見出し画像

内定承諾・取消・長期保有・辞退等に関する話

どうも、前回なにも考えずに「内定辞退まとめ」というタイトルで記事を書いてしまったため、まとめの後にこんな長文記事を書くことになり、計画性のなさが露呈してしまった筆者です。

突然ですが、就活界隈ではよく変な大人が「内定はゴールじゃない!」とか偉そうなことを言ってますよね。しかし、実際は、キャリアセンターも、エージェントも、就活テクニック販売業者も、内定が無い人に内定を取らせることで得をする大人ばかりで、内定者保有者への扱いは決して丁寧とは言えません。

また、内定があることを友達等には相談しづらく、その結果せっかく内定を取ったのにも関わらず十分に考えられないまま就職先を選ぶことになってしまう就活生も珍しくありません。内定後の就活生を助けてくれる人が世の中には本当に少ないと感じています。

そこで、この記事では既に内定を持っている人向けに、内定の承諾・取消・長期保有・辞退等に関する悩みを少しでも解決できるよう、網羅的に記載します。また、内定後にどうやって入社先を選ぶとよいかについて私の考えも記載します。

なお、私は過去に内定辞退の合法性について下記記事で書いたので、これを読んでくださっていることを前提に話を進めます。

内々定・内定の承諾

本当に内々定でてる?

  • まず最初に、自分のステータスを明確にしましょう。本当はまだ内定がでていないかもしれません。最終面接合格と内々定、内定は違います。

  • 内定とは、入社することを約束した状態で、法律上は始期付き雇用契約(民法第623条)が締結された状態です。内々定とは、将来内定を出すことを約束した状態です。最終面接とは、選考が全て終了したという状態です。

  • 経団連の指針として、内定は4年生の10月1日以降に出すものとされています。なぜかこの点については多くの企業がこのルールを守っているので、9月30日までは内々定であるという企業が多いです。なので、9月30日までは内定でなく内々定であっても安心して大丈夫です。もちろん、内定を9月までに出す企業もあります。

  • 内定は既に雇用契約が締結されているので、企業側が一方的に取り消しできません。内々定であれば法律上は取り消しが可能ですが、全国的にニュースになり企業の社会的信頼が失墜するので、ほぼ取り消されることはないと思っていいです。一方、最終面接合格というだけではまだ安心できません。

  • 自分のステータスを確認する一番良い方法は、企業に聞くことです。「内々定通知書」とか「内定通知書」という書面やPDFファイルをもらっていて、それに対して承諾の返事をしていると、内々定や内定が確定しています。

  • これらがない場合でも、メールの本文等に内定や内々定の旨が記載されていれば確定しています。対面や電話は録音しない限り証拠が残らないので、油断しない方がいいです。裁判では証拠がない主張は基本的に認められないということを忘れないでください。

  • 「内定者懇親会のお知らせ」や「内定者にオススメの書籍紹介」などが届いたとしても、あなたが内定だと言われてない限りは油断しないでください。

最終面接に合格したが内々定が出ていない場合

  • 企業に確認した結果、内々定だと明確に告げられなかった場合は、まだ内々定ではない可能性が高いです。ということは、取り消されるおそれが云々という話し以前に、そもそも内々定がもらえない可能性があります。内々定を出すか出さないかは企業の自由なので、この場合、後で争っても、基本的に就活生側が負けます。

  • 企業が内々定を出さない理由として、最も考えられるのは、辞退者を想定して最終面接を定員よりもかなり多く合格させているからです。つまり、最終面接合格者の中で辞退者が企業側の想定よりも少なかった場合、最終面接に合格したのに内々定がもらえない場合があります。

  • この場合、最終面接の後に「面談」、「研修」、「懇親会」などの名目で選考が行われたり、先着順で内定を出したり、あるいは最終面接までの内容を再評価して内定を出す人を決めたりします。いずれにしても内々定が出ていない以上は入社できない可能性が残っているので、油断せずに他社の就職活動を続けましょう。

絶対に全て承諾した方が良い

  • 内定や内々定は諾成契約です。わかりやすく言うと、双方の合意があって初めて成立するということです。したがって、内々定通知に対して「承諾します」と答えない限りは、内々定状態にならないということです。回答保留期間はまだ内々定状態になっておらず、最終面接合格状態に過ぎません。

