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【読書日記】『存在の耐えられない愛おしさ』

 創作大賞2023メディアワークス賞受賞作「パパと私」が収録された伊藤亜和さんの『存在の耐えられない愛おしさ』が先日発売されました。

『存在の耐えられない愛おしさ』


早速読了したのでその感想を。

私が「パパと私」をnoteで初めて読んだのは創作大賞2023の授賞式の後。受賞者は結果発表のページを見ることができたのだけれど、私は行きの新幹線で小説部門の作品を全部読むので精一杯だった。

「パパと私」伊藤亜和さん、授賞式のコメントで、とても素敵な話し方だったかただよな、と思いながら読んだところ、その筆致の素晴らしさに舌を巻いたのです。

私は常々感じていることなのだけれど、エッセイで家族のことを書くのは非常に難しい。家族に対する感情というものは愛情という単純な二文字だけでは片付かないことが多いからだ。かといって相反する怒りや悲しみがあったところで、それだけでもない。

よいことも悪いことも、その時の感情も現在の感情もひっくるめた上で、自分の視点と描く家族の視点の公平さが必要になると思う。

そうでないと、なんだかべたっとしたものになると思う。もちろんそういうものがいいと言う方もいるのだろうけれど。

この公平さがいわゆる客観性ではないかと思うのだけれど「パパと私」にはそれを感じたのです。そして、ついクスリと笑ってしまう、ユーモアのセンス。

だからこそあのバイオレンスな親子げんかを読んでいてものめり込みすぎず、読み手の私も、まあ、ちょっと見守ろうかみたいな不思議な感覚を味わえるのだと思う。

「パパと私」を読んで私は自分と母の母子関係を思い出さずにはいられなかった。どうも、私と母は性格が合わない。私が子どもの頃の母は嘘をついてでも私や妹を自分の思うとおりにしたいところがあり、私はそれに反発ばかりしていた。

でも今は昔よりずっといい関係になれていると思う。

それが私が結婚をし、子ども産み、自分の家庭を持ったことで私が母の気にしていた「世間」の一部になったからなのかもしれないことを考えると少し複雑ではある。
あるいは私がとうとう大人になったからかもしれない。

けれども緊張しないで電話をできる関係になれたことは単純に喜ぼうと思う。ここにたどり着けることを昔の私は想像していなかったのだから。

そんなことを思いながら読んだ「パパと私」を含む22編。どれをとってもすごくいい! のだけれど特に印象的だったのは「ごめんなさいの代わりに」とても切なくてちりちりしました。

ぜひとも読んでいただきたい。おすすめです。

もしかしたら、見逃している方もいるかもしれないので、糸井重里さんと伊藤亜和さんの対談を貼っておきます。素敵な対談でした。



そして、巻末のジェーン・スーさんとの対談の中に出てきた「エイミーの本の上に、物を置かないで」が書かれているのはこちらのnote。私も大好きな記事なのでおすすめです。

かくいう私も13歳のころから、エイミー(山田詠美さん)のファンなのでした。

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