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私の推し面③【山内崇生 先生】

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宝生能楽師が憧れているあの面、
思い入れのあるあの面…
そんな「推し面(めん)」を月に1回ご紹介していきます。
 
第3回目は4月の五雲能で「藤戸」を勤める
山内崇生(やまうちたかお)先生。

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――山内崇生先生にとっての「推し面」を教えてください。
竜右衛門(室町時代の能面作者)作の「十六(じゅうろく)」という面ですね。能「敦盛」という曲がありまして、敦盛は戦で命を落とすのですが、そのときの年齢がちょうど16歳ということで、敦盛の面影として作られた面だそうです。ですから、「十六」という面は若い顔をしています。

本面「十六」
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「十六」裏

普段は面の上にハチマキをつけるので眉毛は隠れて見えないのですが、実際に面に描かれているのは我々のに近い形ですよね。同じ「十六」とされる面の中には御公家さんのように丸い眉毛が描かれていることもあります。
宝生流が使うこの「十六」という面は、ちょっとふっくらして、優しい中にもきりっとした感じがありますよね。品があって素敵なんです。

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――山内先生はこの面を使用されたことはありますか。
これは本面ですので、この先、私が使う機会があるかどうか…。
ちなみに、本番に使う面をつけるのは本番だけです。特殊な演目の「道成寺」や「石橋」などは申合せ(リハーサル)で本番用の面をかけさせていただくこともありますが、普段の曲に関しては本番だけつけますね。

我々が内弟子のとき、「本面は何があっても持って逃げろ!」と言われていました。
実際、そうやって戦火や関東大震災を乗り越えてきていますから。

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――次に、4月五雲能の「藤戸」で使うこちらの面のご紹介をお願いします。
二十余(はたちあまり)」という面です。「藤戸」の中で
 
「はたち余の年並かりそめに立ち離れしをも。」
 
という謡があります。ちょうど二十歳くらいの男性が殺されてしまって、霊として出てくるのですが、そのときにかける面ですね。「痩男」という面を「藤戸」で使うこともあります。

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「二十余」裏

今回の五雲能では、この「二十余」をかけさせていただくことになりました。これは新しい面でして、本面を写した面なんです。本面、写し、別とありまして、比較的新しい面のことを私たち宝生流能楽師は「別」と呼びます。

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――「十六」と「二十余」は同じ若い男性でも全く違いますね。
「二十余」はやせ細って頬がこけて、まるで水から出てきたような感じがします。また、目が下を向いていますし、左右の目が互い違いになっています。生きている人間の顔も左右非対称ですよね。より雰囲気や感情が出やすくなる効果があるかと思います。

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 ――今回の五雲能では「藤戸」を勤められますが、どのような曲ですか。
この話は、平家物語に出てきます。戦の恩賞として児島を賜った武将。息子を殺された母、そして殺された男。殺したことを当然とする武将の立場と、息子を殺された悲しむ母とのやりとり。そして、後の場では、殺された男の尽きない恨みを、杖を使って表現するところが見どころとなります。
 
――役をいただいてどのような印象をお持ちになりましたか。
演じてみたかった曲の一つだったので、やっとこのときが来たな!という感じでしたね。とても難しい曲なので、どのように稽古していこうかなといろいろ考えています。
 
――4月の月浪能特別会はどのような曲ですか。
今回の月浪能特別会は「国栖 白頭」「鸚鵡小町」「道成寺」の三曲です。

■「国栖」について
老夫婦が、大友皇子に襲われ吉野の山中に逃げ延びる、天武天皇と出会います。そのときにもてなした焼き鮎が生き返り、天皇が都に帰ることを示す吉兆だとする話のときに舞われる「鮎之段」。
そして、そのあとに訪れる、老翁(ろうや)が追手の敵を追い払う緊迫した場面。後の場面では華麗なる天女の舞や、力強い蔵王権現の姿が、見どころとなります。