  • 当然、承諾連絡もメール等の証拠が残る形で行ったほうがいいです。重要なことはなんでも証跡を残す癖をつけることをおすすめします。

  • 複数社の内々定、内定を承諾することは100パーセント合法です。違法になることは絶対にありません。

  • 内定を辞退することは憲法22条1項で保障された極めて重要な人権です。憲法で認められている権利を、一民間企業や一個人が勝手に侵害することはできません。したがって、「内定を辞退しない」という約束をすること自体が公序良俗に反し無効(民法90条)であり、どういう工夫をしてもこれはひっくり返りません。

  • 例えば、内定承諾書にサインや押印をした、その書面に「内定を辞退しない」と書かれていた、保証人を立てた、内定者懇親会や内定者研修等に参加した、学校や研究室からの推薦状を提出した、などがよくありますが、全て内定辞退の可否に影響を与えません。安心して承諾してください。

  • 迷っていることを企業に伝えて得をすることはありません。どんなに優しい人に見えても、企業側の担当者は企業からお金をもらうことで毎日の生活が成り立っている人間で、企業と利害関係を共にしています。とにかく内々定や内定の通知がきたら即承諾、これだけ覚えていれば十分だと思います。

  • そもそも、後々辞退があることを想定して動くのが人事の仕事です。さらに、辞退されないように学生の良心を刺激したり、強く𠮟りつけたり、スケジュールを空けさせないように頻繁に連絡したりするのも人事の仕事の一部です。

  • 人事担当者は「ちゃんと引き留めたんですがそれでも辞退されました。」という言い訳を上司にしないといけないので、内心無駄だと思いながらも引き留めているだけです。あまり深く気にせず、とにかく承諾してください。入社先を選ぶことは極めて重大な判断なので、内定直後の興奮状態に短期間で決めてよい問題でありません。

  • なお、内定承諾は早ければ早いほどいいです。法律上は、回答期限がない場合はいつでも内々定の撤回ができます(民法525条1項)。回答期限がある場合は、回答期限内であれば撤回できません。感覚的には回答期限が決まっていない方が優しいと思われがちですが、法律上は、「期限の定めがない=いつでも締め切ることができる」という意味なので注意してください。

複数社承諾後の長期保有

  • 複数社の内定を長期保有することは、法律上認められた正当な権利です。自己分析からはじまり、エントリーシート、適性検査、グループワーク、複数回の面接などを勝ち抜いた勝者に与えられる特権です。理不尽だらけの就活という戦いを必死で勝ち抜き自力で奪い取ったこの権利は非常に尊く、決して侵害されて良いものではないと私は思います。そしてこれは私の単なる意見ではなく、実際に、法律上も入社2週間前までであれば辞退判断を保留してよいこととなっています。(民法627条1項)

  • 学生側にとって、内定辞退を早期に行うメリットは何一つありません。就活において、企業側は解禁時期を守るメリットが何一つないから守らないし、不合格者に早く連絡するメリットが何一つないからだらだらと引き延ばしたり、最悪の場合サイレントお祈りをしてきます。自分の都合を最優先するのはお互い様だと割り切ることが必要です。

  • 他の学生への配慮についても同様です。そもそも企業は辞退者を想定して多めに内定を出すので自分が辞退したところで枠が空くとは限りません。また、他人のことを気にしすぎるがあまりに焦って判断を誤り将来後悔したり、会社をすぐにやめるようなことになっても誰も助けてくれません。そもそも自分の努力で勝ち取った内定なので、何も臆することなく長期保有してよいと思います。

  • キャリアセンターは、学校の内定率をあげるのが仕事です。また、内定辞退者がでると後輩が不利益を受けるということはほぼありえないですが、極稀に発生することがあるのも事実です。したがって、キャリアセンターの職員は早く決断するよう求めてきますが、彼らは彼らの仕事をしているだけなので、無視しましょう。

  • エージェント等やテクニック販売業者の周辺の人達も同じです。彼らは基本的に内定が無い人の味方をすることで成り立っているビジネスなので、内定を取った人に優しくする理由はあまりありません。これらの人たちに世話になったという就活生も多いと思いますが、ここはしっかりと自分の主張を通すべきところだと思います。

  • 総じて、まずは自分が幸せになることが、最も偉大な社会貢献だと私は思います。他人のために自分が犠牲になる必要はありません。どの企業に入社するかは一生を左右する重大な問題であり、そう簡単に、短期間で決められる話ではないと思います。腰を据えてとにかく慎重に検討しましょう。

