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就活ガール#316  賞与の額の決まり方

これはある日のこと、バイト先のコンビニで店長の薫子さんと一緒にシフトに入っていた時のことだ。テレワークが浸透した現在ではすっかり客足が減ってしまったオフィス街の店内で、今日も就活相談会が始まる。

「すみません。相談してもいいですか?」
「ええ、どうぞ。」
「給与が低くて賞与が多い企業ってありますよね。あれってどう思いますか?」
「うーん。一般論としてはあまりいい印象は無いわね。」
「やっぱりそうですよね。賞与って企業側が割と簡単に増減できますもんね。」
「そうね。じゃあ今日は給与額の決定方法を含めた報酬の決まり方について話そうかしら。」
「お願いします。」

「最初に結論を言うと、賞与は基本給×規程の月数×全社的な業績×個人成績で決まることが多いわ。これに加えて特別ボーナスとか組合が勝ち取った分とかで色々と加算されることもあるわね。」
「なるほど。逆に、対象期間内に欠勤があった人などはさらにここから差し引かれることになるんですよね?」
「そうね。日本企業だと6月と12月に賞与がもらえることが多いけど、6月の賞与は昨年度の10月から3月の実績に応じて支給されるのよ。つまり、1月入社の人は対象期間の半分しか働いていないということになるから、賞与の額も半分、あるいはそれ以下になる企業が多いんじゃないかしら。」
「新入社員は最初の6月の賞与の対象期間は全く働いてないわけですから、ゼロ円ってことですか。」
「ええ。もしもらえるとしたら、それは会社の恩情によるものよ。」
「大手企業だと結構もらえる企業もあるらしくて、ありがたい話です。」
「まぁ新入社員なら少しの金額で満足してくれるから、それで会社への忠誠心を買えるなら安いっていう考え方もできるけどね。」
「それは聞きたくなかったです……。」

「それで賞与の計算方法についてなんだけど。」
「あ、そうでした。基本給に対する掛け算で賞与額が決まることはわかります。規程の月数っていうのは、例えば1回の賞与では2か月分とか、2.5か月分とかっていうやつですよね?」
「そうそう。大企業だと年間4か月分から6か月分くらいのところが多いから、1回当たり2か月分から3か月分ってところかしら。」
「はい。それで、全社的な業績っていうのはどう決まるんですか?」
「この辺から曖昧になってくるのよ。目標の利益が100臆円だったとして、150億円達成したから賞与が1.5倍になるというわけではないの。」
「違うんですか……。」
「ええ。この例だと通常は1.5倍以下になるでしょうね。」
「世知辛いですね。」
「まぁそんなものよ。逆に赤字になったからといって賞与が0倍、つまり0円になったら嫌でしょう?」
「あ、そっか。それは嫌です。でもそういう会社もありますよね?」
「大手だとほとんどないと思っていいわ。もちろん世界的な経済危機のように会社経営に継続して深刻な損害がでそうなレベルの赤字だと話は変わってくると思うけどね。」
「安心しました。とはいえ、中小企業だと要注意って感じですね。」

「というわけだから、この全社的な業績を掛け算する部分が、会社による裁量が大きい部分ね。あとは為替レートや天候などのやむを得ない事情の影響を受けやすい部分でもあるわ。」
「ってことは、全社的な業績がどの程度賞与幅に影響するかというのを入社前に調べた方がいい気がします。最低値と最高値、平均値くらいがきになりますね。」
「ええ。OB訪問などで聞いてみるといいかもね。それ以前に、そもそもさっき私が述べた掛け算の式と同じ計算方法かも念のため確認した方がいいと思うけど。」
「あれはあくまでもよくある例であって、それ以外もあるっていうことでしたよね。」
「ええ。」

「で、最後は個人の成績ですか。ここは頑張り甲斐がありそうです。」
「これも企業によるわね。さっきの話と同じく、気になるならOB等に確認した方がいいわ。」
「個人成績が計算に含まれない企業もあるっていうことですか?」
「さすがにそれは滅多にないケースだと思うけど、個人業績による影響度がほとんどない企業ならたくさんあるわ。」
「どういうことですか?」
「まず前提として、個人の成績ってだいたいAからEの5段階くらいに分けられることが多いのよ。Aが一番上で、Eが一番下ね。」
「はい。」
「で、賞与の計算をするときに、Aだと1.5倍になる企業もあれば、1.2倍にしかならない企業もある。逆に、Dだと0.5倍になる企業もあれば、0.8倍にしかならない企業もあるわ。これは全社的な業績についても同じことが言えるわね。」

