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高校生に伝えた、これからのリーダーに「聴く力」が必須な理由

2023年3月11日、TEDxKeio High School でお話しする機会をいただきました。慶應義塾の一環教育校である高校4校の生徒たちが開催したものです。用意したスピーチ原稿を、ここに置いておきます。


「全社会の先導者たらんことを欲するものなり」
福沢諭吉先生が、慶應義塾の目的として記した言葉です。社会の先導者、つまりリーダーですね。私は、これからの社会の先導者、これからのリーダーには「聴く」力が必須だと考えています。

聴くとはwithout judgement 

ここでいう「聴く」とはどういうことでしょうか。その前にまず「聴く」ではないことを確認しましょう。そっぽを向いている、手元でスマホをいじっている、途中で口を挟んで遮る。これは聴いてるとは言えないですね。次に「聴いているようで聴いてない」状態があります。仮に相手に向き合い、スマホもしまって、口を挟まず遮らなかったとしても、相手の話を聴いているうちに次に話したいことで頭の中が一杯になりそのために相手の話が全く耳に入ってこない。これも聴いてない。

では聴くとはどういうことか。それは、相手の話していることに心からの関心、好奇心を寄せることです。そして、その関心の寄せ方には2種類あるんです。それは判断をしながらwith judgement で聞くか、判断を一旦留保して聴く、without judgement で聴くか。この2種類です。

ちょっと例を挙げてみましょう。 まずwith judgement 判断をしながら聞く聞き方です。この図で、話し手が「やっぱり子供には小さい頃から英語を学ばせるべきですよね」と意見を述べた時、聞き手は「そうですねそう思います」あるいは「そうですかね私はそう思わないけど」と、口は挟んだりはしませんけれども心の中で、自分の英語教育に関する考えに照らしてジャッジ している。そういう聞き方です。このジャッジは黙って聞いていてもちょっとした表情の動きが手振り身振りに現れてくるでしょう。

もう一つはwithout judgement判断を留保して聴く、です。左と同じように話し手が「やっぱり子供には小さい頃から英語を学ばせるべきですよね」というのに対して聴き手は「なるほどそういう考えなんですね。その背景を教えてください」。ジャッジをはさまずに、話し手の考えについて話題を続けていく聴き方です。この場合に聴き手はもしかすると子供の英語教育に関して全く違う考えを持ってるかもしれないんですが、一旦それは脇に置く。留保する。without judgementで聴いています。

別の言い方をすると、with ジャッジメントで聞くときは聞き手の関心は話し手に向いています。それに対してwihtout ジャッジメントで聴くとき聴き手の関心は話し手の話題、話し手の関心時に向かっています。イメージとしては、話し手の関心事がディスプレイに出ている或いはホワイトボードに書いてあって、それを話し手と聴き手が横並びになって一緒に見てる、こんな感覚です。with ジャッジメントの聞き方は考えが近い話し手とは「そうそう!」と強く共感できます。しかし考えが異なる相手には「違う」とジャッジを下します。一方、without judgement の聴き方では、考えが近い話し手に対してもそうではない話し手に対しても、等しく「ああ、なるほどそういうことですね」と弱い共感を感じます。

話し方にTPOに応じた使い分けがあるように、きき方も相手や場面に応じて適切に使い分けられると良いですね。その上で、このwithout judgement の聴き方は、これからの社会の先導者、これからのリーダーに、特に必須なんです。なぜでしょうか。

聴くことは多様性、イノベーション、変化対応の第一歩

まず、without judgement で聴くことは、話し手一人一人の考えを受け取ること、一人一人の違いを受け取ることだからです。違いを受け取って、初めて多様性を具体的な事実として理解できる。多様性を力にかえる第一歩となります。

次に、without judgement で聴くことは、自分とは異なる考えや価値観と自分の考えの間に橋をかけるようなものだからです。異なる考えが出会うところから、イノベーションは生まれます。異なる考えを論破して自分の主張を押し通したら、自分は気持ちがいいかもしれないけれど新しいものは生まれない。without judgement で聴くことはイノベーションの出発点です。

3つめ。without judgement で聴くことは、自分の考えを一旦脇に置く、留保する態度です。もしかしたらもっと良い考えがあるかもしれない、という知的謙虚さの表れです。テクノロジーも社会のありようも、身近な人の態度も、自分の想定通りには行きません。without judgement で聴くことは、変化や想定外をスピーディーにチャンスにしていくことに直結します。

このように、without judgement で聴くことは、多様性を力に変える、イノベーション、変化対応という、これからの社会の先導者・リーダーが実現したいことの第一歩なんです。

聴かれることでリーダーとしての力が育まれる

さらに、自分の話をwithout judgement でじっくり聴いてもらった話し手は、聴かれる経験を通じて、リーダーとしての力が育っていくんです。

まず、without judgement で聴いてもらうと、自分を縛る思い込みが緩んで新しい考えを受け入れやすくなります。具体的には「動機付け面談」motivational interviewing という、行動科学の分野で最も分厚いエビデンスに支えられた手法があります。ここで行われているのが、まさに without judgement で聴いてもらうことなのです。依存症患者の支援から組織開発まで、幅広く活用されています。

次に、社会の先導者、リーダーには「何をなしたいか」「何はいやなのか」深いところからくる志が必要です。without judgementで聴いてもらうと、話し手は自身の内なる声、inner voice に少しずつ気づいていき、言語化が進みます。私たちには、なんとなく感じたり考えているのに、言葉になっていないことがたくさんあります。本当は感じているのに気づけていないことも、たくさんあります。自分が本当に考えていることを自分で理解するのはとても難しい。聴いてくれる人がいて、初めて言葉になるんです。言葉にしてみて、「ちょっと違うかな」なんて感じながら少しずつ深めて、本当は「何をなしたいか」「何はいやなのか」深いところからくる志が自覚されていくんです。

さらに、リーダーは、行動を起こし問題を解決して行きます。人は、子どもも大人も、without judgement で聴いてもらうと、問題解決力が上がることが、心理学の研究でわかっています。その人が潜在的に持っている問題解決力が、without judgement で聴かれることで解き放たれるんですね。

このように、without judgement で聴かれることで、私たちは、思い込みから少し自由になり、深いところからくる志に自覚的になり、ことを進めるに当たっては問題解決力が上がる。人は、聴かれる機会をずっと持ち続けることで、社会の先導者、リーダーになって行動することができるようになるんです。

まず聴かれた体験を思い出す

ここまで、without judgement で聴く力はこれからの社会の先導者に必須であること、そして、そのように聴かれた人は、社会の先導者、リーダーとしての力を育まれることをお話ししてきました。without judgement で聴くことが、次のリーダーを育む。聴くことの連鎖は、リーダー育成の連鎖となるんです。

では、私たちはどうすればwithout judgement で聴けるようになるのでしょうか。人は、without judgement で聴かれた経験がないと、聴くのは難しい。美味しいラーメンを食べたことがない人には、美味しいラーメンは作れないだろうというのに似ています。ですので、まず出発点は、聴いた経験、聴かれた経験を思い出すこと。


「あなたが最後に誰かの話に耳を傾けたのはいつだったか覚えていますか。また誰かがあなたの話を本気で聴いてくれたのはいつだったでしょうか。誰かが自分の言葉に注意を向けてくれて本当に分かってもらえたと最後に感じたのはいつですか。」

LISTENという本の冒頭の言葉です。

幸い、私たちには聴こうと思えば試してみる機会はいくらでもあるでしょう。ぜひ経験を思い出して、今日から、without judgementで聴く、聴き合うことを始めてください。


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