内々定・内定の取り消し

内定取り消し

  • ここでいう取り消しとは、企業側が入社を拒否する行為のことを指します。学生側から拒否することは「辞退」なので、後述します。

  • 最終面接合格と異なり、内々定と内定はほぼ入社できることが確定しています。特に内定は雇用契約が締結されているので、一般にイメージされているような「正社員は解雇しにくい」というもろもろの規定がしっかり当てはまります。

  • 具体的には、内定の場合、内定通知書に取り消し事由が記載されることが一般的です。具体的には、就活生が卒業できなかった、犯罪を犯した、学歴や年齢等の重大な項目において故意に虚偽の事実を伝えていた、重度の疾患や障害で業務遂行が困難になったなどです。

  • 上記は、基本的にはどれもひっかからない項目だと思います。なお、「その他信頼関係を損なうような重大な事由が発生した場合」みたいな感じでバスケット条項が作られることもありますが、これもよほどひどい場合でなければ適用されないので大丈夫です。例えば、厳密には犯罪にあたらないけど全国ニュースになるような迷惑行為をした場合などを想定して設けられた条項です。

  • ガクチカで話を盛ったとか、内定後もこっそり就活を続けていたとかで取り消されることはないので安心してください。

内々定取り消し

  • 内々定の場合、通知書に上記のような取り消し事由が記載されていないことが多いです。これは、内々定はあくまでも将来内定を出すという約束であり、雇用契約の締結ではないためです。したがって、取り消された後に裁判をすると、数十万円程度のお金はもらえたとしても、内々定取り消し自体は覆らないというケースがあります。

  • とはいえ、内々定を取り消すと全国的なニュースになり、企業は社会的制裁を受けることが多いです。企業側もそこまでのリスクは負えないので、内々定もほぼ取り消されないと思って問題ないでしょう。

  • ただ、この辺は中小企業であればややルーズな会社もあると思います。信用できない場合は、10月1日の内定式まで内々定を複数キープしていた方がより安心だと思います。

内定辞退

  • 繰り返しますが、入社の2週間前までは絶対に合法的に内定辞退できます。詳しくはこちらの過去記事を読んでください。

  • 内定辞退の連絡も、メールでしましょう。できれば担当者個人あてのメールではなく、メーリングリスト宛がよいです。お問い合わせフォームなどから連絡すると自動的にメーリングリスト宛になると思います。

  • メールに返信がない場合は、再度連絡したり、電話をしてメールを見たか確認するとよいです。

  • 逆に、企業から電話をしたいと言われても応じる必要はありませんし、会社に呼ばれても行く必要はありません。特に会社に訪問すると色々と引き留められて面倒くさいので、行かない方が良いと思います。

  • 重要なのはメール連絡が確実に企業に届いていることが客観的に証明できるか否かです。それができる場合は、辞退に必要な手続きは全て完了しています。なお、厳密に言うと、法律上は連絡してから2週間後に完全に辞退が完了します。(民法627条1項)

内定者研修・イベント

出席は任意

  • 内定承諾書にサインした時点で雇用契約は締結されていますが、これはあくまで始期付き契約です。(民法135条1項)

  • したがって、内定者の段階では研修等に参加する義務はありません。また、内定者研修に出席しなかったことで内定を取り消したり、入社後不利益に扱うことは原則として違法です。

  • とはいえ多くの内定者が出席しますし、何を理由に不利益に扱ったかを法廷で証明することはかなり困難なので、事実上は、内定者研修に参加しないことで不利益を受けることはあり得ます。なので、やむを得ない事情がある場合を除き、できる限り参加した方がよいと思います。

  • 一方、参加できなくてもしっかり事情を説明すれば不利益を受けることはほとんどないと思います。遠慮せずにちゃんと伝えましょう。なお、嘘理由で欠席しても基本的にはバレません。

  • 内定者研修が無給で行われる場合もあります。これは法的にはかなりグレーですが、出席への強制度が低ければ違法ではないというのが現時点での結論です。

  • 家に訪問したいとか親や教授に会いたい等の要望に応える必要はありません。TikTok等で踊る必要もありません。

費用負担

  • 辞退した場合、内定者研修の費用を返せと言われることがあります。これは、基本的には返さなくてよいです。

  • 特に、参加が強制である場合は返還の必要はありません。また、任意と言っても事実上は強制に近い場合もあると思います。実際の裁判では、当然そういう事情も考慮されることになります。まずは強制かどうかや、参加しないことで不利益を受けるかどうかなどを企業に確認しましょう。

