就活ガール#315 面接に遅刻したら
これはある日のこと、ゼミ室でアリス先輩に就活相談をしに来た時のことだ。
「すみません。この前面接に5分くらい遅刻してしまったんですけど、こういうのって不合格になりますかね?」
「理由は?」
「忘れていたからです。シャワーを浴びている時にアラームが鳴って、慌てて出て準備したって感じですね。」
「それで5分の遅刻で済んだのはすごいわね。」
「10分前に鳴らしてたんですけど、シャワーの音にかき消されてアラームが聞こえづらかったんです。それで気付いた時には2分前くらいになってしまってましたね。で、そこから急いでスーツを着たりして、パソコンを立ち上げて、なんとか5分の遅刻で済んだって感じです。まぁ髪が濡れたままだったので、面接官にはいろいろとバレてしまってると思いますけど。」
「そこまで詳細な事情は聞いてないわよ。」
「あ、はい。すみません。」
「で、結論から言うと5分の遅刻くらいなら結果に影響するとは限らないから、深く考えなくていいと思うわ。」
「影響しないとも限らないってことですか?」
「そりゃあそうでしょう。遅刻してるんだから。影響しなければラッキー、そうでなかったら自分が悪いっていう風に考えるのが基本スタンスよ。」
「はい。言われてみれば仰る通りですね。そもそも俺がやらかしてるので、良くてゼロ、基本はマイナスっていうのは忘れないようにします。」
「で、影響したとしてもそれをはっきりは言わないわよね。遅刻したから不合格ですって開示してくれる会社はほとんどないと思うわ。そもそも面接って合否の理由、特に不合格の理由は教えてくれないでしょう?」
「たしかにそうですね。面接内容が理由で落ちたのか、遅刻が理由で落ちたのか、あるいはその複合なのか、考えても無駄なんですかね。」
「そうね。だから遅刻したとしても気にしすぎずに普通に取り組んだ方がいいわ。もちろん、最初に謝ったほうがいいと思うけど。」
「申し訳ございませんっていえばいいですかね。」
「基本はその程度で十分ね。で、もし理由を聞かれたらシャワーを浴びてたとかって答えればいいわ。さっきみたいに長々と話すと言い訳がましいとか話が長いとかって思われる可能性があるし、何よりもただでさえ短くなっている面接時間をさらに短くしてしまうのは損だから、端的にね。」
「その辺のバランスが難しそうですね。理由を説明しないとただの怠惰な人間と思われる可能性もあるし、一方で説明しすぎると悪印象を与える気がします。」
「そうね。この問題は遅刻だけじゃなくて、なぜFラン大学に進学したのかとか、なぜアルバイトをすぐに辞めたのかとか、なぜ成績が良くないのかとか、全部そうね。何か後ろめたいことがあるときに隠し過ぎると面接官はさらに聞いておかないと不安だなって思うから、さらっと後ろめたい理由を述べた後に、さっさと話題を変えてしまうのが定石よ。」
「なぜFラン大学に進学したのかって質問だと、受験に失敗したとか深く進路を考えてなかったとかっていうことを短く述べて、今の大学でどう学んだのかとか何が変わったのかっていうのを主張する方向に持って行くのが大事でしたよね。成績が良くない理由だったら、怠惰だったとか授業が難しくてついていけなかったとかを述べた後に、課外活動に力を入れていたっていう流れに持って行く感じでしょうか。」
「そうそう。それと同じで遅刻理由についても、さらっと『時間を勘違いしていてシャワーを浴びてました。シャワーの音でアラームが聞こえなかったです。すみません。』みたいに述べて、そこからさっさと話題を変えるといいと思うわ。」
「あ、たしかに『忘れていた』よりも『時間を勘違いしていた』のほうがよさそうですね。」
「ええ。細かいけどそう思うわ。実際、面接の存在を忘れていたというよりも、日付を含めていつやるのかを忘れてたってことがほとんどでしょうし。」
「はい。」
「で、話題を切り替える方法だけど、『なんとか挽回できるよう頑張るので話を聞いてください。』という嘆願っぽい流れにするのがいいんじゃないかしら。」
「なるほど。『これから頑張ります』だとちょっと押しつけがましいですもんね。」
「そうそう。企業側としては、遅れてきた時点でもう面接を打ち切ってもいいのよ。だからあくまでも温情で受けさせてくれませんかっていうスタンスで話をするのが必要ね。そうやって下からお願いすれば、遅刻時間や社内制度にもよるでしょうけど、許してくれることが多いんじゃないかしら。」