「あれ、Eはどこにいったんですか?」
「一番下の評価は0倍、つまり賞与0円なことが多いんだけど、これは休職者や懲戒処分者などにつけられるの。事務処理上の都合で作られた評価っていう企業が多いから、実質的にはほとんど存在しないと思っていいんじゃないかしら。」
「なるほど。じゃあ最低限就業規則に反しない形で働いてさえいれば、基本的には一番下の評価は取らないんですね。」
「ええ。」
「で、さっきの話だと、個人評価のブレ幅が0.5から1.5までの企業もあれば、0.8から.1.2の企業もあるんですね。」
「そうよ。数値はだいたいのイメージだけどね。」
「そうすると、前者の企業はハイリスクハイリターン、後者の企業は実力主義と見せかけた年功序列に近いって感じでしょうか?」
「前者についてはそう。後者についてはそうとも言い切れないわ。」
「違うんですか?」

「ええ。まず前者について補足すると、自分の同僚は自分と同じ試験をクリアして入社してくる人ばかりなのよ。中学生まで優秀だった人が高校生になって落ちぶれることがあるように、自分が会社内で無能枠に収まってしまう可能性も十分にあるわ。その辺のリスクを考慮して会社選びをした方がいいわね。」
「はい。」
「で、後者なんだけど、実力主義か否かは賞与だけで判断できるものではないわ。」
「あ、そっか。給与もありますもんね。」
「そうそう。この賞与額の計算だって、基本給に対する掛け算で決まるわけだから、基本給をあげることが賞与を増やすことに直結するのよ。結局は基本給がどのようにして決まるかで、年功序列か実力主義かが区分されると言ってもいいわ。」
「それじゃ、基本給はどうやったら上がるのでしょうか。」

「基本給については、完全に個人評価だけで決まることが多いわね。とはいえ個人評価自体が相対評価だから、結局は他者との競争で決まるんだけど。」
「たまに絶対評価ですっていう企業もありますよね。」
「嘘に決まってるじゃない。」
「嘘なんですか……。」
「ええ。だって基本給は固定費なのよ。人件費の総額が先に決まって、それを社員同士で奪い合うゲームなの。」
「世知辛い……。」
「当たり前でしょう。絶対評価で全員A評価だったとして、財源が無かったらどうしようもないわ。」
「全員がAなら会社が儲かってるはずですし、財源はあるんじゃないですか?」
「それはインセンティブの話でしょう。混同しない方がいいわ。」
「うーん。違いがよくわからないです。」
「インセンティブは特別賞与みたいなものよ。つまり一時金なの。」
「あ、そっか。今期がよくても来期は同じ額貰えるとは限らないってことですね。」
「ええ。今日はわかりやすくするために簡略化して話したけど、実際は多くの企業で評価制度が複雑になっていて、例えば基本給に影響する評価と賞与やインセンティブに影響する評価が別だったりするわ。」
「AとかBとかが複数つくってことですか?」
「そうよ。基本給を決める評価ではA、賞与を決める評価ではCみたいな感じね。」
「でもどっちも同じ基準なら同じ結果になりそうですけど。」
「そうね。だから微妙に基準を変えてるの。基本給の方は日頃の行い、賞与の方は数値目標の達成度とかね。」
「なるほど……。まぁその辺は企業によるところが大きいとは思いますけど、賞与はあくまでも直近の頑張りに対する評価であって、基本給は積み重ねって感じがしますもんね。」
「そうそう。まぁこの辺の給与とか賞与の仕組みはかなり複雑だから、また今度じっくり話しましょう。」
「はい。その時はよろしくお願いします。今日もありがとうございました。」

薫子さんに礼を言って話を終えた。今日は賞与額の決まり方について話を聞くことができた。基本給に対する掛け算で決まることが多いようだが、この係数のブレ幅は企業によって差が大きいらしい。個人の業績についてはある程度自分の努力次第なところもあると思うけれど、会社の業績については大企業であればあるほど俺が関与することは難しいだろう。そうすると、運要素をどこまで受容できるかという問題でもある気がした。そんなことを考えながら、一日を終えるのだった。

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