  • また、業務遂行に必要な研修費用は企業が負担するべきというのが裁判所の判断です。逆に、もっぱら内定者の利益のために行われる研修にかかった費用は、返還しなければならない場合もあります。(民法703条)

  • 具体的には、研修旅行という名目で事実上観光旅行をさせるような企業は要注意です。これは、業務遂行に必要な研修とは言えず、もっぱら内定者の利益のために行われたと判断されやすいからです。

  • 座学など少額の場合はそもそも訴訟を起こそうと考えない企業が多いはずなので、あまり気にしなくてもいいと思います。

  • ちなみに、訴訟をするつもりがないのにもかかわらず「訴訟するぞ」と脅す行為は、脅迫罪(刑法222条1項)や強要罪(刑法223条1項)に該当する場合があります。

  • いずれにしても、数十万円程度の話なので、その程度の費用負担を理由に就職先という一生を左右する決断をするのは間違っていると私は思います。

就職先の選び方

  • まずは内々定承諾後にOB訪問をしましょう。内定者が辞退しないようにフォローするのも人事の仕事なので、お願いすると紹介してもらえると思います。もちろん、個人的に見つけられるならそれでもOKです。

  • 先述のように、内々定や内定内定が取り消されることはほぼありません。なので、OB訪問では自由に聞きたいことを聞いてよいと思います。入社先を選ぶのに必要だと思うことはどんどん聞きましょう。

  • 気になる企業全ての内定者懇親会に参加するのもよいです。そこで同期にどんな人がいるかを確認しましょう。ただし、大企業になると同期の数が多く、サンプル数に偏りがある場合があります。また、自分が入社しても懇親会で会った人が辞退する可能性もあることに留意した方が良いと思います。

  • 配属要望等を人事に送り、どの程度叶えられるかを探るのもよいと思います。とにかく、内々定を出した時点で、企業側としては頑張って内定者を活用する以外の選択肢がありません。今さら雇わないということはできないのです。

  • 将来的な転職を検討している人は、転職者用の求人票を見て、必要なスキルを逆算すると良いと思います。

  • ニュースで出ていたことはできれば社員に裏を取りましょう。例えば企業側が労働組合に賃下げ要求をするというのは一般によくある労使間の茶番であり、実際に賃下げされることは滅多にありません。ネガティブニュースほど広まりやすいので、事実確認をしっかりした方がよいと思います。

あとがき

早期化の影響もあり、2023年3月卒業の人達の内定がかなり出そろってきた時期だと思います。中には複数社の内定を確保した人もいるでしょう。

私は常々、就活はまずは内定を揃えてからじっくり考えた方がよいと発信してきました。内定を獲得した方は、就活は縁だの相性だのというのが詭弁であり、実際は各選考ステップでテクニックを駆使して乗り切る必要があると感じた人が多いと思います。

しかし、企業に選ばれるためのテクニックと、自分が企業を選ぶことは全く別です。書類や面接は得意でも、自分が自分の責任で決断することは苦手だという人も珍しくないでしょう。ここからが自己分析の本番です。

なにか物事を決める時、絶対の自信をもって決定できる人は少ないです。ほとんどの人が長期間悩み、それでも結論が出ず、時間に追われて最後は勇気を振り絞って決断します。

これは就職先選択も同じです。内定の複数承諾、長期間の保有、4年生の3月上旬での辞退は全て合法であり、頑張ってエントリーシートや面接を乗り越えた人にだけ認められた正当な権利です。

また、私は、就職先を1つに絞るところまでが就職活動だと考えています。自らの意思で責任をもって就職先を選び、気まずい思いをして辞退連絡をすることまでが、「就職活動」という通過儀礼の一部ではないでしょうか。

「むしろ内定後の方が悩んでいる」という仲間はたくさんいます。私が言えることは所詮法律論や一般論に過ぎないので、もっとあなたのことを良く知っている家族や友人に相談した方がよいと思います。あるいは、ネット上で同じ業界で内定を持っている人と相談するのもよいでしょう。企業と自分という二つの側面からよく考えて、最良の決断をしてください。

せっかく内定をとっても入社できる会社は1つです。つまり、最後の最後で失敗したら全てが台無しです。結論を急ぐ必要は全くないですが、のんびりしているとすぐに入社式はやってきます。最後まで気を抜かずに頑張ってください。これからも応援しています。

ほしの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?