大変!社員が残業してしまう!

はじめに

突然ですが、採用担当として就職活動や転職活動を考えている人たちを見ると、ブラック企業の常識に頭が侵され、過剰にビビっている人が多いという印象を受けることがあります。

実際、ブラック企業というものが社会には存在し、そのせいで病気になったり、最悪亡くなってしまう方もいるのは事実です。毎年のようにニュースになりますし、ニュースになっていない事件も多くあるでしょう。

一方で、世の中にはホワイト企業も多数存在します。しかし、ブラック企業の暴露話はネット上に無数にありますが、ホワイト企業の実態を示す情報はそこまで多くありません。おそらく、ずっとホワイト企業にいるとそれが普通だと思ってしまうとか、わざわざ自分が恵まれていることを他者にアピールする必要がないとか、そのあたりが主な理由でしょう。

そこでこの記事では、ブラック企業に過剰にビビっている方に向けて、世の中に実在するホワイト企業について、残業の観点を切り出して、どういう理屈でどの程度ホワイトなのかを紹介していきます。

心構えから違う

ブラック企業に関するニュースに慣れ過ぎた人たちは、まず、残業についての基本的な考え方を改める必要があります。すなわち、大前提として、ホワイト企業は従業員の残業時間を短くしたがっているという事実を理解しなければなりません。企業側は残業を減らしたがっているが、従業員が残業してしまう。これがホワイト企業の実態です。

この企業側の基本的な考え方が、ホワイト企業とブラック企業の根底にある違いです。何事においてもそうだと思いますが、実現できるかという問題以前に、やる気があるか否かが最初の関門になるのは当然です。残業を減らそうという経営者の心構えが、ホワイト企業にはあるのです。

では、なぜ企業側は従業員に残業をさせたくないのでしょうか。主な理由は下記のとおりです。

企業が残業をさせたくない理由

理由① 法律を守る責任

まずは法律についてです。
ブラック企業に慣れすぎていると忘れがちですが、法律違反をするというのはそれだけでリスクであり、通常の企業であれば避ける行為です。

特に、大手企業や上場企業は毎年のように、というか多い時は年に複数回、労基署からの立ち入り検査を受けます。そして、労基署に違法残業がバレると、最悪の場合罰金を科されたり、社名を世界中に公表されてしまいます。また、法律以外でも社会的責任を問われることもあります。これらのリスクは取れないと考えるのが、まともな経営者の判断です。

理由② 従業員の健康維持

次に、従業員の健康を守るためです。
ブラック企業に慣れすぎていると忘れがちですが、企業は従業員が利益をもたらしてくれることに感謝し、今後も長く働いて欲しいと思っています。

労働時間の長さと健康状態に相関関係があることは、あらゆる資料から明らかになっています。ホワイト企業においては高い技術力を持っている優秀な社員も多いですから、簡単に代わりの人は見つかりません。したがって、今いる社員を大切にする必要があります。

理由③ 残業代は割増賃金

最後に、残業代についてです。
ブラック企業に慣れすぎていると忘れがちですが、従業員が残業をすると残業代が発生します。

しかも、労働基準法37条1項において、通常の給与を時給換算したものの1.25倍を支払わなければいけないことが定められています。残業をさせずに翌日にその仕事をやらせた方が支払う賃金が安くなるのであれば、そうさせたい。中学生でもわかる損得勘定です。
また、業務量が多すぎてどうしても無理だという場合は、新たに1名採用するのもよいでしょう。その人が定時内に業務をしてくれれば、割増賃金を支払う必要がないからです。

残業させないようにするための取り組み

上記の3項目は、論理的に考えれば誰でも納得できることです。一般的な人よりも頭が良いであろうホワイト企業の経営者であれば、これくらいのことは一瞬でわかります。そして、経営者の手駒として従業員を管理する立場である人事も当然わかっています。

さらに、ホワイト企業には実行力が備わっています。すなわち、残業を減らしたいという理念を実現するために、実際に行動に移します。その内容の一部をこれから紹介したいと思います。

取り組み① 上司に責任を取らせる

いくら経営者や人事が残業を減らしたいと思っていたとしても、現場レベルでは別の話です。大きな企業になればなるほど、経営者や人事と直接かかわる社員は少なくなり、実際には部署の管理職の方針に左右されます。

例えば飲食チェーンなどがその最たる例と言えるでしょう。本社がいくら立派な理念を掲げたところで、現場では店長がすべてを仕切ります。たまにエリアマネージャーがやってきますが、基本的には店長に決定権があります。好き勝手できるわけです。

これと同じことが、ホワイトカラーの事務職でも起こります。上司は、自分に課せられた目標を達成できなければ、さらに上の人に怒られてしまいます。そこで、部下を残業させてでも働かせるという考えに至ります。ええ、ブラック企業ならね。

