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グンちゃんファンに捧ぐ、うなぎ違いで脳内パニックの話

2015年4月23日。

私にとって、忘れられない日。
生まれ育った東京から、婚約者の住む浜松へと旅立った日だ。
パンパンに詰まったスーツケースを持ち、母に見送られながら家を出た。

自分がまさか東京を離れる日が来るとは思ってもいなかった。
夫と出逢うまでは、東京で暮らす人と出逢って、
東京で結婚生活を送ることになるだろうと、漠然と思っていた。

それ以外の可能性を、考えたことがなかった。

ただ、夫と出逢ってわかったことがある。

私にとって「どこで暮らすか」は、重要事項なわけではなかった。
考えたことがなかっただけで、可能性はいつでも無限にあったのだ。

そんなわけで、話を2015年4月23日に戻す。

仕事は3月末で退職していた。
この職場が私は大好きだった。
結婚を機に遠くへ引っ越すという選択には、たくさんの別れが伴う。

両親はもちろん、愛猫、友人、仕事、お気に入りのお店、思い出の場所。

ありがたい事に、私はそのひとつひとつにちゃんと別れを告げることが出来たように思う。
退職してから出発するまでの連日連夜、ただひたすら友人知人と過ごし、思い出作りに励んだ。

なので、正直に言えば出発の日は完全に疲れていた。
しばらく一人でいたい・・と感じたほどである。
やりすぎはダメ、絶対。

そんな状況だったので、家を出る時も本当にあっさり、

「じゃあね」

と、母に手を振り、スーツケースを転がした。

このスーツケースがまた死ぬほど重くて、体力気力ともに下降気味の私には修行に思えた。

寂しさや切なさを感じる余裕もないまま、なんとか新幹線に乗った。

その当時、平日の昼下がりの東海道新幹線は、出張客がほとんどだった。
子連れやおばちゃんのグループは、まずいない。

東京駅を静かに発車し、ようやく現実が押し寄せてきた。

そりゃ、寂しさはある。
けど、ワクワクのほうが大きいのも事実。

色んな感情が浮かんでは消える。
ガラガラの車内は、人をセンチメンタルの極限へと誘う。

泣くもんか。
泣いたって、薄気味悪がられるだけだ。

ビジネスマンたちの中にポツンと私、
みんなそれぞれ、目的地までの束の間の時間を思い思いに過ごす。
気持ちを整えて、またタフに動けるように。
・・・・・の、はずだった。

異変に気付いたのは、新横浜を過ぎたくらいだったか。

この時の驚きをどう表現したらいいのか。

ガラガラだった車内が女子でパンパンになっている。

・・・・えっ??
なに???
何が起きたの??

ほんと、少し増えたなんてレベルじゃなくて、
女子で満席になってたのだ。

うそでしょ?
ドッキリ?
私を慰めにきたの?

思わず立ち上がって周りを見回したが、見れば見るほど、女子しかいない。

ビジネスマンたちよ、どこ行った?
消えた・・・の?
こわい!助けてお母さん!!

ここは自由席、恐らくだが、私より先に異変に気付いた勇者たちは、別の車両に行ったのだろう。
すべての車両が女子であふれかえってるとは、
この時はまだ気づいてもいないのだから・・。

この状況を理解すべく、私は周りの女子たちの会話に耳を傾けた。

驚いたことに、自分の連れだけでは話足りず、隣近所の知らん女子同士でも盛り上がり始めてる気配あり。

「あなたも、うなぎ?」

「もちろん!あなたも、うなぎでしょ?」

「どう見てもうなぎだもんね!」

えーーーーーーーーっって。

うなぎ?
どう見ても、うなぎ?
日本語、OK?
私から見れば、どう見ても可愛らしい女子だけど?
ニョロニョロしてないけど?

ねぇ!!!!

っっっは!!!

うなぎと言えば、浜松だよね?
みんなこれから、浜松行くの?
私も今から、浜松行くんだけど!
なんでそんなに浜松が人気になってるの?
テレビでやってたの?
みんなでうなぎ食べに行くの?


脳内パニックになった私は、悔しいが、貝になることを選んだ。
よくわからないけど、私と彼女たちとの間には、うなぎに対する認識に大きな相違があるらしい。

私はうなぎであれほど、盛り上がれない。

そんな状況の中で「あなたもうなぎ?」と、話かけられるのが怖い。
そうです。とも言い難いし、違います。と言ったのに浜松で一緒に下車するのも怖い。

こんなことなら、オフィシャルな恰好をしてくるんだった。
スーツなんかを来てたら、うなぎを食べに行く人には見えないだろう。
ほら、私、ビジネスなんですよ~~ってオーラを、今すぐ、出したい。

お察しの通り、当日の私の服装は、多くの女子たちと同じく、カジュアルの極みだった。

貝になりつつも、やっぱりこの現象がなんなのか知りたくなった。
この人たちは本当にうなぎを食べに行く集団なのか?

いや、違う。
思い当たることがないわけではない。

この日のように、いつもは平和な電車や新幹線がパンクしそうになる時、考えられるいくつかの理由の中に、ライブがある。

「2015年4月23日 ライブ」 

そう、答えは出た。


チャン・グンソクだ。

チャン・グンソクのライブが静岡である。
これしかない。


「チャン・グンソク うなぎ」

衝撃の検索結果が出た。

・・・・グンちゃんは・・・ファンを・・・・うなぎと・・・呼ぶ・・・

静岡に着いた。
女子たちは一斉に降りた。
貝になった私に話しかける人は、一人もいなかった。
勝手なもんで、それはそれで、ちょっと寂しかった。

車内に静けさが戻ってきた。
浜松まではあと20分。

私の新たな日常がこれからスタートする。

もう、なにが起きても大丈夫な気がした。
自分次第で、人生はどこまでも楽しく過ごせる。

生まれ育った街を離れる寂しさや切なさを、
グンちゃん及びグンちゃんファンの皆さんがかき消してくれた。

この場をお借りて、お礼申し上げます。

「どうもありがとう」

ちなみに私は、ヒョンビンのファンです。

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