「わかりました。よく考えたらこの辺は通常の人間通しのコミュニケーションと同じですね。」
「そうね。でも、面接が始まったら遅刻したことは忘れて普段通りやる必要があるわよ。」
「どういうことですか?」
「遅刻したことを引きずっていつまでも弱気そうにしていたりとか、くだらない自虐ネタを挟んだりとか、焦って早口になったりとか、そういうのは良くないってことよ。」
「なるほど。わかりました。」
「他に遅刻関連で気になることはある?」
「インターンシップやその選考、説明会等に遅刻した場合、そのことが本選考に影響するかが気になっています。」
「まず説明会とか選考についてはあまり気にしても仕方ないわね。その結果インターンシップに参加できてるなら本選考には関係ないと思うし。」
「それはそうですね。インターンシップに参加できてるということはそれ以前のやらかしについては全てクリアになってるか、少なくとも総合得点では合格ラインに達しているということだと思います。」
「ええ。だから、インターンシップの選考に遅刻してインターンシップに参加できなかった場合とか、インターンシップの当日に遅刻してしまった場合が気になるってことよね?」
「そうですね。遅刻以外にもメールの誤字とか体調不良とかいろいろとありますけど、まぁ要するに本選考前に迷惑をかけたり不快感を与えてしまった場合の話です。」
「なるほどね。インターンシップの内容を本選考に関連付けるということは、優遇措置が取られるなどいい意味でも言えることだけど、逆に悪い意味でも関連付けられてしまうってことだものね。」
「そうなんですよね。せっかくやる気を出してインターンシップに参加したのに、それが原因で本選考に悪影響を与えると本末転倒な気がします。まぁ直接的な原因はインターンシップに参加したことではなくて、遅刻とかをしたことだとは思いますけど。」
「そうねぇ。インターンシップにおける遅刻等の業務遂行以外のやらかしについては、もちろん企業によるんだけど、あまり関係がないと思っていいと思うわ。」
「よかったです。大手企業でも大丈夫でしょうか?」
「ええ。むしろ大手企業の方が大丈夫だと思うわね。中小企業は担当者の気分次第っていうことが多いから、運によるわね。」
「大手企業だと許すっていう方針で社内合意ができてるってことなんでしょうか。」
「事前に合意してるかはともかく、複数人の合議制で決まりやすいのが大手企業の特徴よ。で、そういう時に、わざわざ他人に厳しくする人があまりいないのよね。」
「そうなんですか。」
「ええ。うっかり遅刻したりすっぽかしたりするくらいのことって社会人でも多くの人が経験してるし、ちゃんと反省して事情を説明すれば、他の人と同じ土俵で選考するくらいはいいんじゃないかっていう社内の結論になりやすいわね。」
「なるほど。正直、面接官が遅刻してくることもありますしね。」
「ええ。他人に厳しくし過ぎると自分にも厳しくされて損っていうのは、ある程度の頭脳を持った人なら概ね皆わかってるわよ。」
「はい。俺も面接官が遅刻してきたくらいでは気にしないようにします。」
「フフ、それがいいでしょうね。あと、本当に反省しているか否かって、謝り方とかでなんとなくわかるでしょう?」
「はい。そうですね。本心から申し訳なさそうに謝るのも重要だと思います。」
「ええ、頑張ってね。」
「今日もありがとうございました。」
そこまで話して会話を終えた。今日は面接に遅刻してしまった場合について話を聞くことができた。大前提として、遅刻はしない方がよい。これは当たり前だ。しかし、どうしても失敗してしまうことはあると思う。そういう時は、誠実に、しかし短く謝ることがポイントだと思う。限られた時間を自分のアピールに繋がらないことに使っても無駄なので、さっさと話題を変えるよう仕向けるのがベストだろう。
そして、しっかりと謝ることができれば、選考結果にはほとんど関係しない場合も多い。そもそも何が原因で不合格になるかなんて本人にはわからないのだから、気にしすぎても仕方がないのだ。失敗しても平常心で取り組み続けることが大事だと改めて思い、一日を終えるのだった。
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