ホワイト企業では、部下が残業をすると人事が上司を叱責します。正直に言うと、これは並大抵の叱責ではないです。最悪、降格処分にもつながるレベルの厳しい叱責があります。仕事で失敗してもここまで怒られることは通常ありません。
また、企業だけでなく、労働組合から詰められる場合もあります。最悪、晒上げられます。ここまでくるともう、上司としては、「お願いだからさっさと帰ってくれ。頼む。」という気持ちです。そして、ホワイト企業においては上司と部下の関係も良好なことが多いですから、上司に迷惑をかけないように部下は残業を控えます。

余談ですが、このような仕組みですから、過度な残業した人は当然上司にも人事にも嫌われます。そうなるともちろん、出世することはできません。
そもそも、ポジションが上がれば上がるほど業務量は増えます。「平社員の業務ですら手一杯で残業しないと追いつかないような人が、管理職の業務をこなせるはずがない。」と判断されるのも、残業する人が出世できない理由です。

取り組み② 設備の強制シャットダウン

「じゃあサービス残業をすれば、経営者や人事にバレないんじゃないか?」
このように考える上司や部下がいます。

たしかに、いくら上司から残業に関する決定権を奪い、部下が残業している場合上司を叱責する仕組みを作ったとしても、実際に残業しているかどうかを書類上で判断していては意味がありません。

しかし、現実問題として人事が全社員の見回りをすることはコスト的に難しいため、人事に対しては残業していない風に説明し、実際は部下に残業をさせるという方法が横行することがあります。
この場合、建前上は残業をしていないことになっているのですから、当然残業代は支払われません。これがいわゆるサービス残業です。サービス残業をさせれば上司は人事から怒られないし、仕事ははかどるので大満足です。ええ、ブラック企業ならね。

残業を減らすという理念と、それを絶対に達成するという実行力が伴ったホワイト企業においては、設備の強制シャットダウンが行われます。

例えば、早いホワイト企業では20時、遅いホワイト企業でも22時くらいになると、強制的にPCが使えなくなります。もちろん、緊急対応などでその後も業務を続けなくてはならない人もいますが、その場合は、その旨を社内システム上に登録しなければいけません。つまり、その登録をしない限り、物理的に残業ができない仕組みになっています。
なお、会社から貸与されるスマートフォンは使用時間が記録されているので、PCと同様です。

もちろん、PCやスマートフォンを使わない業務ならこっそりと続行可能です。しかし、テレワークの業務ではほぼ全てPCを使うので、それ以外の方法でできる仕事というのはほとんど存在しません。会社から貸与されたPC以外では、セキュリティの関係上、業務で使う社内システム等にアクセスできません。

じゃあオフィス勤務ではどうなるかというと、フロアの電気が消えます。フロアが真っ暗になり、早く帰るように促されます。また、オフィス勤務の場合は、入退室に使うカードキーで時間が記録されますから、この意味でもサービス残業はできなくなっています。

取り組み③ 固定残業代を払う

上司に残業の責任を取らせることで精神的に残業を難しくし、設備を強制シャットダウンさせることで物理的にも残業を難しくしました。

しかし、これでも残業をする人はいます。上記の対策によってサービス残業はさすがにできませんが、仕事が忙しければ残業をすること自体は可能だからです。
だからといって残業を全て一律に不可能にしてしまうと、本当にどうしても今すぐやらないといけない仕事がある場合でも働けなくなってしまい、特に24時間サービスを提供している企業においては自分の首を絞めることになります。いくらホワイト企業とはいえ、やむを得ない場合というのは必ず存在します。

しかし、「どうしても今すぐやらないといけない仕事」が何なのかは、部署によって違うので、一律でルールを決めることが難しいです。そこで現れるのが固定残業代という制度です。

固定残業代とは、残業をしてもしなくても一定の残業代を支払う仕組みです。例えば、「固定残業代20時間5万円」という制度の場合、残業時間が0時間でも10時間でも20時間でも残業代5万円が支払われます。それを超えると別料金で残業代が別途発生するので、例えば残業が30時間の場合は7.5万円支払われます。

これについて一般によく、「固定残業代分は残業がある」という風に思われがちです。すなわち、20時間の固定残業代を支払うということは、最低でも20時間以上は残業をさせないと企業としては損だからです。

この説明は一見するとたしかに論理的です。ええ、ブラック企業ならね。

ホワイト企業における固定残業代は、残業を減らすための制度です。具体的に言うと、残業してもしなくても給料が変わらないという状況を作り出し、社員から残業するモチベーションを奪い、さっさと家に帰すための制度です。

また、人事の業務コストの削減という効果もあります。すなわち、社員個々人の残業代を計算するのが面倒なので、一律で20時間分支払っているということです。それにもかかわらず社員が全員、最低でも20時間残業するのであれば、結局社員ごとの計算が必要になってしまい、制度を導入する意味が全くありません。