また今回は宗家の親子共演という、特別な公演となります。宗家のご子息の知永くんが初舞台なんです。この初舞台は一回しか観ることができませんので、貴重な舞台になりますよ。
 
――先生の初舞台はどの曲でしたか。
「鞍馬天狗」の花見ですね。当時のことは全然覚えていないですが(笑)。私は5歳から稽古を始めたので、小学校に入ってから初舞台を迎えました。
一般的に初舞台として多いのが私も勤めた「鞍馬天狗」の花見ですね。一緒について行って、みんなと同じことして帰るだけなので、初舞台として最初に出すには安心して出せる曲かと思います。

■「鸚鵡小町」について
歌道に深く心を寄せる陽成天皇が、和歌の名手・小野小町が近江の国関寺の辺りにいることを知り、臣下をつかわし小町の境遇を憐れむ歌を送ります。

「雲の上はありし昔に変わらねど、見し玉簾(たまだれ)の内やゆかしき」

この和歌の「内やゆかしき」を「内ぞ」と一文字変えて、小町は返歌いたします。このことによって、返歌が成立するのです。

「宮中は小町がいた昔と変わらないですが、今のその様子を見たくはないですか?」との和歌に小町は、「今の様子を知りたく、懐かしくおもいます。」と返します。この様なやり取りも見どころです。
また昔を懐かしみながら舞う舞は、素晴らしい見どころとなります。
 

■「道成寺」について
すべてが見どころとなりますが、まずは乱拍子。シテと小鼓との一騎打ちとでも言いましょうか。シテの動きは少ないですが気迫がこもり、小鼓の力強い掛け声とともに演じます。恨みのこもった釣鐘を目指して、寺の階段を一段一段登る様子を表しているとも言われます。

次に鐘入りです。天井に吊り下げられた鐘を落とし、シテはその中に飛び込みます。一歩間違えば、大けがをいたします。鐘を落とす後見、飛び込むシテの息が見事合いますと、釣鐘の中に吸い込まれるように、シテが消えます。命懸けですね。

――4月五雲能で先生が勤められる「藤戸」以外の曲の見どころも教えてください。
■「志賀」について
シテは大伴黒主となります。山桜を愛する黒主が志賀の大明神となったお話です。「草紙洗」という曲目では黒主は悪人ですが、この曲目では神様ですね。後の場面の颯爽とした神舞が見どころです。
 
■「胡蝶」について
梅の花に縁のないことを嘆いた蝶の精霊が、法華経の功徳により、梅の花と出会えるお話です。精霊が喜びの舞を舞う、ファンタジーな曲です。華麗で美しい舞が、見どころとなります。

――最後に読者の皆様に向けてメッセージをお願いします。
コロナの感染状況が随分大変な時期をみなさん過ごしてきて、やっと先日、蔓延防止等重点措置が解除されました。少し安心して外出できるような形になりつつありますので、ぜひ能楽堂にも足を運んでいただいて、楽しんでいただければと思っております。

日時: 3月24日(木)、インタビュー場所: 宝生能楽堂稽古舞台、撮影場所: 宝生能楽堂稽古舞台、4月五雲能に向けて。


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山内崇生 Yamauchi Takao
シテ方宝生流能楽師
1967年、大阪府生まれ。18代宗家宝生英雄、19代宗家宝生英照に師事。
初舞台「鞍馬天狗」花見(1974年)。初シテ「小袖曽我」(1992年)。「石橋」(1998年)、「道成寺」(2001年)、「乱」(2003年)、「翁」(2012年)を披演。

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☆今回の面箱

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おまけ話~能楽サークルの新歓について~
山内先生:今、私は同志社大学の宝生会で能を教えています。
スタッフ:もうすぐ新歓の季節になりますね。
山内先生:そうなんです!ですが、このコロナ禍でなかなか活動ができなくて、新歓は二年間できていないんです。一年生、二年生が入ってきていませんから、サークル存続の危機でして。ぜひOBOGや部員のみんなに頑張ってもらいたいと思います。
 
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