンと感じながら、去りゆくまでの総仕上げに入って行った。

信じられないことだけど、結局12月末まで退職を延期したが、後任採用や人事は全く進まなかった。
想定の片隅にあったけど、ここまで徹底して約束を反故にする役員に呆れ果てた。やはり、ここは私のいる場所じゃない。

一方で、私の退職とその理由は、社長はじめ全役員に伝わった。

結果、この役員は管理部門管掌を外されることとなった。
今後、社員エンゲージメントへの悪影響は低減するであろう。

かくして、断腸の思いで、この会社を退職した。

最終出社日には多くの社員が駆けつけてくれた。
本当に嬉しかった。
その時の写真はお互いの感謝に溢れ、笑いあり、涙あり。
生涯の宝物となると思う。

心からありがとう。

さて、かくしてミドル世代で無職となり、新たな挑戦が始まります。

この春、高校生と大学生になる子供たちを抱え、それでも我が家は「自由に生きる」をテーマに楽しく、笑いながら、幸せに生きて行きます。

さーて、生活費、どうするかね、お母さん?

そうねー、大丈夫よ!なんとかなるよ。
お父さんは、お父さんの好きなことしな。
(この応援の言葉は一生忘れることはないと思います。)

だよね!そう言うと思ったよ。ありがとう。泣)笑)



この時代、苦しい思いをしている方がたくさんいらっしゃいます。
お金の問題で、ある意味息も詰まるような恐怖感を抱えながら過ごしてらっしゃる方もいます。
いろいろな困難に直面し、それでも果敢に生きる人たちがいます。

簡単に括ることはできませんし、とても難しいことかもしれませんが、
自分を信じ、そして自分の直感を信じ、時にはダメな自分を認め、心の声に耳を傾けて行けば、きっと道は開ける。

そう信じています。

うまく行かないことに意識を向けるのではなく、
うまく行った先にある明るい未来をイメージし、フォーカスして、行動することがとても大切だと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

まだまだ挑戦は続きます。
進展したら、また続きを書いてみようと思います。
お時間あれば、またお越しくださいませ。

みなさまに、シアワセがたくさん降り注がれますように!



ありがとうございました。
〜とく〜







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