結局のところ、固定残業代20時間について、ホワイト企業では「最低でも20時間は残業がある」という考え方は完全に間違っているということになります。
部署や時期によっては忙しい時期もありますが、基本的には「多くても20時間程度」と認識したほうが、まだ実態に近い解釈だと言えます。

従業員が残業をしたがる理由

ここまで紹介してきたように、ホワイト企業においては企業側から見ても従業員側から見ても、残業をするメリットは皆無です。月間20時間どころか、0時間がベストです。あらゆる意味において、残業をすると損な環境が作り出されています。

しかし、それでも残業をする社員がいます。その理由をこれから紹介します。前提として、上司から残業を命じられることはありませんから、全て従業員の自主的な意思によって行われる残業です。

残業する理由① どうしても仕事をしたい

部下が残業をする1つ目の理由は、従業員が仕事をするために残業をするというものです。

もう少し細分化すると、まず、仕事が好きでもっと働きたいという積極的な理由で残業をする部下がいます。仕事が大好きで、もっともっと働きたいというタイプです。ホワイト企業は仕事内容もやりがいがある楽しいものであることが珍しくありませんから、意外とこのタイプは存在します。
また、仕事が大好きというほどではないとしても、「厳密に言えば明日でもいいけど中途半端なところで終わらせたくない」という場合もあります。

一方で、業務が忙しすぎて目標達成のためには残業をせざるを得ないという消極的な理由で残業をする部下がいます。これについては、新商品のリリース前など一時的なものであれば、やむを得ない場合もあります。
しかし、長引くことはありません。ホワイト企業は実行力がありますから、対応が早いのです。具体的には、仕事の量を減らすか人を増やすかの対応が行われます。すぐに行われます。

残業する理由② 残業代が欲しい

残業をする理由の2つ目は、残業代が欲しいからというパターンです。このパターンの場合、社員も別に仕事がしたいわけではないので、そもそも残業時間に会社にとって役立つ活動をしているとは限らないのが特徴です。

通常の労働時間に比べると残業は時給が1.25倍になります。月給23万円の人の場合、通常の時給は1370円。1.25倍すると1700円を超えます。ホワイト企業は職場の雰囲気がよかったり、仕事内容もそこまでキツくありませんから、時給1700円で残業ができるならそこそこわりの良い仕事だと考えられます。
むしろ、あえて昼間にダラダラして、定時後の残業時間に頑張る人もいます。別に仕事が好きというわけではないけれど、割りの良い仕事なので残業をしているという人は決して珍しくありません

残業する理由③ やる気をアピールしたい

残業をする理由の3つ目は、やる気をアピールしたいというものです。先ほどから述べているように、会社も上司も部下に残業をさせたくないと思っていて、あらゆる手段でそれを部下に伝えているにもかかわらず、それを素直に受け取らず深読みし、「残業をすることでやる気があると思われ、自分の評価が上がる」と思っているタイプです。また、「残業している俺カッコイイ」と自分に酔っているタイプもいます。要するに、ブラック企業の常識に頭を犯されてしまった人達です。

この人たちを救うことは、実はかなり難しいです。人事や上司がいくら早く帰るように促しても、信じてくれません。むしろ、頑張って働いているのに評価が悪いのはなぜなのかと騒ぎ立て、なかなか現実を受け入れてくれないのです。

「大変!社員が残業してしまう!」

人事と上司は何度こう叫びたくなったことでしょう。本当に迷惑なので、さっさと帰って欲しい。私がこの記事を書いた真の理由は、この人達の脳内からブラックな常識を吸い出すためと言っても過言ではありません。

あとがき

ここまで書いてきたように、ホワイト企業においては残業ゼロがベストな状態であり、経営者と人事と上司はそれを目指しています。そして、むしろ従業員側が様々な理由で残業をしたがっています。

私も、世の中には上司が部下にサービス残業を命じる企業があることは知っています。会社からPCやスマートフォンが貸与されず、私物を使わされる企業があることも知っています。もちろん、従業員の無知に付け込み、固定残業代制度を悪用して長時間労働させている企業があることも知っています。そもそも残業時間だけでブラックかホワイトかを決めること自体がナンセンスというご批判もあるでしょう。

しかし私は、世の中には意外と残業が少ないホワイト企業も多いことも知っています。特に、労基署からの定期的な監査を受ける大手企業や、企業の評判が株価に直結する上場企業では、会社側も社員の残業を減らすために必死です。ぜひそういった企業に入社して、「むしろ残業したいのに会社がさせてくれない!」という気分を味わってみて欲しいです。

なお私は、この記事で紹介したレベルのホワイト企業が世の中に多いとまでは思いませんが、特別珍しいというほどではないと考えています。少なくとも、大卒の新卒就活生なら基本的に誰でも目指せる程度には存在しています。

これからも応援しています。最後まで読んでいただきありがとうございました。

ほしの

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